第53話 五日ぶり


「へぇ。そんなことが」

「うん。上手くどうにか出来ないかな」

「ん〜…そうだなぁ…」


金曜日。

夕飯の後お風呂にも入り、俺は今週学校であったことを静琉に話して相談していた。


今週は放課後ずっと準備で、静琉と会う時間も取れていなかった。

俺の家に来た時は「五日ぶり!!」と言って抱きついてきて、話している今も、彼女はあぐらをかいた俺の膝の上に頭を乗せ、試案顔になっているが、片時も離れようとしない


嬉しい、そして可愛い…



山岡とのこれまでのやり取りなんかも、ざっくりとは説明した。すると、


「は?その子なんなの?私の蒼くんに何言ってくれてんの?」

「ちょ…」


下から手を伸ばして、俺の頬を優しく撫でながらも、目には怒気を孕んでいる


「と、とりあえずそれはもういいから。問題は、文化祭、みんなで楽しくやれないかな、ってことだから」

「そうだっけ」

「そうだよ」

「でもそういう輩は、やられたらやり返したくなるタイプが多いよね」


うん、そうかもしれない


「二人でどうにか出来ないかな、みたいな事は言われてたんだけど」

「クラス委員の、織田くんだっけ?」

「そうそう」

「あの時一緒に来てた男の子?」

「そうだよ」

「確かにイケメンだったかも」


やっぱり静琉から見てもそう見えるんだ…


「もう…そんな顔しないの。ね?」

「え?」

「ふふ…そんなシュンってされちゃったら、こうしたくなっちゃうじゃない」


膝枕から起き上がり、「えい!」と言って俺の頭をギュッと胸に抱きしめ、「よしよし」と撫ではじめる


「ちょ、ちょっと、いきなり…」

「他の男の子の事、私がイケメンとか言っちゃったから心配になったんだよね?」

「そんなこと…」

「大丈夫だよ。蒼くんが一番だから」

「そんな…」


お風呂上がりで、ほんのりボディソープの香りがして、柔らかくて、落ち着く


「ふふ…蒼くん、トロンてなってる」

「え…なってないよ」

「ううん、なってる」

「うぅ…」


くっ…なんでこうなった…?

相談してたんじゃなかったか?


「でもね、無理はしちゃ駄目だよ」


頭を撫でながら、優しくそう言う彼女。

なんか甘やかされてる気がするな…


「それに、そういう輩は遅かれ早かれ自滅するから、放っといていいと思うよ」

「そうなの?」

「うん、たぶんね…。もうクラスでは女子に嫌われてるんでしょ?」

「らしいね」

「じゃ、問題ないよ」


なるほど。そういうもんか


「あ、でもね、俺、たぶん高校に入ってから初めて、友達だと思える相手ができたんだ」

「……男子だよね?」

「も、もちろん!」

「ん。ならいい。よかったね、蒼くんもちゃんと頑張ってるんだから、大丈夫だよ」


ふと表情を消してジト目になったかと思うと、ふわっと優しい眼差しで見てくれる。

なんか、静琉の考えてる事が分かりやすくて、そして、それが俺の事を想ってくれてるっていうのが分かるから嬉しくて


胸に抱きしめられたまま、彼女の温もりにずっと包まれていたい衝動に駆られる


「ん?どうしたの?」


俺は無意識のうちに、静琉にしがみつくようになってたようで、彼女に言われて気付く


慌てて離れようとすると「もう、だめ…」と言って力を込める静琉。

うん。甘やかされてるのはたぶんそうなんだろうけど、でもそれが嬉しくて、心地よくて、このままだとどんどん甘えて、色々と駄目になりそうな気がする。

ちゃんと気を付けておかないとな



すると、思い出したように彼女は言う


「来週末なんだよね?」

「え?うん。金曜と土曜の二日間だね」

「私はその次の土日なんだ。覚えてる?」

「ああ、静琉の大学の?」

「うん、学園祭ね」

「う…そうか、学園祭か…」


うちの高校は、家族以外の人の敷地内への立ち入りや参加は認められておらず、それを伝えた時には分かりやすく落ち込んでいた静琉だった。

「もう家族なのに…」とか言ってたけど、そこは宥めておいた。

そこで、何か代わりにしてあげられないかと考えていると、「じゃあ学園祭に来てよ」という話になり、俺もそれは了承していた。


「高校の文化祭デートは諦めたけど、大学で学園祭デート…はぁ……ふふ…」

「うん…あの、俺が行っても本当に大丈夫なんだよね?」

「うん、大丈夫大丈夫」

「ならいいんだけど…」

「あ、でも、私とずっと一緒にくっ付いてるようにね」

「え?ずっと?なんで?」

「いいから。私がそうしたいし。ね?いいよね?駄目とか言わないよね?ね?」

「う、うん…」

「ふふ…楽しみ…」


なんかちょっと不安はあるけど、彼女が喜んでくれるならいいか、と、この時の俺はそう思うだけだった






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