クラス転移から始まる異世界学園ストーリー
中野 恭太
第1話 異世界へ
中学3年生の12月25日、クリスマスの日に事件は起きた。
その日はクラスでクリスマスパーティを開いていた。
昼休みから準備を始め、5時間目と6時間目の2時間を使って楽しむ予定だ。
お菓子やジュースを生徒が持ち込むのは校則違反になってしまうため、先生が用意してくれる。
もちろんタダではない。二学期期末試験を全員が赤点を回避するのが条件でこのパーティーは開かれる。
一人でも赤点を取ったら中止なわけだが、皆死に物狂いで勉強して無事赤点を回避することが出来た。
僕は仲の良いクラスメイト、『神崎彩乃』『松下美咲』『
「皆楽しそうだねー。 勉強頑張ったかいがあったかな?」
松下さんが下から覗き込むようにこちらを見てくる。
「お前は普段から真面目に勉強してないからだろ。 地頭は俺よりいいくせに……」
航輝くんは呆れているようだ。
「まあまあ、無事赤点回避出来たから良かったってことで」
彩乃さんはいつも通り二人の間に入ってなだめる。
そしてこの後はいつもお決まりの展開だ。
「影野くんはどう思う?」
「信はどう思う?」
松下さんと航輝くんは同時に、同じ意味合いの質問をしてくる。
二人は真似するなとか被せてくるなとかまた言い争いが始まろうとしているのですぐに答えなければ。
「喧嘩両成敗ってことで」
僕は笑顔でそう言った。
普段笑うことはあるけど、満面の笑みになることは少ない。
そんな僕がこんなことで笑顔を見せるから、二人はそれがわざと見せているということは簡単に想像できる。
二人は僕が怒っていると勘違いして、急いで握手をして笑顔を見せる。
「喧嘩なんてしてないよな、美咲?」
「ええ、見ての通り仲良しよ」
二人とも仲が良さそうで良かった。
「別に怒ってないんだけどね」
僕は舌をぺろりと出して言う。
「怒ってないのかよ!」
航輝くんが僕の頭をわしゃわしゃしてくる。
これもいつも通りの日常というやつだ。
そんなやりとりを何回か繰り返し、時間はゆっくりと過ぎていく。
50分が経ったタイミングでチャイムが鳴った。5時間目が終わったからだ。
「ここで一旦休憩を挟みます。トイレに行ったり教室を出る時は、お菓子や飲み物は絶対に外に持ち出さないで下さいね〜」
僕たち四人は特に用事がなかったため、席を立たたずに雑談を続けていたがクラスメイトからおかしな声が聞こえる。
「先生ー、ドアが開かないんですけどー」
どうやらドアの故障らしい。でも不思議だ、ドアが外れたり変な音がすることはよくあるが、完全に開かないのは初めてだ。
「本当だ。どうしてだろう……」
僕らの担任は20代の若い女の先生で、お世辞にも力があるとはいえない。
クラスの中でも野球部に所属していた『佐々木大貴』が代わりに開けようとする。
「なんだこれ。びくともしない……」
佐々木くんでも動かないと知って、クラスの皆は次第に焦り始めた。
「おいおい、大丈夫なのかよ」
航輝くんも不安そうな顔をしている。
でも、僕らは甘く見ていた。先生はスマホを持っているから連絡は出来るし、ベランダから隣のクラスに入って廊下に出ることも出来るからだ。
「みなさん一度落ち着きましょう。全員席に着いてください」
流石に先生は落ち着いている。
「ベランダから隣のクラスに助けを求めてみます。みなさんはこのままの状態で待機していてください」
そう言い終えると先生はベランダの方へと歩いていく。
先生がベランダの鍵を開けようとした時だった。
開かないはずのドアが勢いよく開いた。
バンっという大きい音がして、全員の意識が前側のドアに集中する。
時間にして5秒ほどだが、体感ではそれ以上の時間が経つのを感じる。
きっと誰かが開けてくれたのだろうと、みんながそう思って安心し始めたがそれは一瞬で壊れる。
開いたドアから入ってきたのは先生でもなく生徒でもなく、土で少し汚れた黒のマントを羽織った人が一人入ってきた。
予想外の人物の登場に、誰も声が出なかった。
こうゆう場合は悲鳴を上げるのがセオリーなのだろうが、実際は声も出ない。
身長は150センチ後半、男にも女にも見えるため性別は判別できない。
その人物は教卓に立つと、教室内を一度ゆっくりと見渡した。
まるで誰かを探すように。
「あなたは、一体どこから学校に入ってきたんですか?」
先生はベランダ入口から教室のちょうど中央の位置まで来てそう言った。
その人物は何も答えなかった。先生の方を向いているかと思ったが、先生の右斜後ろに座る僕を見ていた。
「何が目的ですか……。人質なら私がなります。生徒は解放してください」
この時の先生の言葉は今でも覚えている。本当に良い先生に出会えたと思うよ。
その人物はマントの中から水晶のような物を取り出した。
だが、透明で美しい水晶とは違い、紫色の禍々しいオーラが球体の中で暴れている。
明らかに異質。この世の物とは思えないそれは、暴走を始める。
開いていたはずのドアがいつの間にか閉じていて、閉じ込められていた紫色のオーラは解放されたように教室内に充満していく。
動けずにいたクラスメイトもみんなパニックになり必死に外に逃げようとする。
だがドアは開かず、ベランダと窓の鍵も開かない。椅子でガラスを割ろうとするがそれも失敗に終わる。
僕は一緒にいた3人と体を寄せ合い、覚悟を決める。
多分、死ぬ。
さっきから紫色のオーラが体に纏わりついてきて、気味が悪い。
僕らを飲み込むつもりなのか……?
その考えは当たっていたみたいだ。
まるで沼にはまったんじゃないかと思うほど足場が悪い。どんどん下に飲み込まれていく。
クラスメイトたちは必死で上に行こうとするが、逆にどんどん飲まれていく。
僕の体は首から下はすでに床に飲み込まれていた。最後の力を振り絞ってあの人物を見る。
なぜ僕のことを見ていたのか。それがどうしても気になる。
僕の体が口まで飲まれたところで、その人物はマントのフードを取って顔を見せた。
「なん、で……」
なんで君がここにいるのか。なんでこんなことができるのか。いやそもそもあの姿はおかしい。
僕の脳内はグチャグチャに情報が混ざって思考が停止する。
そして、彼女は一言僕に言った。
「ごめんね、信くん」
その言葉が、この世界で聞いた最後の言葉だった。
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