40話 誕プレ探しの旅へ
『どこにいる?』
『いつも通り、噴水の傍だよ』
スマホに送られてくるメッセージを見ながら、俺は辺りを見回して人混みを掻き分けるように進んでいく。
ふと視界が開ければ、メッセージ通りに噴水の傍で待っているこころを見つけたので、急いで駆け寄った。
「ごめん、待ったか?」
「そんなに待ってないから大丈夫」
声をかけると、こころはスマホに落としていた視線を上げて迎えてくれる。
「って言いつつも、実は結構な時間待ってたんだろ?」
「っ……さ、三十分くらい前から」
「ほらやっぱり。ごめんな、そんなに待たせて」
図星を言い当てられて頬を染めるこころに、俺は申し訳なく思ってしまう。
いつも時間通りに来るからこころを待たせることになるんだよな。
……次からはもっと早めに来よう。
「そんなに謝んなくても、私が早く来すぎちゃっただけだし。それよりもすごい人だな」
「ホントだよな。こころ小さいから、見つけるの苦労した」
「ち、小さいは余計だ!」
「別に悪口を言ってるわけじゃないんだぞ? こころ、小さくて可愛いし」
「か、かわ……!?」
さり気なく褒めればこころが先程とは比にならないくらいに顔も耳も真っ赤にするものだから、思わず頬が緩んでしまう。
そうして俺の顔を見たこころは恨めしげに俺を睨んだ。
「私をからかって楽しむな!」
「俺は顔を真っ赤にするこころが可愛くてニヤけてただけなんだが」
「も、もういいからぁ!」
叫んだこころに切り返しのパンチを繰り出して、もう一度恥ずかしがるこころを見る。
ここまでが一連の流れだろう。
我ながらいい立ち回りだった。
だが流石に最後は良心が傷んで、俺は笑いながら誤魔化すようにこころの頭を撫でる。
「ごめんごめん」
「全く……早く電車に乗るぞ。先に墓参りでいいのか?」
「あぁ。最後に気分が沈むのは嫌だろ? だから早めに済ませて、その後に街を回ろうと思うんだ」
「なるほどな」
こころの誕生日プレゼントを買いに行こうと彼女と約束した今日。
この日は奇しくも、こころの両親が亡くなった日でもあった。
だから今日は誕生日プレゼントを買う前に、彼女とともに墓参りに行く予定である。
例年はお盆と年始に墓参りをしていたのだが、たまたま出かける日と重なったのでどうせならと行くことになったのだ。
「誕生日プレゼント、何がいいか考えてきたか?」
「うっ……そ、それは……」
昨日のうちに考えておけと言ったのだが……視線を彷徨わせるこころを見る限り、答えが出なかったらしい。
「いや、ちゃんと考えてはいたんだぞ?」
「分かってる。どうせこころのことだから、俺にどれを買わせても申し訳ないとか思ってたんだろ?」
「うっ……」
分かりやすく図星をつかれるこころ。
そこまで色々と気にするようになったのも、全てあの日の事故が原因だから直そうにも直せないのは分かっているのだが。
別に気にしなくていいんだけどな。
そう思いながら、俺はこころの服に指をさす。
「なら、服なんてどうだ?
今日もこころは黒のミニワンピースに黒のタイツのコーディネートだった。
一緒にどこかへ出かけるときのこころの服装はそれしか見たことがない。
こころだって、年頃の女の子だ。
少しくらい他の服も着てみたいだろうし、お洒落だってしたいだろう。
「で、でも、服は流石にお金かかるし……」
「くどいぞ。今日は俺が買いたいから買うんだ。そんなに遠慮されたら傷つく」
「き、傷つく?」
「あぁ。傷つくし、悲しい」
「……わ、分かった! 服買って! 私、服が欲しい!」
少し瞳を逸して声のトーンを下げてみれば、こころは慌ててそう言った。
彼女の本当に欲しいものではないのかもしれないが、このままだと埒が明かないため少し強引にこころの同情を誘う。
その誘いに疑いもせず素直にのってくれるから、こころがまた一段と可愛く見えた。
「初めからそう言えばいいんだ」
「ご、ごめん」
「謝らなくていい。今日は誕生日プレゼントを買いに行くだけじゃないから、いっぱい楽しもう」
「どこに行くかは決めてるのか?」
「特に考えてない。たまには目的もなしに街を歩いて見るのもいいかと思って」
だけど、と言葉を置いて、俺はため息をついた。
「この人混みだし、きっとどこも混んでるんだろうなぁ」
回りを見渡せば、自分がどこからやってきたのかも分からないほど人でごった返している。
休日と言えどここまでなのは稀だ。
ただでさえ人が苦手なのに、この人の量の多さには気が滅入ってしまう。
「で、でもさ。こうして人がいっぱいいたらさ……」
そう言うと、こころは俺の腕にぎゅっとしがみついてくる。
突然の行動に思わず体をビクッと跳ねさせてしまうと、こころが強張った表情で俺を見上げた。
「こ、こうしてくっつくことの口実になるし……悪いことばかりじゃ、ないんじゃない?」
「……それもそうだな」
照れ臭さを見え隠れさせながらも健気に俺を元気づけてくれるこころの行動に、俺は口元を綻ばせながらこころの頭を撫でる。
撫でられるこころは目を瞑って気持ち良さそうにするものだから、愛しさで胸がいっぱいになって仕方ない。
「ありがとう、こころのお陰で元気出た」
「ならよかった」
「もうすぐ電車が来る時間だし、そろそろ行こう。はぐれるなよ?」
「うん」
こころがコクリと頷いて俺の腕を抱き締め直すと、俺は雑踏の中を進んでいった。
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