第4話 びっくり玉手箱
翌日。目を覚ました
ここはリューグ王国の王都モンテアルタにある、女王の住まう城の中だ。
ベッドから身体を起こし、一つ伸びをしてからふーっと息を吐く。
「まだこんな時間かぁ。結構早く起きちゃったな……」
ベッドサイドに置かれた時計は五時三十分を少し回ったところを指していて、外から聞こえるのは小鳥のさえずりだけ。
昨日は軍病院の医者であるガラの診察を終えた後、廊下で待ってくれていたアーシムがこの部屋まで案内してくれて(部屋の中は綺麗に掃除されていて必要な生活用品も揃えられていたのだが、それらは全て使用人のデルフィーノがやってくれたのだそうだ)。それからアーシムにこの後どうするか訊かれて、少し部屋で休ませてもらうことにしたのだけれど。
一人になった凪沙はベッドで横になっていたらいつの間にか寝落ちしてしまったらしく、こうして日の出と同時に目が覚めたという訳だ。
そういえばあの時のアーシムさん、ちょっとだけ様子が変だったような?
ふと昨日の彼のことを思い出して、やっぱり気のせいだったかもと思い直して小さく頷く。ずっと普通に接してくれていたのに、いきなりドギマギあたふたするなんてさすがにそんなこと。
「……さて、ちゃんと起きよう」
いつまでもベッドの上でまったりしていてもしょうがない。凪沙はベッドから降りると、まずは朝の空気でも吸おうと窓を開けた。眩しい朝日を浴びながら清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
そして、限られた人しか立ち入れない城の敷地を見下ろすと、どこかへ向かって歩く一人の少女の姿があった。
こんな人通りのない朝早くに、しかも女の子?
まあ考えてみれば凪沙やオト女王と年齢はさほど変わらないだろうし、王城の敷地内を少女が散歩していてもおかしいと言うほどおかしくはないのだろうが。
でもなぜか妙に彼女のことが気になって、しばらく目で追っていると。凪沙の視線を感じたのか、ぴたりと立ち止まった少女はこちらを振り仰いだ。
目が合った。
その瞬間、私はあまりの衝撃に、目を大きく見開いた。
「たまて……?」
見間違いかと思った。他人の空似かと思った。だけどあの優しい瞳、穏やかな微笑み、柔らかなオーラは。
親友の
「たまて!」
凪沙は名前を叫び、無我夢中で部屋を飛び出した。階段を下りて城の外に出て、彼女の元へと走る。
何でこの世界にいるの?
こんなところで何してるの?
巫女さんのお仕事はどうしたの?
訊きたいことは山ほどあるが、今はそれよりも再会できたことが何より嬉しかった。
「……っ、たまて!」
角を曲がって親友の姿を見つけると、一目散に駆け寄って勢いそのままにぎゅっと抱きついた。
「たまて、たまて……!」
この落ち着く温もりと匂い。やっぱりたまてだ。
彼女の胸に顔を埋め、背中に回した両手できつく抱き寄せる。
「もう二度と会えないかと思った。怖かった……」
喜び泣きつく凪沙に、けれど目の前の親友は戸惑っているかのように首を傾けて言った。
「ええっと、あの、どちら様で……?」
どうしてそんな反応をするのと彼女の困った目を見て、それからすぐに理由に思い至る。
そうだ、今の自分は銀髪碧眼で見た目がまるで違う。だからたまては、私だと分からなかいのだ。
「私だよ私。凪沙だよ。
見た目は違えど変わらぬ声と表情で微笑みかけて、これで気付いてくれるはず。
しかし親友はより困惑を深めた表情で、今度は反対側に首を傾けた。
「う〜ん。もしかして、人違いされてません……?」
声も顔も、細かい仕草や纏う雰囲気も完全に箱崎たまて本人なのに。なぜか彼女は凪沙のことを頑なに知らない人として扱う。
「してないよ、冗談やめてよ。えっ、たまてでしょ? たまて、だよね……?」
たまてであることは間違いないはずなのに、ここまで来ると自信が無くなってくる。
まさかここまで似ている人がいるなんてこと、ドッペルゲンガーじゃあるまいし。
そんなドッキリいらないから早く普通にしてよと、じっと目を見つめる凪沙。
抱きつかれたまま至近距離から見つめられ続けた親友と思しき少女は、やがて耐えかね困り果てた様子で口を開いた。
「あの、ナギサさん。やっぱり人違いかと思うんですけど。私はその、タマテさん? って人じゃなくて、そこの聖堂で
「…………」
嘘、そんな。本当に、たまてじゃないの……?
