第2話 逢。

彼女は、突然僕の前に現れた。

僕がアルバイトをしていた喫茶店に。

冬だと言うのに、ショートパンツで、上はGジャン。

注文したのは、ホットハニーレモン。


「お待たせしました」

カシャン…と彼女の前にハニーレモンを出した。

「ありがとうございます」

(あ…敬語…)

僕は、何となくそんなところが気になった。


彼女は、ほっぺを真っ赤にして、小さな手を少し震わせ、そっとカップを持ち上げた。

僕は、彼女がカップを運ぶくちびるに目をやった。

すると、ふと彼女が僕に視線を向けた。

「あ…」

思わず、声に出た『あ…』に、彼女は少し微笑んだ。


歳は…十七歳の僕の少し年下だろうか?

茶髪だから、高校生だろうとは思ったが、顔はかなり幼い。


「あの…お砂糖…ありますか?」

「え!?あ、は、はい!ただいまお持ちします!」

僕は、慌てて砂糖を取りに、カウンターに向かった。


「どうぞ」

また、その彼女のもとに戻り、砂糖を差し出した。

「すみません」

(あ…また敬語…)




この喫茶店は、はっきり言ってそんなに混まない。

常連さんがほとんどだ。

だから、彼女が店に入って来た時、思わず目を奪われたんだ。

正直、僕のタイプだった。


この日も、店は暇で、常連さんがカウンターでマスターとずーっと話をしている。

その一人を除いては、お客さんは彼女だけだった。

彼女は、ハニーレモンだけで一時間、ずっと窓の外を眺めていた。


「お水、いかがですか?」


ほとんど飲み干された紅茶のカップを両手に抱え、じっと動かない彼女に、僕は三回目のお水のお替りをうかがった。


「あ…すみません…もう少し…いても良いですか?」

「あ、はい。構いません。ごゆっくりどうぞ」

内心、ドキドキしながら、自分では格好つけたつもりで、返事をした。


(誰かと待ち合わせかな?)


そんな事を考えていた僕に、ある名案が閃いた。


カシャン―――…。


「…え?」

「サービスです。暖房、一応効いてると思いますけど、寒そうなので…」

僕は、もう一杯、ホットハニーレモンを机の上に置いた。



その後、僕は、とんでもないセリフを耳にした。



「私と、セックスしたいんですか?」


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