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面談スペースに入るなり、尾澤は結花の体を包む。
「え、あ、お、尾澤さん?!」
「ゆいちゃん、店長に言い返さなかったし、泣かなかっただけでも偉い!!」
その瞬間結花は緊張がなくなったのか、声を上げて泣き出す。
「そうだよねぇ、ここまで言われたらしんどいよねぇー」
尾澤は子どもをあやすようなノリで、結花の頭をなでる。
すげー、さらっさらと呟きながら。
「あ、あんなに、い、言われると思って、なくって……」
「確かに依田さんの第一印象は良くなかった。でも、少しずつ改善してるのは私が一番見てるんだから。農産スタッフの人達もそう。ポップやSNS使って話題になったのはゆいちゃんのお陰なんだ。一回座ろ」
2人は腰を下ろして弁当を出した。
結花が店舗のSNSのアカウントを使って、店内ポップの紹介や、本日の特売の宣伝を時々やるようになった。もちろん、尾澤のチェック付きで。
ポップのイラストが凝っていること、流行の言葉を使ったことから、一部SNSで話題になり、お客が増えた。
結花はイラスト書いたりデコレーションするのが得意だった。プリクラや加工アプリを使いこなしているからこそ出来ることだった。
「調子に乗ってるって、そんなに悪いことなんですか?」
結花の呟きに尾澤は返す言葉を考える。
確かに調子に乗るのは悪いとみなされる。
それは安直にやっちゃうと自滅してしまうことから。それを願ってる人間が少なからずいるし、誰しも持っている感情である。
「炎上しないために、私がチェックしてるじゃん? 多分店長は嫉妬とか焦ってるんだと思う」
嫉妬と言われ結花は腑に落ちた。
「店長はね、多分人事部長と社長からの聞いた話だけ信じて、マイナスのイメージを抱えたままスタートしたんだよ。どうせすぐ辞めるだろみたいな。スタッフで辞めたいという人が出てきたから、さすがにまずいと思って私を呼んできた。これで
尾澤は箸で唐揚げを1つ取った。
「えー、何ですかそれ! きっしょっ! ほんとそういう人いますよ。男の人の仕事の嫉妬は怖いんです。女性が出世するの気に入らないとかありますから」
高校時代遊びで付き合っていた男性を思い出した。
自分がなかなか出世出来ないから、評価してもらえないからと、ライバル達の足を引っ張ったり、陥れたりしていた。特に女性が出世するのを嫌がっていた。セクハラやマタハラで追い詰めたと自慢げに語っていた。
当時すごーいとおだてていたが、あれは男の人を持ち上げるためのテクニックで言っただけ。
これで現在会社のトップだったら嫌だと思う。おだてていた自分の無知さを恥じないといけない。
店長もそういうタイプだったりして。でも尾澤さんは上の方だし……?
「根っこは女々しいんだよ。ほら、食べようよ」
はい、ご褒美と尾澤から卵焼きをもらう。
「あ、え、いいんですか?!」
結花は尾澤の卵焼きを一口つけると「おいしーっ!」と頬がほころんだ。
「万希特製卵焼きだよー。やっぱゆいちゃんは笑ってる方が可愛い!」
「当然よ!」
私は世界一可愛いんだから。
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