第6話 嫌な予感
家でやるべきことを済ませた俺達は、親睦も深めてターミナミアを目指すことにした。
ハッシュ村からターミナミアまでは魔道列車という乗り物で行くことができるわけだが、これがまた便利で、各駅の間を列車という乗り物が自動で行き来してくれる。馬車に乗ればいいじゃんとかそんな話も出るけど、魔道列車をバカにしちゃいけない。
何が凄いってスピードこそ馬車に負けるけど、スィーっと線路に沿って進むもんだから揺れが馬車に比べてほっとんど無い。そのうえ、列車自体が窓を閉じてるので磯臭い匂いとか日光をほぼ遮断してくれる。結果、日焼けやら鼻水やらに悩まされなくてすむ。
にしてもこの区域、山に囲まれてるはずなのに海っぽい匂いが強いんだよね。ほんとになんでなんだろうね。
そういうわけで、外出当日。
俺、ニア、バハムートの三人? 二人と竜一頭? は魔道列車に乗ってターミナミアに到着。
ターミナミアはハッシュ村から一番近い商業都市。システリア程ではないが人はにぎわっているし、露店も沢山開かれていて武器やら防具やら、あとは日用品とかも幅広く扱っている。必要なものは大抵買えるわけですね。あと、システリアに比べて飯がべらぼうに旨い。
折角交友を広めるなら色々な所を見て回りたいし、お互いの趣味趣向もわかれば今後やりやすいんじゃないかと思っての判断だけど、うまくハマりそうだな。あと、飯が食べたい。
「システリアに比べると人が少ないな!!」
「当たり前でしょ。あそこは人口が一番多い国の一つよ。ターミナミアもそこそこの大きさはあるけど、そこと比べたら流石に負けてしまうわね」
「そうなのか。ちなみにイモウト殿は行ったことあるのか?」
「いいえ、まだ無いわよ?」
その時、竜の目がキラッキラに光った。
「ほ~ん、ふぅ~ん」
「な、なによ」
「いいや、何でも? システリアはたのしいよ?」
ま、まさか。こいつシステリアに行ったことでマウント取ろうとしているのか。なんて奴だ、王と呼ぶにはあまりに器が小さすぎる。
案の定ニアはむかっ腹が立ったのか、ジト目でこちらを睨みつけてくる。
「ちょっとお兄ちゃん、この子かなりムカつくんだけど」
「すまん、許してやってくれ。長い年月を生きてきたせいでちょっと精神が退行してしまったんだ」
「ふふん、イモウト殿。してぃーがーるはすぐに怒ったりせんのだよ。このような謂れのない罵倒も簡単にスルー出来る」
「メシに変な名前つけたの指摘したらものすごく凹んでたけどな」
「そんなことあったか?」
「
「……卑怯者め。あと、イモウト殿。ニヤニヤするのはやめてもらいたい」
「シティーガールだからスルー出来るんでしょ?」
「ぐぬぬ」
本当にぐぬぬって言う奴、初めて見た。
ただ、これ以上追撃はしない。めんどくさい状態のこいつに関わるとロクなことにならないからな。
それからどこ行きたいとか、あれ買いたいとか言いながらだらだらと歩きまわった。途中ニアが竜の無神経さに何回かピキピキしてたから内心ヒヤヒヤだったけど、甘い物を口につっこんでどうにかやり過ごした。いやー、怖かった。
そんなこんなで時間をつぶす内に、とうとう街のど真ん中へたどり着いた。
ここも武器屋やら服屋やら色々な店が客寄せをしていて、その横には切れ味の良さそうな剣とかが前に並べられている。中心地というのもあって露店よりはいいものを置いてそうだ。中には女子二人の惹かれそうな店もいくつか見つけた。服とか欲しそうにしてたもんな、ニア。
よし。俺の目的地もこの奥にあるし、ここらで一旦分かれるか。
竜とニアを二人にしてもいいか迷ったけど、ある程度仲良くなっているみたいだしもう大丈夫だろ。俺も早く用を済ませて、いろいろ買いたいし飯食いたいし。
ニアにある程度のお金を渡して、
「俺はここで一旦分かれる」
「え、お兄ちゃんいっしょに来ないの!?」
「ぬ。ゴシュジン、どこかへ行くのか?」
「そうだな。ちょっと用事があってな」
「えぇ、折角一緒に来たんだからいろいろ見て回ろうよ!! 後になんないの!?」
「そうだそうだ!!」
いやぁ、心の底から一緒に行きたいんだけど外せない野暮用があってですね。
丁度正午ぐらいだから人も出払ってるだろうし、人が少ないうちに終わらせておきたいんだよね。
理性で本能をぶっ倒し、心の中で血の涙を流しながら丁重にお断りして、竜には絶対に無神経な態度を取らないよう念押しして、ひとりある場所へ向かった。
「早めに終わらせよう。あまり過去のことは思い出したくないし」
密集した人垣たちを潜り抜けて急ぎ足で目的地を目指す。
そうして着いた先には、広さはあるもののどこか使い古されたお屋敷が建っていた。
そう、ここがギルドターミナミア支部。俺が冒険者となり、アマテラスの一員となった場所。
少しだけ開きの悪くなった扉を開けカウンターを目指す。そこにはかつてお世話になった受付嬢があの日と変わらない姿で冒険者達の対応をしていた。
やっぱり顔見知りに会うと緊張するな。嫌な汗をかいてしまう。逃げ腰になりそうな気持を奮い立たせて、声をかけた。
「すみません、ちょっとよろしいですか?」
「はい、少々お待ちくださ……って、キール!? どうしてここに?」
「パーティを脱退したくてここに来ました」
先ほどまで無表情だった受付嬢は一瞬だけびっくりした顔をして辺りをきょろきょろと見回す。
すると慌てた様子でこちらへ近づき、小さな声で俺に口添えしてきた。
「ちょっと来てもらえる?」
そう言って無理矢理手を引っ張られた。
強い力で急に引っ張られたので軽くバランスを崩しかけたが、お構いなしに強引に連れてかれた。そして、受付の裏に通され、書類とかを管理している部屋に着いた。
その後、受付嬢さんは書類をかき集めて机にドンと置くと、用意されたイスに座るよう促した。
「ごめんなさい、一個だけ確認させて。あなた、本当にキール・シュナイダーよね?」
何故そんなことを聞いたのか全くわからなかったが、そうだと答えた。その後ギルドカードを掲示するように言われたので、言われた通り懐から取り出し見せてやった。
「……うん、本人だわ」
受付嬢さんは困惑した様子で何度も資料とギルドカードを照らし合わせる。しかしめぼしい情報はなかったようで、腑に落ちない顔をしながら俺に尋ねた。
「キール。メンバーから死亡届が提出されているんだけど、これはどういうことなの?」
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