彼女から人違いだという真実をはっきりと告げられ、凪沙は言葉を失った。
信じたくない。受け入れたくない。
結局私は、この世界でひとりぼっちのままなのか。
親友と会えたという安心を一度感じてしまったが故に、このショックはあまりに大きかった。
親友と瓜二つの少女を抱きしめていた腕から力が抜け、よろよろと数歩後ずさる。
そして背中から倒れそうになったところを、サラーキアが慌てて駆け寄って受け止めた。
「あわわ、大丈夫です?」
「すみません、ちょっと頭が真っ白になってしまって……」
「顔色も良くないみたいだし、聖堂の中で少し休んだ方がいいかも。歩けます?」
凪沙はサラーキアの腕に掴まり、ふらふらとした足取りですぐそばの聖堂へ。入口に最も近い最後列の長椅子に腰を下ろすと、ふーっと細く息を吐いた。
「そんなに会いたかったんですね、その人に」
傍らに立ってこちらを見下ろす修道女の言葉に、凪沙は小さく頷く。
「はい、そうですね。会いたかったんだと思います」
「思います?」
「いえ、その、昨日は色々ありすぎて考える余裕も無かったんです。でも一晩寝て少し落ち着いて、そこでサラーキアさんを目にした瞬間に親友との思い出が一気にフラッシュバックしてきて。もう家族にも親友にも会えないのかなって思ってたから、人違いだったのが余計にショックだったんですかね……」
高松空港で両親と姉、親友たちに見送られて飛行機に乗ったのが一週間前。
選手村に入ってからも毎日チャットでやり取りをして、昨日の朝も応援のメッセージをもらって。
その時にはまさかこんなことになってしまうなんて夢にも思っていなかった。
オリンピックが終わればまた普通に会えるものだと信じて疑わなかった。
だからいつものように別れて、返事をして。
それが最後になってしまうとも知らずに。
だからこうして急に知らない世界に一人放り込まれてしまった私は、自分が思う以上にみんなと二度と会えないことに心が傷ついていたのだろう。そして親友のたまてとそっくりなサラーキアを見て、その深く刻み込まれた傷に気付いてしまった。
すっかり消沈してしまった凪沙を見つめ、心痛察するに余りあるといった面持ちでサラーキアがぽつりと呟く。
「うん、そうだよね。ごめん」
修道女が発したその言葉に、凪沙は弱々しく顔を上げる。
「どうしてサラーキアさんが謝るんですか?」
「あれ? いや、えっと。私がタマテさんじゃなくてごめん、みたいな……?」
「何ですか、それ」
真面目な表情のままおかしなことを言うものだから、つい笑みが溢れてしまった。
するとサラーキアもまた、ふふっと微笑んだ。
「良かった。ちょっとは元気になったみたいですね」
あ、本当だ。
これが彼女の計算通りだったのかは怪しいところだが、確かに少しだけ気持ちが和らいだような気がする。
とその時。サラーキアが何か重大なことを思い出したようで、はっと口を押さえた。
「そうだった。私、神様にお供えする水を汲みに行かなきゃでした。ナギサさんはここで休んでてもらって構いませんから」
修道女であるサラーキアは朝早くからやることがあるらしい。
いや、そもそもその為にここへ出向いたのだろう。邪魔をしてしまったのは凪沙だ。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
「はいは〜い、ごゆっくりどうぞ〜」
背を向けながら軽く手を振ったサラーキアは、聖堂の前方へとぱたぱたと駆けていく。
そして巨大な金の三叉槍の下まで行くと、花や果物が供えられた台から水の入った透明な器を手に取ってくるりと反転。足早に凪沙の横を抜け聖堂を出て行った。
天井近くのステンドグラスから朝の陽光が差し込んで、鮮やかな極彩色が白い大理石の床に絵画の如く浮かび上がっている。その芸術的な光景をぼんやりと眺めていると、視界の端に誰かの気配を感じた。
サラーキアが向こうから戻ってきたとは思えないし、まさか海異じゃないよね……?
