第61話 充電
部屋に着き玄関の扉を開けてもらうと、彼女はいつもの鞄を片手に待ってくれていた。
「じゃ、行こ?」
「ああ…そういうことね…」
「もちろん!」
いつものお泊まり用の鞄を持ち、今日の事を楽しそうに話しながら、俺の隣を歩く静琉。
その無邪気な笑顔を見ていると、俺に心を許してくれてるんだな、って実感する
暫く歩くと家が見えてきたけど、明かりはついていない。父さんも母さんも、もうとっくに向こうに戻ったらしい
鍵を開けて中に入ると、「ドサッ」と静琉の鞄が落ちる音がしたのと同時に、俺は横から抱きしめられていた
「え!?ちょ、ちょっと…」
「だって…昨日はぎゅー出来なかったんだもん…」
「それは…そうだけど…」
「だからね、充電…」
「はい…」
俺の存在を確かめているかのように、ギュッとしがみつき、腕にすりすりと頬ずりしている。そして少しくんくんと鼻を鳴らし
「あ、焼肉の匂いがする」
「うん。食べ放題に行ってたから」
「美味しそう」
じゅるりと、まるで舌なめずりするような素振りをするので「ごはん食べてないの?」と聞くと
「蒼くんを…食べたいです…」
「はい?」
驚いて彼女の方に向くと、まるでそれに合わせたようにスっと首に腕を回し、ゆっくりと唇を重ねてくる。
少しして、その柔らかい感触が離れると
「ふふ…蒼くん、お肉の味がする」
と、悪戯っぽく微笑む彼女
いつもにも増して静琉は魅惑的で、くらくらしそうになった俺は慌てて、
「そ、そうだよね、臭うよね。俺、ちょっとお風呂入ってくるから待っててよ」
「待たない」
「え?なんで、すぐ出るから」
「待たない。だって、一緒に入るもん」
うん…なんというか、いつも通りと言えばそうなんだけど、でも、いつもより甘えられてるような気がする。
しかも少し俯き加減で、ちょっとだけ拗ねたような素振り…だめだ、可愛いが過ぎる…
なんでそんなピンポイントで俺の好きな感じを出してくるんだろう…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お風呂から出て、リビングのソファで二人くっついて座る
「蒼くん、いい匂い」
「ありがと…静琉も、いい匂い…」
「へへ…」
俺にギュッと体を寄せながら、はにかむ彼女は可愛い…そして、妙に照れる…
「あ、あのさ、明日はどうする?」
少し空気を変えたかった俺は、無難な話を切り出したつもりで口を開いた。
そうでもしないと、このまま押し倒してしまいそうだったからだ
「明日は蒼くんの服、見に行こうよ」
「服?どうして?」
「ふふふ」と少し得意気に笑い、こう言う
「えへん!来週の学園祭に行く時の服を、私がコーディネートするからだよ!」
「え…なにそれ…」
「うん。蒼くんのセンス、別に悪いわけじゃないんだけど、やっぱり高校生感がね」
そりゃそうだろ。だって高校生だもん
「なんていうか、こう、もう少し大人っぽく、私好みの服で着飾りたいな、って」
「そうなんだ…」
あ、でも、俺、そんなにお金持ってないや
「うん。お金の事はお母様から預かってるし、心配しなくていいよ」
なんでそんなに心が読めるんだ…?
ていうか母さん…何やってんの?
「お母様じゃなくて、お義母さん…かな…」
少し顔を赤くして照れくさそうにそう言う静流は可愛す…(以下略)
「でも、明日は私の好きなように、蒼くんを着せ替え出来るんだね……ふふふ…」
「え!?着せ替え、ってなに?」
「いいからいいから。お姉さんに任せとけばいいのよ…ね?」
久しぶりに目が虚ろになってる静流は、やっぱりちょっと怖かった
「じゃあ、お風呂にも入ったことだし、これで遠慮なく充電できるね?」
「いや…さっきお風呂でも…」
「あれはあれ、これはこれ。分かった?」
「はい…」
眼光鋭く俺を見据える彼女。
以前なら普通に怖がってたかもしれないけど、今はそんな表情でも「わ…綺麗…」とか思って固まってしまうほどには、俺の中で静流の存在が、かけがえのないものになっているんだろう
少し前に相田さんの件で揉めたりもしたけど、あの一件があってから、彼女への気持ちが強くなったのは間違いないと思う。
そして静流が両親とも会ったことで、本当にこのまま結婚するのかな、なんて思ってしまい、一人で恥ずかしくなる
「じゃあ、ベッドに行こ?」
「うん…」
蠱惑的な笑みを浮かべ、差し出してくる静流の手を取り、俺の部屋に向かおうとしたんだけど、俺は彼女の手を逆にこちらに引き寄せ、その拍子に驚いてバランスを崩した彼女をそのまま、優しく抱きしめる
「へ!?いや、あの…そ、蒼くん?」
「………」
「ど、どうしたの…?」
「ん?なんでもない。こうしたかっただけ」
「そう…?」
「うん。俺も充電してるだけ」
充電か…
確かに、こうしてるだけで静流を感じられて落ち着くし、幸せな気持ちになれるんだな
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