サクラをキミと
木山翼
第1話
春休みになってから数日たったある日、普段聞かないような音がスマートフォンから鳴った。
「電話か珍しいな」
しかし誰だろうと思った。仲がいいやつとはアプリで連絡を取ったり通話をしたりしてるし基本連絡はアプリが主流になってきてる。
そう考えつつ電話に出ると
「もしもし高森先輩ですか?私、中村です。志望校合格しました」
「おめでとう、それで電話をかけてきたってことはそれ以外にも用件があるんだろ」
「そうなんです。先輩は約束って覚えていますか?」
約束なんかしたかなって考えてると、ひとつだけ思い浮かんだ
「よくそんなこと覚えていたな。すっかり忘れてたよ」
それは、中村が以前成績がうまく上がらなかった時に前より上がったらジュースを奢るっていう約束だ。確か志望校に受かったら食事を奢るって約束してたなぁ
中村の成績的に志望校のレベルはかなり高かったから半分冗談で言ったことを覚えているとは……
「忘れてましたよね先輩。それにしてもよくうざがらずに私に勉強教えていましたよね。最初は志望校が同じって理由で勉強を教えてもらったし」
うちの学校は、進学校だからな。地域的にここにいけたらすごいみたいなのもあったし、1人暮らしの条件が最低このレベル以上だからなぁ
「あの時は勉強ばっかしてたし特に何もなかったからな。教えるのも勉強になってたしな。ただ最初の頃の成績はやばかったな。それが同じ学校まで来るとは……」
「先輩のおかげですよ。成績もかなり上がりましたし、それに約束もあったので頑張れました」
「それでいつ食事に行くんだ?予定あけておかないといけないから」
「来週の土曜日はあいてますか?実は行きたいお店がありまして……」
「わかった来週な。集合場所とかはどうする、お店の場所にもよるけど」
「駅前でいいですか?駅から近いんですよ」
「わかった。それじゃあ来週な」
さてと来週に向けて服とか買いに行かないとな。どんなファッションがいいかとか調べないといけないな。このボサボサの髪も切った方がいいだろうし。
電話があってから数日で普段行かないような美容院にも行ったし、ファッション誌などを見たりしてお洒落をしてみた。
美容師からはデートですかって揶揄われたけど実際行って良かったと思う。
中村は可愛い方の分類だから横に立ってもいいようにと思ったけど張り切りすぎたかもしれないな、
待ち合わせの時間は11:00の予定だったけど30分前にはいたほうがいいってなんかでみたような気がするから、はやめに来たが視線を感じてしまうような気がする。
左のポケットからスマートフォンが振動していることに気がついた。まだ待ち合わせの15分前だぞ
「先輩少しはやくついてしまったんですけど、どれぐらいでつきそうですか」
「実はもう着いてるんだけど、なんか近くにあるものとかある?」
「銀の時計が近くにあります」
「なら近いから向かうわ」
中村がいるって言った時計の近くに来たけど……
やっぱり絡まれてるところにいた
「嬢ちゃん暇?今から俺たちと遊ばね?」
「彼氏を待ってるんで」
「彼氏来てないじゃんか。俺なら待たせるようなことしないけどな」
なるほど彼氏を待ってることにして逃げようとしたのか。
「あー、お兄さん達彼女僕の連れなんで、絡むのやめてもらえます?それとすごい注目されてますよ」
そういうと絡んでた奴らは舌打ちをしながら帰っていった。
「大丈夫だったか、中村も最初からあんなのに絡まれるとかついてないな」
「えっとどちら様ですか?なんで私の名前を知ってるんですか」
「高森だよ。えっと君の先輩の」
「高森先輩?偽物じゃなくて、本物ですか?」
「本物だよ。電話してみたらわかると思うけど」
そう言ったら電話をかける中村。着信画面を見せたら信じてくれた。
「どうしたんですかその見た目、もしかして私と出掛けるからお洒落してきてくれたんですか?」