恐る恐る視線を向けた凪沙は、予想外すぎる状況を目にして思わず「ん?」と首を傾げた。
小学校低学年くらいの男の子がお供え物のリンゴを豪快に齧っている。しかも服装はこの世界には似合わないファストファッション的なゆるめのパーカー。それだけでもかなり異様だが、そもそもここは限られた人しか立ち入れない城の敷地内にある聖堂だ。子供なんているはずがない。
城の外周は全て水路と高い塀で二重に囲まれているため、いくら身体が小さくても侵入する余地など無いだろうに、一体どこから。
いや、それを考えるのは後回しでいい。今私が最優先にすべきことは。
凪沙は長椅子から立ち上がり、金の三叉槍の前でお供え物を物色している男の子に声をかけた。
「君、勝手にお供え物を食べちゃダメだよ」
すると少年は悪びれる様子もなくこちらを振り向いて、手に持っていたリンゴの最後の一欠片を口に放り込んだ。
そのまま黙って緑色の双眸でじっと見つめ続けてくるので、凪沙はもう一度話しかける。
「それは神様が食べるものだから、人間が食べたら罰が当たっちゃうよ」
今度は少し強めの口調で。これで反省してくれることを期待したのだが、男の子は意に介する様子も無く。事もあろうにやれやれと首を左右に振って反駁してきた。
「これは神様へのお供え物だと言ったな? なら俺が食べて何の問題がある?」
「君は神様じゃないでしょ」
「いいや、俺は神さ」
生意気な態度もさることながら、少年の発言は意味不明すぎて言い訳にすらなっていない。滅多に怒ることのない凪沙も、さすがにイライラしてくる。
「適当なこと言わないの」
「事実しか言っていないが?」
「じゃあ何の神様なの?」
距離を詰め、少年の顔を見下ろして問い詰める。
どうせその場の思いつきで喋っているだけだろうし、きっと言葉を詰まらせるはず。
少し意地悪だったかなとも思うけれど、城の敷地内に忍び込むような子供だ。やりすぎということはないだろう。
しかし少年は一切の動揺も見せずに真っ直ぐに凪沙の顔を見上げると、子供らしからぬやけに大人びた声色で即答した。
「海や水を司る神、水神。人はワタツミやらポセイドンやらと呼んでいるようだが、お前には
「…………」
圧倒されるほど鋭く美しい翠緑の瞳に見つめられ、凪沙は思わず固まってしまう。
しかも今、定水大明神って言った? それは親友のたまてが巫女を務めている高松市の田村神社に伝わる龍神のことだ。異世界人の子供がどうしてその名前を……。
まさか、本当に神様なの? この少年が?
