第56話 あの時の
挨拶する!という方向で話が進むので、俺は母さんにその旨をLineで伝える。
両親が家に着いて、扉を開けたらいきなり息子の彼女がいるというのもどうかと思ったからだけど、すぐ既読がついて『楽しみ♡』という返信が
うん。下手すると誤解されるようなメッセージはやめてもらいたい。
母さん、そういう茶目っ気はいらないから
「ああ…ドキドキする…」
「静琉でも緊張するんだ」
「するに決まってるでしょ!」
「うん、そうだよね。あと一時間くらいで着くそうだよ」
「うん…」
それから軽く夕飯を食べ、ソファに座って話しながら両親の帰宅を待つ。
でもいつもとは違い、俺から少し離れて座りそわそわする様子を見ていると、つい手が伸びてしまった
「ふぇっ!?」
「あ、ごめん、つい…」
よく静琉が俺にしてくれるように、「よしよし」と頭を撫でてあげていた
「そんな心配しなくても大丈夫だよ」
「うん…ありがと…」
あんなにやる気まんまんだったのに、やっぱりいざその時が近付くと緊張するんだ。
可愛いな
静琉は、撫でる俺の手に自分から頭を擦り付けるようにして、目を細めるその姿は本当に猫みたいで可愛すぎる
ギュッと抱きしめたい気持ちをなんとか我慢し、暫くそうしていると「カチャ」っと玄関扉の開く音がし、「ただいま」と両親の声が
一瞬ビクッと静琉は震えたけど、次の瞬間には俺に微笑み「もう大丈夫だよ」と告げる。まるでスイッチが切り替わったみたいだ
「じゃ、ここで待ってて」と言って、玄関に出迎えに行くと
「蒼、ただいま」
「父さん、母さん、おかえり」
「母さんから聞いたぞ?」
「あ、うん…」
「ふふ、楽しみだわ」
「母さん、あんまり蒼をからかうなよ」
「はいはい」
楽しそうな母さんと、やれやれといった感じの父さんだけど、俺が知る限り二人は仲が良い。子供の頃は気付かなかったけど、今にして思えば、あれはイチャついてたんだな、なんて思う事もよくあった。
まあそれはいいとして、
「いらしてるの?」
「うん。リビングで待ってくれてるよ」
「そうか。待たせるのも悪いし、行こうか」
二人と一緒に部屋に戻ると、静琉はニッコリと微笑んで
「こんばんわ、はじめまして。蒼介くんとお付き合いさせていただいている、速水静琉と申します」
「あら、ご丁寧に。蒼介の母です。静琉さん、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「いつも息子がお世話になってるみたいだね。蒼介の父です。よろしく」
「お父様もお母様も、どうぞよろしくお願いします」
綺麗に微笑んで二人と話す静琉は清楚なお嬢様といった佇まいで、そんな見慣れない彼女に少し驚いたけど、そんな一面もあるんだ、なんて思ってつい見つめてしまう
「あら、蒼ったらそんなに見つめて、もう」
「え!?いや、違うから!」
「真面目そうで綺麗なお嬢さんじゃないか。蒼も隅に置けないな」
「へ!?いや、あの…」
矛先がこちらに向かってるな。
まあ初対面だし仕方ないけど、こういうふうに親にいじられるのは恥ずかしい…
そこからたぶん一時間くらい俺達は話をして、彼女が大学生だとか知り合ったきっかけだとか、まあ、馴れ初めみたいな話をいろいろ聞かれた。主に母さんに。
そして気が付けば、母さんと静琉は連絡先の交換までしていた。
凄いな。俺が静琉の立場なら、会ったその日に、しかも一時間くらい話しただけで、いきなりそんなの無理だ。
父さんはだいたい聞く専門になってたけど、それにしては妙に真剣な顔つきだった
そしてもう時計も夜の九時を過ぎようとしていたので、俺は切り出した
「じゃあ、そろそろこの辺で。静琉さん、もう遅いし家まで送るよ」
「え…」
「そうね。夜道は危ないものね」
「明日は…」
あ、そうか。
文化祭の件、まだ話せてなかったな
二人の前で初めて悲しげな表情になったその時、父さんが言った
「やっぱり、あの時の女の子だね」
「「「え?」」」
三人揃ってポカンってなってしまった
「最初お名前を聞いた時にふと思い出したんだが、まさかと思ってね。でも同い年だし、面影に覚えがあって、それに今の表情で分かったよ」
父さん?なんの話をしてるんだろう
「静琉さん?君はあの時の、最後まで悠介を見送ってくれてた女の子だね」
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