「そうだよ。前学校で色々言われてただろ。だから言われないようになれないお洒落してきたんだよ」
「そうなんですか。……わざわざ私のために」
後半は聞き取れないほど小さい声だった。ただ横には顔を赤めた中村がいた。
「顔赤いけど熱とかは無いよな」
「これはちょっと慣れないというか何というか何で大丈です」
とりあえずお店のほうに向かうことになり、移動し始めた。
「先輩、彼女を作ったりしてないんですか」
落ち着いた中村が尋ねてきた。
「作ってないし、まず髪の毛とかもボサボサだったからあんまりいい印象持たれてないかな」
「もったいないですよ。いまは爽やかでいい感じですよ」
「そっか、ありがとう。そういえば高校合格したけど実家から通う、それとも1人暮らしの予定?」
「それ聞いちゃうんですか。まだ秘密です」
まだってことはいつか教えてくれる時がくるんだなと思いながら移動していたら目的地に着いたみたいだ。
「ここが行きたいって言ってたお店であってるよな」
「はいここであってます。もしかしてもっと派手なお店だと思ってましたか?」
「正直そう思ってた」
「先輩が苦手そうだからやめておいたんですよ。さて入りましょ」
その声を合図にして2人でお店に入るとお洒落なカフェだった。落ち着いている雰囲気で中ではジャズが流れていた。
「先輩どうですかこのお店、画像みたときから先輩が好きそうだなって思っていたんですけど」
「正直にいって、かなり気にいってる。今後、駅の方に来たら寄ろうと思っている」
「良かったです。先輩は何にしますか」
「ナポリタンにしようかな。それとコーヒー」
「私はオムライスにします。あとココア」
中村がそういったので呼び鈴を押す。すぐに店員が来て注文を確認して戻っていった。
「先輩って、部活とかは何をやってるんですか」
「文芸部だな。図書委員もやってた。多分来年も図書委員にはなるかもだけどな」
「昔から本ばっかり読んでましたよね。おすすめの部活動はありますか?」
「やりたいことがあるならそれをやった方がいいし、部活動紹介で決めるのもありだぞ。文芸部は幽霊部員が多いけどな」
「特に決まってないので紹介のときに決めようと思います。もしかして文芸部って文化祭の時ってなんか出したりしますか」
「去年は自作小説を作ったな。ただまともに参加してたのが4人ぐらいしかいなかったし2人は先輩で卒業してしまったから今年は何やるかは決まってない。やる気のある部員がどれだけ増えるかによるかな」
そんな話をしてたら注文していたものが届いた。そのまま俺はスマートフォンをカメラモードにして料理の写真を撮っていく
「先輩も写真撮るんですか。SNSでアップしたりしてるんですか?」
「基本的に仲良いグループのやつに共有とかかな。あとは何を食べたかの確認とか」
「そういえば私先輩のSNSのアカウント知りません。後で教えてもらっていいですか」
「食べ終わってからね」
そんな感じの会話をしながら料理を食べていく。パスタは家でも食べているが偶にお店で食べたくなるんだよな。中村は半熟フワトロのオムライスを幸せそうに食べていた。そのまま食べさせ合うこともなく会計まで行った。
「先輩、アカウント教えてください」
「今思ったけどスマホ買ってもらえたんだな」
「もっと前から買ってくれるって言ってたんですけど、もらうと志望校に受かる気がしなかったので買ってもらいませんでした」
「やっぱりしっかりしてるな。これ俺のアカウント、返信にはあんまり期待しないでくれよ」
「家でも本を読んでるからですよね。前も言ってましたし」
「ほんとよく覚えてるよな。とりあえず今日はこれで解散って感じでいいんだよな」
「そうですね。もうすぐ入学式とテストがありますからね」
「駅まで送るぞ。それとテストはそこまで難しくないから普通にやれば取れるぞ。ただ単に課題をしっかりやってるかどうかの確認だからな」
