第50話 ほぼ…


「蒼くん。行こ?」

「う、うん」

「緊張してるの?」

「そ、そ、そんなこと…」

「うふふ…好き…」

「くっ…!」



「「いらっしゃいませ」」


俺は今物凄く緊張している。

何故かと言うと、そう、ここはジュエリーショップ。そう、人生初のジュエリーショップ

ジュエリーショップジュエリーショップジュエリーショップジュエリーショップジュエリーショップジュエリー……


「わぁ〜。いろいろあるね」


はっ!?


俺の腕にくっついて、嬉しそうにショーウィンドウを見る静琉は、相変わらず暖かくて柔らかく、我に返る俺。

緊張してるのは本当にそうなんだけど、こういう時、彼女の笑顔を見ているだけで、好きが止まらなくなりそうな自分が怖くなる




「どのような物をお探しですか?」


少し長そうな黒髪を後ろで一つにまとめ、黒いスーツに白のブラウスを着た綺麗な店員さんが聞いてくる。

俺はなんとか「ペアリング探してて…」と答えるのがやっとだった


「それでしたらこちらに」と、いろんな指輪が並んだ棚に案内される。


この場の雰囲気と、隣の彼女、そして対応してくれてるお姉さんに俺は緊張しっぱなしで、もう何が何だか…


「ねえ、どれがいい?」

「え…」


普通にシンプルな物からいかにも高そうな物、はたまた「これ、ロックの人がするやつ?」みたいな物まで、本当に、いろんな指輪があるんだと思った。

そして、値段も文字通りピンキリ…


いくらバイトしてるって言っても、高校生の俺に出せる金額はたかが知れてる


「どれがいい?って言われてもな…」と考えながら見てると、シルバーのシンプルで綺麗な指輪が目に付いた。値段も…うん、これくらいならなんとかなるかな


そう思っていると、「あれは?」と静琉が聞いてきた。それは、俺が今見ていた物だった


「え?どうして…?」

「シンプルで綺麗だよね。お値段もお手頃だし、私、あれがいいな」


彼女もそう言ってくれるならと、店員さんに伝え、指のサイズに合わせて調整してもらう

ことに。

その時、サービスで名前の刻印を無料でやってくれると店員さんに告げられ、俺達はお互いの名前を入れてもらうようお願いした。


仕上がりまでの待ち時間があるので、その間近くのカフェで昼食を兼ねて時間を潰す。


「楽しみだね」

「うん。でも、あの指輪でよかったの?」

「うん。蒼くんも気に入ってたみたいだし」


あ…やっぱり見てたのバレてたんだ…


「それにね」

「うん?」

「なんか、自分がいいな、って思った物を、好きな人も同じように思ってくれてるって、嬉しいよね」


ニコニコと笑顔でそう言う彼女に、照れくさかったけど、俺も「そうだね」と笑顔で返す


緊張して恥ずかしかったけれど、こうしてるのってなんか幸せかも…とか思ってしまう




二時間くらいカフェで時間を潰し、その後適当にブラブラして、それからお店に戻る


「お待ちしておりました。こちらになります。いかがですか?」


豪華な感じではないけど、それでも綺麗な箱に収められたペアリング。

それを二人で手に取る。


「ここで付けられますか?」

「いえ、このまま持って帰ります」

「え?」

「そうですか。では、ありがとうございました。またのお越しを」

「はい。ありがとうございました」



お店を出てすぐ聞かれる


「どうしてあそこで付けなかったの?やっぱり恥ずかしかった?」


少し残念そうに言う静琉


「ん〜…恥ずかしかったっていうのはもちろんあるんだけど、でも…」

「でも?」

「ちょっとこっち来て」

「え?」




夕暮れ時、駅の近くにある公園に、二人でやって来た


「どうしたの?」

「うん…」


俺…今まで付き合ったりしたことないし、付き合ったって言っても、まだそんなに長い期間経ってないし、一人しか…静琉しか知らないし…、でも…


俺は「SOUSUKE」と刻印の入った指輪を箱から取り出し、そっと彼女の右手を手に取り、その薬指にはめる


「え…」

「静琉?」

「う、うん…」

「ずっと、静琉とずっと一緒にいたいって思ってるけど、でも俺はまだ高校生だし、今はまだ、将来の事とか、これから先の事はよく分からないんだ」

「うん…」

「ごめんね。無責任な事は言いたくなくて」

「うん…分かるよ…」

「でもね、いつか、ちゃんと左手にはめてあげられるようになりたいって思ってるから」

「え…」

「だから…その……今は、これで許してほしいんだ…」

「…蒼くん……」

「静琉…いい…かな?」

「…分かった。私…待ってる…」

「ありがとう」

「…これ…ほぼプロポーズ…」

「え!?」

「ふふ…」

「いや!そんな…」

「え?違うの?」

「違うというかなんというか…」



その後、俺も右手の薬指に彼女に指輪をはめてもらい、公園を後にする


静琉はずっと嬉しそうだったけど、でも、少しだけ目が赤くなってて。

もしかしたら、嬉し涙を我慢してたのかな?それくらい喜んでくれたならいいのにな


そんな事を思いながら、俺は彼女と手を繋いで駅に向かい、帰路に着いた






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