思い至ると同時、目の前のネプトゥヌスは苦笑を浮かべて呟いた。
「全く。珍しく俺が見える奴がいると思えば、能力に自覚無しとはな」
パーカーのポケットに両手を突っ込み呆れたような態度を見せる男の子を、それでも凪沙はすぐには本物の水の神様だと信じきることが出来ない。
するとその疑いを見透かされたのか、うろうろと移動を始めたネプトゥヌスが口を開く。
「こういう時は実際に神の力を見せてやるのが手っ取り早い。が、朝から神聖術を解放するのは気が乗らん。そこで代案だ。俺の姿はお前にしか見えないと、それを証明してみせよう。そろそろあの修道女が戻って来る頃だろうしな」
それから程なく、何も知らないサラーキアが呑気に鼻歌を口ずさみながら戻ってきた。
彼女が両手で大事に抱えている透明な器には新鮮な水がなみなみと汲まれている。
「あれ? ナギサさん、別に座ってて良かったのに。もう体調は完全に大丈夫な感じです?」
聖堂内をうろつく少年に一切視線を向けることなく、お供え物のそばで立ち尽くしていた凪沙を気遣うサラーキア。
「はい、おかげさまで」
笑顔で応じると、彼女はホッとした様子で一つ頷いた。
「それは良かった。もしかしたら、神様が元気を分け与えてくれたのかもしれませんね」
神様。その単語を聞いて反射的にネプトゥヌスの方を向いてしまった凪沙。
だがサラーキアはお供え物の台に聖水の器を置くところだったのでその不自然な挙動には気付かなかったらしい。修道女は器を倒さないように慎重に手を離して、まだ少し波打っている水が溢れないのを確認してから続ける。
「ここに祀られている神様は水を司る神様で、私たちはネプトゥヌス様とお呼びしています。世界が海に沈むより以前から、リューグ王国と国民を守ってくださっている存在なんですよ」
「へぇ、そうなんですね」
「とは言っても、信仰者じゃない人にこの話をしたらくだらない戯言を言うなって受け流されちゃうんですけど」
あははと苦笑いをしてそこでふと言葉を止めた彼女は、聖堂の高い天井を見上げると微かに目を細める。
「でも、ネプトゥヌス様は確かにそばにいて、私たちをいつも見守ってくださっている。上手く説明は出来ないけど、なんだかそんな感じがするんです」
そう、その通りだ。ネプトゥヌスは確かに見守ってくれている。サラーキアが視線を向ける空の彼方ではなく、ほんの数メートルの場所、私たちより少し下の高さからだけれど。
「……はい。私も神様はいると思います。必ず、どこかに」
凪沙は修道女の隣に立って、同じように天井を仰いだ。それが見当違いな方向だと分かっていながらも、少しでも彼女が信奉し仕え続ける気持ちに寄り添えたらと。
やがてサラーキアはこちらを向くと、親友によく似た柔らかな笑みを浮かべた。
「ナギサさんにそう言ってもらえると、なんだか心強いです。すみません、こんな宗教の話なんて興味無かったでしょうに。つい話し過ぎちゃいました」
「いえ。貴重なお話を聞けて良かったです」
「そろそろ戻られます?」
「そうですね。勝手に部屋の外に出たことを知られたら女王様に怒られそうなので」
時刻は六時を過ぎた。いつ使用人のデルフィーノが起こしに来るかも分からないので、部屋に居ないと大変なことになりそうな予感がする。
「じゃあ、私はいつでもここにいるのでまた何かあったら」
「はい、お邪魔しました」
凪沙が聖堂の出口に向かって歩き出すと、いつの間にか回り込んでいたネプトゥヌスがドヤ顔で囁いてきた。
「ほらな。俺は神だったろう?」
少年の発言は嘘じゃなかった。それはもう証明されたといっていい。
けれどその神様の態度が鼻についた凪沙は、何も言い返さずただ横を通り抜けた。
聖堂を出たところで振り返ると、サラーキアが笑顔で手を振ってくれていた。
凪沙も胸の前で小さく手を振って応じて、やや早足で城の二階の部屋へと戻った。
「見えないふりもなかなか上手くなったな」
見送りを終えたサラーキアに、ネプトゥヌスが声をかける。
「まあ私だってネプトゥヌスほどじゃないにしろ上位存在だからね」
修道女は神様の方を向いて応えた。