「先輩の普通はかなり勉強してる方の普通ですからね。中学の時ほぼ満点取ってたじゃないですか」
そんな会話していたら改札の前までついてしまった。中村の実家がどこにあるかはわからないが、同じ学校だったから遠いんだよな。
学校の近くにはマンションとかはあるが、女子の一人暮らしは危険ともいうし親がどう判断するかだな。
新学期といえばクラス替えが大きいだろうな。俺も仲がいいやつと同じクラスだといいなと思ったんだが残念ながらクラスは別々になってしまった。
去年と違うところは視線をちょくちょく感じるぐらいだな。
新しいクラスに入ると新入生のことで持ちきりだった。
「新入生に後輩がいるんだけど、とても可愛い子が入ってきたって言ってた」
「まじで、一回見に行きたいわ」
そんな会話がちらほらと聞こえてきた。多分中村のことだよなと思いっていた。
なんだかんだでテストが終わるとスマホに通知が来ていた。
中村からの連絡で一緒に帰りませんかだった。俺は二つ返事でokし下駄箱へ向かった。
「先輩お待たせしました」
「いやさっき来たところだよ」
そうですかと中村が笑っていたので何故かと聞いたら桜の花びらが肩に付いていて待ってたのにそう言うからと言われてしまった。
「先輩、公園によってもいいですか」
「別にいいがなんでだ」
「そういえば桜の写真撮ってなかったなぁって」
「けど公園の場所とか分かるのか」
「今マップで調べたらすぐ近くにあるみたいですよ」
少し辺鄙な道を通って着いた公園はまるで秘密基地のような場所だった。
「先輩一緒に撮りましょ」
そう言われたが俺は固まってしまった。まるで映画のワンシーンのような感じで桜の前に立つ中村が絵になっていたからだ。
そんな俺を見て中村は見蕩れちゃったんですかとからかってきたが桜に見蕩れてたと嘘をついた。
「はいチーズ。先輩待ち受けとかにしてもいいですよ」
「お前なぁ俺だからいいけど他の奴にはやるなよ」
「おっ嫉妬ですか……」
「男は勘違いしやすい生き物なんだ。そんなこと言われたらポロッと恋に落ちるんだよ」
「先輩も落ちるんですか」
「……どうだろうな」
俺は返答に詰まってしまった。そもそも恋というものを人生で経験してきてなかったからだ。
「ふーん……先輩、私高校生活頑張るので」
そうかと返事をしたら目的も果たせたのでそろそろ帰りましょうかと言われそのまま駅まで向かった。
帰宅後俺は、恋について考えていた。初恋は先生とかお姉さんみたいな感じで今思うと憧れていたということがわかった。
中学時代一番一緒にいたのは中村だが受験の為に勉強漬けだったからそういう風に考えたことは無かった。
だが1年という短い間だったが教えていた期間を思い出すと俺はあの時間が好きだったということを思い出した。そして今の俺の本当の気持ちも……
俺は自分のことを昔から馬鹿だなと笑いながら俺らしいやり方でやろうと決意し、中村に……いや、志乃に連絡をした。
翌日の放課後、昨日の公園で俺は志乃を待っていた。
「珍しいですね。先輩から呼び出しってもしかして告白ですか」
からかう感じで言われたから仕返しのつもりで俺は、そうだと言い返し息をしっかり吸って
「俺は、中村志乃のことが好きです。自分の気持ちに気づかないような鈍い奴だけど付き合ってくれますか」
「はい喜んで」
と志乃は泣きながら返事をしてくれた。
「先輩本当に遅いですよ……私少なくとも半年前から好きだったのに」
「受験が近くなるにつれて焦ってたし、それが終わったら引っ越しとかで忙しかったし」
「言い訳はいいです。これから出来なかった思い出を作っていきましょう。遊矢先輩」
サクラをキミと 木山翼 @siomac
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