第4話

そして半月後――


カレンは早朝から出かける準備をしていた。

もちろん月に一度の実家へ帰るためだ。

一泊だけ実家で過ごし翌日には侯爵邸へ戻る。

ただそれだけの事なのだが、カレンはなぜだかソワソワしていた。

屋敷の使用人たちは、カレンのその様子を見て、そんなに実家に帰りたいのだろうかと落胆するほどだった。

そんな使用人たちの心情を知る由もないカレンは、逸る気持ちを抑えながら馬車へ乗り込む。

帰りは明日の昼頃と執事のグレイスに伝えると侯爵邸を後にしたのだった。




カレンが急ぐのには理由があった。


何故なら――


「ただいま戻りました。」


玄関の扉を開けながらカレンが足早に入ってくる。

それを待ちわびていたかのようにオーディンス伯爵が出迎えた。


「カレン待っていたよ。」


「アレはどうしてますか?」


「ああ、いつものところだ。」


父の返事を聞くとカレンはすぐさま自室へと向かった。

部屋に入ると嫁ぐ前のままの懐かしい部屋があった。

お気に入りのソファにお気に入りのベッド。

全てカレンの為に用意された調度品だ。


カレンは懐かしさに目を細めながらまっすぐにクローゼットへと向かった。

大きな扉を開けると広いクローゼットの中に入る。

部屋の突き当たりを右に曲がると小さな人一人くらいが通れる程の扉があった。


ゆっくりとその扉を開くと中には大きな細長い革張りの箱があった。

丁度旅行鞄を横に半分にしたような長さのそれはその中にぴったりと収まっていた。

取っ手を取り徐に取り出すと一言。


「ただいま。」


優しい眼差しで箱へと語りかけるのであった。






その夜――


長い漆黒のローブを被った人物が宮殿へと足を運んでいた。

その者は裏口の門番に首から提げているペンダントを見せると難なく通された。

そのローブの人物は通いなれた通路を通って目的地の場所へ向かう。

手には革張りの細長い大きな箱を抱えていた。


「よくぞ参った。」


目的地の部屋へ辿り着き中へ通されると、部屋の中央に居た人物が嬉しそうに声をかけてきた。

ローブの人物は深々と頭を下げる。


「礼などはいい早くこちらへ。」


高圧的な態度を取る部屋の主は待ちきれないといわんばかりに座っていた豪華な椅子から腰を浮かせながらローブの人物を急かした。

ローブの人物は一礼すると部屋の主の目の前に移動する。

そしてテーブルを挟んで向かい合うと、徐に箱をテーブルに置き留め具を外し中身を見せた。

途端、部屋の主から「おお」と感嘆の溜息が漏れる。


「うむ、相変わらず素晴らしい。」


「恐れ入ります。」


ローブの人物は恭しく頭を垂れる。

それもそのはず目の前の人物はこの国の王であった。


クリスティン・エバノス・ウィステリア三世 ―― このウィステリア王国のれっきとした国王陛下だ。


この国のトップである人物が何故こんな場所でこんな怪しいローブ姿の人物と密会などしているのかというと――。


「本当にこの剣は素晴らしい。」


陛下の目の前の箱の中にはそれは素晴らしい意匠が施された一振りの剣があった。


そう彼は剣マニアだったのだ。

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