第16話 ダンジョン内で素材の採集をするやつ & 温泉でヒロインと混浴するやつ

 ◇◇◇






 地下鉄ダンジョンを更に前に進む。目的地は遥か前方。だからこれまでと同様、出口を確認してから次の出口へ、という基本動作を徹底する。

 先ほどは予想外の出来事が立て続けに起きてしまったが、方針自体が間違っていたわけではない。それに体力もまだ残っている。新たに成長した戦力を頼みにして、野営地にできそうな場所を探す方がいい。


(やっぱりどこかに、魔物の巣が群形成クラスタ化されている気がするなあ。さっきから何十匹もワームの残党が見つかってしょうがないや)


 ミミズの残党を見つけては一匹残らず狩り尽くす。大群を形成して襲ってくる性質の魔物を見かけたら、索敵・殲滅サーチアンドデストロイが基本である。

 周囲数百メートルを警戒しつつ、魔物を順次討ち取ることで、安全を少しずつ確保していくのだ。


 この迷宮ダンジョンは【浸透係数】が高い。浸透係数が高いダンジョンは、魔物もすぐに湧き出てくるし、事象のねじ曲がり方もどんどん大きくなる。だから、地下鉄のトンネル構内なのに木が生えていたり壁に魔石が生じていたりする。

 要するにここは、"いつもよりダンジョン度が上がった"Pref:OSAKA地下鉄ダンジョンなのだ。


「ねえネクロ、キノコも薬草も見つかったよ。それにお湯っぽいものも湧き出ている。ちょっと休憩していこうよ」


「ん、わかった。ついでに飯にしよう」


 めめめんに声をかけられて、俺は一旦足を止めた。素材の採集作業ももちろんだが、ちょうど腹が減っていたところでもある。休憩も兼ねて食事を取っていい頃合いであろう。

 それに、お湯が得られるのは非常にありがたい話だった。どこか近くの給湯設備が破損しているのか、それとも【浸透係数】が高くなった結果温泉が湧き出たのか分からないが、とにかく好都合だ。

 身を隠す障害物も多いので、野営地にも悪くない。


(それにしてもめめめん、彼女もやっぱり凄いなあ。野営にも全然抵抗がないし、素材採集も手馴れている様子だし、結構逞しいよな)


 荷物を地面に下ろしながら、俺は感服した。素材採集も随分慣れたもので、俺が手伝う必要はなさそうである。


 食べられるかどうかわからないキノコを摘み取ったり、薬草にも使えるよくわからないギザギザの葉っぱを集めたり、そんな感じで採集は進む。俺には採集物の目利きができないが、彼女はある程度これを仕分けられるらしい。使役している魔物たちに作業を手伝わせることで、ものの数十分で、採集物の山が出来上がっていた。


 ホームセンタで味方にした狼ゾンビたちは鼻が利くようで、食べても無害そうなキノコや有用な薬草を嗅ぎ当てる手伝いをしてくれた。そしてそれをスケルトンたちが淡々と集めていく。非常に簡単であった。


 どうもめめめんがホームセンタで暮らしていたころ、こういった素材採集を狼ゾンビたちによくやらせていたらしい。流石である。基本的に野菜類を【解放区】でまとめ買いしていた俺なんかとは訳が違う。


 一応、端末カメラを使って食材をラプラス診断にかけてみるも、「この食材は食べられます」という診断結果だったので安心していいだろう。それに、強熱で煮沸すれば毒も一部無毒化できるし、保護Algizのルーンを刻んだ魔石と一緒に煮込めば毒も取り除ける。


「どうする? 味噌汁にしてもいい?」


「いいけど味噌あるんだ」


「保存食だからね。それに色んな癖の強い食材も、味噌で煮込んだらそこそこ美味しくなるし。めめめんもよく動画投稿のネタに使ってるよ」


「すごいな。今度から味噌汁はずっと君に作ってもらおうかな」


「……う、うん」


 何だか顔を赤くしている。なんでだろう。






 ◇◇◇






(階段がちょうど温泉みたいになっているのか……なんだか変な構造だけど、ダンジョンが地下鉄駅構内を模倣したのか?)


 湧き出る湯水にすっかり沈没している階段の奥、そこには「危険:クリアランス-Lv5以下は立入禁止」と書かれた扉がある。何か重要な設備でも存在したのかもしれないが、水中に沈んでしまっている以上、設備はほとんど台無しだろう。


 階段に腰を掛けて、ゆっくりと湯に身体を沈める。人が浸かって適温になっているのがまた心憎い。温水シャワーではない、久しぶりの湯舟。思わず声が出る。


(こりゃあPref:OSAKAで試験的住民区難民キャンプをダンジョン内に作っていた理由も分かるな。ダンジョン内にも便利な設備がいっぱいある。何故かは知らないけど、まるでダンジョンがインフラを・・・・・模倣しようとしている・・・・・・・・・・みたいだ)


 そう思ってしまうほどに、ダンジョン内部の設備は充実している。

 試験的住民区難民キャンプの施策も理解できる。Pref:OSAKAの寄る辺のない難民たちに、そういった便利な施設を発見・整備してもらって有効活用してもらう、という政府の目論見だったのだろう。


 事実、難民キャンプを地下鉄ダンジョンに作っていたおかげで、【Pref:OSAKA】地下鉄ダンジョンの一部区域は居住可能なぐらい環境が整っていた。まさに一石二鳥。探索者ギルドにとっても地下開拓作業に人手をかけずに済むし、勝手に有能な探索者候補の若者も育ってくれる。


 あんな《魔物暴走》が起きるまでは、上手く回っていたのだろう。


 湯を掬って顔にかける。心なしか目元の疲れもほぐれるようだった。このまま湯に身を預けてうとうと眠りたくなる。

 しばらくの間、俺は無になっていた。


「……めめめんも入るよー」


「んー……。んん!?」


 途端に目が一瞬で冴えてしまった。見れば、だぼっとしたTシャツだけのめめめんが横にいた。「裸なわけないじゃん、ばーか」とか言われたが、濡れて肌に張り付いているTシャツも大概目に毒である。

 一体何を考えているんだろう。このまま俺が彼女に手を出さないと信じ込んでいるのだろうか。


「……ねえ、ホームセンタで裸のめめめんを取り押さえたときにさ、めめめんの背中、見た?」


「あん? 見てないけど?」


 何だか意味ありげにそんな質問をされたが、よく分からないことを言ってる。もしや彼女、背中に一般人には見えない謎の・・模様が浮き出ている・・・・・・・・・のだろうか。


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