家を壊す
@sakura-pompom
第1話 幸せの家
屋根を見つめる男。葉山幸男68歳。
この男に、幸運が舞い降りた。
自分の家の屋根が台風で吹っ飛んだのだ。
―やっとこの家から解放される!!保険金も降りる。自由になれる。
毎年のように、被害が出る台風。でもまさか自分の家が被害にあうとは思ってもみなかった。場所もよかったのだ。私の家は福地ニュータウンの山頂の方だから、風が背上がるように吹いて、屋根を吹き飛ばしたのだ。
自分の家を久しぶりにまじまじと見て、思い出す。
この家を買ったときは、うれしかったなあ。新しい生活はさぞ楽しいと思った。時はバブル時代。土地の値段はどんどん上がっていった。資産を持てた喜び。子供がここで成長して立派になって巣立っていくと思うとわくわくした。
住んでみた当初は、自分を含めて若者がたくさんいた。子供の声もあった。でも、バブル崩壊後は、みるみる廃れていった。売り出し当初、業者は、福地ニュータウンのそばには駅ができると言った。しかし、駅ができることはなかった。どんどん発展していくように思えたニュータウンはできた当初が幸せの頂点だったのだ。今や、業者は撤退して行方不明。家も土地も紙屑同然。なのに、ローンは払い続ける。さらに、家の処分費用を考えたら大赤字だ。これだけでも自分の人生はなんのためにあったのだろうと思う。でも、人生とは残酷で、私の妻は昨年亡くなって、一人息子は中学生以降ずっと引きこもりだ。年をとればとるほど幸せになっていくやつと不幸になっていくやつがいるが、私は自分ではどうしようもないくらい、年を追うごとに不幸になった。
1か月前に空き家で火災があった。斎藤安江さんの家だ。身体を悪くして施設に入ってしまって、それっきり生きてるんだか死んだんだかわからない。お喋り好きの山田良子の噂話では、保険業者が来て査定をしていったんだって。斎藤さんには、保険金が入るらしい。その頃から思っていた。自分の家が壊れないかなあと…。
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