39話 次の日のお話
――何かが動く感触が体に伝わり、俺は意識をゆっくりと覚醒させていく。
まず視界に映ったのは、薄暗くも真っ白な俺の部屋の天井。
頭を隣に傾ければ、布団から天井と同じくらい真っ白な肩を曝け出して眠っているこころの姿があった。
そっか、俺たちあのまま……。
とりあえず現在の時間を確認するために体を動かそうとするが、昨日の激しい運動が尾を引くように痛んだ。
その痛みに眉を潜めて耐えながら俺はベッドから這い出し、机の上で充電していたスマホに手を伸ばした。
「今は……六時半か」
学校に遅刻する時間ではない。
いつも通りに準備すれば大丈夫だろう。
でも、この痛む体でいつも通りに準備出来るのだろうか……。
「ん……留衣……?」
先が思いやられる感情に頭を抱えていると、後ろから声がする。
振り向くと、こころが目を擦っていた。
「おはよう、こころ」
「ん。おは……っ!?」
俺に視線を向けたこころは目を見開いて顔を赤らめると、そのまま布団を被ってしまった。
「どうした?」
「いや、だって、その……」
「昨日あれだけしたのに、まだ恥ずかしいのか?」
「は、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ……」
布団から頭を少しだけ出して言うこころに口元の緩みが止まらない。
まぁでも、彼女の言いたいことも分からなくはなかった。
昨日は俺もその場の雰囲気で何とかなったが、今再び彼女の体を見たら羞恥を感じずにはいられないだろう。
「昨日だって一回で終わるつもりが長引いちゃってバイトにも行けなかったし、結局留衣の家にも泊まっちゃったし」
「少なくとも後者は気にしなくていい。俺だけじゃなく、俺の両親もこころは大歓迎だからな」
「そう言ってもらえるのは嬉しいしありがたいけど……」
申し訳なさそうに眉を下げるこころの頭を、俺は優しく撫でる。
「言っておくけど、俺は気にされたほうが嫌だからな。こころとの距離を感じるし」
「……分かったよ、もう気にしない。その代わり、週末は必ず泊まりに来るから」
「週末と言わず、毎日来てくれて構わないんだけどな。いっそのことウチに住むとか」
こころとともに過ごす時間が増えれば増えるほどいい。
一緒にいるだけで、俺は幸せを感じることが出来るから。
まぁ、こころは申し訳ないって言うだろうけどな。
そう思っていると、こころは先程よりも顔を真っ赤に染め上げた。
「そ、そんなことになったら……体が、持たない……」
「体が? ……っ!?」
こころの言いたいことに気づき、俺まで頬に熱を帯びてしまう。
「いやっ、俺は別にそう言ってるわけじゃない!」
「そ、そうなの?」
「俺はただ、こころと一緒にいる時間をもっと増やしたいと思って言っただけだから」
「だったら……もう、しないの?」
「そ、それは……」
脳裏に昨日の様子が鮮明に浮かび上がってくる。
熱い吐息。
卑猥なほどにくぐもった水音。
こころの押し殺すような
「……ほ、ほどほどにな」
「う、うん……」
思い返す中で生々しく反応してしまった下半身を沈黙の時間で何とか宥めてベッドから腰を上げると、俺はクローゼットから下着と制服を取り出した。
「さ、先に着替えて下りてる。ほら、一緒に行ったら怪しまれるかもしれないだろ?」
「そ、そうだね」
彼女の返答を耳にしながら下着を履き、制服を身に着けていく。
「あっ、そうだ。曖昧になってたけど、こころの誕生日プレゼントはちゃんと買いに行くからな」
「いいよ別に。昨日が誕生日プレゼントってことで」
「俺が買いたいから買うんだよ。嫌って言っても連れてくからな」
「そんなにしなくてもいいのに……」
こころは困り果てたように苦笑する。
だがそれは、どこか嬉しそうでもあった。
「さて、と。俺は下りてるから、何かあったら言えよ」
「分かった、ありがとう」
制服に着替え終えた俺は部屋のドアを開け、廊下に出る。
しかし開けたドアは閉めずに、ドア枠とドアに出来た僅かな隙間から顔を覗かせて言ってやった。
「その首に出来たやつ、頑張って隠せな」
「っ——!?」
こころは周りからミス・アンドロイドと異名をつけられる程に有名で人気だ。
同級生に友達が一人もいない俺とは全く違うからこそ、「こころは俺のものだ」と言わんばかりに強烈なやつをつけた。
なのに……。
「どうして俺にまでつけられたんだろうな……」
首元を擦りながら、俺は笑みを混じらせてつぶやくのだった。
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