そう、私は嘘をついていた。本当は聖堂の中をふらつく少年の姿が見えるのに、凪沙の前では見えていないように振舞っていたのだ。でも、私が彼女についた嘘はそれだけじゃない。
「だが、本当にサラーキアと名乗るだけで良かったのか? 『私は箱崎たまてだ』と伝えてあげるべきだったんじゃないのか?」
「もしそのことを伝えたら、凪沙ちゃんはきっと元の世界に戻りたいっていう意思を完全に無くしちゃう。オリンピックで最高の演技をしたかったっていう後悔を失っちゃう。それだけは絶対にダメだから」
私はあの世界では日本という国の地方都市に住むごく普通の女子高生で。地元の神社で巫女として働いている、凪沙のクラスメイトであり親友の箱崎たまてだ。
彼女は決して人違いなどしていない。
けれど私が箱崎たまて本人であると明かすつもりは今のところない。
現在の凪沙の精神状態が酷く不安定であることはもちろん把握している。親友がそばにいると知ればとても大きな安心材料になるだろう。しかしそれでは、私がここまでした意味が無くなってしまう。
「どうしてお前はあの少女にそんなに執着する? 世界を犠牲にしてまで助けるに値する存在とは思えないが」
「それでも私にとっては、世界よりも凪沙ちゃんの方が大事なんだよ」
「何故?」
「凪沙ちゃんは諦めかけていた私の心を救ってくれた救世主だから。東京で金メダルを獲得する夢を叶えてほしいんだ」
彼女が東京五輪で最高の演技をやり遂げる姿を、私は見たい。あんな形で彼女の夢が終わってしまうのは、私が嫌だ。
凪沙の運命を変えられるのなら、どんな代償だって払う。屈辱だって受け入れる。だからあの傲慢でわがままなネプトゥヌスに過去の改変を土下座で懇願することにも一切の躊躇いなど無かった。
「まあいい。別にお前にもあの少女にもさほどの興味は無いからな。ただ、あの事象が起こらないようにするには最低でも八ヶ月は巻き戻す必要がある。それだけの作業をするとなると俺の力でも半年は時間を要すると思うが構わないか? 犯人の女、どう歴史を変えようが代表に入ってくるんだ。全く、人間風情が手間をかけさせる」
当たり前のように言ってやれやれとため息を吐く水神に、サラーキアはぐっと詰め寄る。
「誰が凪沙ちゃんにレーザーポインターを当てたのか、分かったの?」
問われた少年はパーカーのポケットに両手を突っ込むと、目を瞑って頷いた。
「当然だ。俺を誰だと思っている? 犯人はロシア代表、いやROCと呼ぶべきか。のクラリカ=ザイツェヴァだ。そしてこいつを排除するにはオリンピックを二〇二〇年開催から変更させる必要がある」
凪沙の夢を壊した犯人は、メダルを争うライバル選手だったのか。
それよりも問題なのは、五輪開催時期を変更させなければならないこと。開催日程は何年も前に決定してしまっているはずで、しかも開催年をずらすなど。
「出来るの? オリンピックって絶対に四年に一度でしょ?」
さすがにこれはいくらネプトゥヌスの力でも難しいのではないか。
と思ったのだが、彼は不敵な笑みを浮かべて余裕の態度を見せた。
「お前は話を聞いていなかったのか? 俺は『世界を犠牲にする』と言った。世界が混乱状態に陥れば国際的なイベントは延期になる。簡単なことだ」
世界を犠牲にしてまでって、時間を巻き戻すことを言ってるんじゃなかったんだ。
確かに世界情勢の変化によってオリンピックが中止された例はある。けれどそれを意図的に引き起こすということはつまり。
「……まさか、針を進めるつもり?」
顔に焦りを滲ませる修道女に、神様はゆったりと長椅子に腰かけながら答える。
「いいや、あの世界はまだその段階には至っていない。だから安心しろ」
良かった。そのまま世界を破滅に向かわせる訳ではなかった。
静かにほっと胸をなで下ろす。
「じゃあ何をするの?」
首を傾けるサラーキアに、ネプトゥヌスは緑の瞳を向けて言った。
「未知の感染症の流行。パンデミックを起こす」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます