第52話 瀬野くん


そのまま瀬野くんにトイレに連れてこられる


「ん、ほれ」

「え?」

「だから、鏡よく見てみろ」

「うん」

「それで?」

「え?なにが?」

「だから、何も気付かないのか?」

「ん?なんか付いてる?」

「いや、そうじゃないって!」

「へ!?」

「はぁ…あんまり男の俺からは言いたくないんだけどな…」


瀬野くんが言うには、俺は織田くんと同じくらいモテ顔らしい。そして、釘を刺される


「自分で自分のことをイケメンだと思ってないのはまだ許せる。山岡みたいに、ちょっと女子に人気だったからって、調子乗ってるのも問題だしな。でも、今のお前みたいに、あまりに無自覚なのは問題だ」


そうは言われても、自分で自分のことをカッコいいとか、ナルシストでもあるまいし、なかなかそんなふうに思わないだろう。

実際、これまでの人生で女子にモテた記憶もなかったし、バレンタインにチョコなんか貰った覚えもない


「無自覚過ぎるのは、逆に敵を増やすぞ?」

「え?」

「敵、っていうのは男子な」


瀬野くん曰く、女子にイケメンだなんだと噂され、騒がれるよう存在が、それに気付かず「僕は全然カッコよくもないし全くモテません」と言い続けるのはただの嫌味だ、と


「でも、今までモテた記憶とかないから…」

「でも、あのお姉さんと付き合ってる」

「うん」

「あのお姉さん、綺麗だよな」

「う、うん…」

「お前ら、釣り合っててお似合いだよ」

「へ?」

「傍目にはそう見えてんだよ」


なんでだ…なんでそんなふうに見られるんだ


瀬野くんは俺の目を見て言う


「髪切って、顔がよく見えるようになったからだよ。俺だってそれまでは、悪いけど緋村のこととか、ほとんど視界に入ってなかった。それは本当にすまん…」

「いや、それは仕方ないから…」

「でも、今俺はお前を友達だと思ってるから言うけど…悔しいけどイケメンだと思う」

「え…」

「髪切ってから、お前もそういう覚えがあっただろ?女子によく見られるとかさ」


言われてみれば、そうだったのかも…

仁科さんも、たまたま俺の顔見た時に、とか言ってたような気がするな…


「………」

「な?だからとりあえず理解しろ。でも、調子には乗るな」

「…分かった」

「よし!」


そう言って俺の背中を軽く何回か叩いた後、ニッと笑う瀬野くんはカッコよかった。

それに俺の事を友達だと思ってる、って言ってくれたのが凄く嬉しかった


「あの…俺、今まであんまり誰かと接することとかなくて、いろいろ分かってない事があると思うんだ」

「そうだな。見てりゃ分かるわ」

「だから、これからもいろいろ教えて貰えないかな…友達として…」

「当たり前だろ?何かあればすぐ言えよ」

「ありがとう」



俺は小学校で転校して以来、たぶん初めて友達だと言える存在ができたんだと、そう思ったら嬉しくて泣きそうになった。

なんか、静琉と付き合いだしてから、妙に涙脆くなってる気がする…


「な!?なんで泣きそうなんだよ!」

「泣いてないから!」

「俺が女子ならどうするつもりなんだよ!」

「なんだよそれ!」

「その泣きそうな顔は駄目だ。反則だ」

「だから泣いてないって!」

「分かった分かった」


そう言って笑いながら瀬野くんは歩き出し、俺もその後ろを追うように歩く。

隣に並んでも、笑顔で俺と話してくれる。


そうか…友達って、いいな



今日、俺は本当の意味で、瀬野くんと友達になれたと思った






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