第一話 2043年異星人街新宿
2043年―新宿
高層ビルが摩天楼の如くそびえ立ち、無造作に立ち並ぶ街、新宿。その下をネオンの明かりに照らされながら人々が日々の生活を送っている。
そんな煌びやかな高層ビル群の中で、その装いとは真逆のビルが一つ。年季の入ったと言えば聞こえはいいが、ようはかなりのオンボロだ。
そのビルの一室にオフィスを構える男が一人いた。髪をオールバックにまとめ、白いシャツとジーバン。緑色のトレンチコートを着た20代前半と言う感じだ。
男はブラインダー越しに街の様子を眺める。
新宿の街は先日から梅雨入りしてどこもかしかもびしょ濡れだ。それでも人々は色とりどりの傘差したり、中には合羽を着て歩く者もいる。
高層ビルの上から見上げると、その光景はまるで万華鏡の中を覗いてるようだ。
しかし、その人だかりの中には、よもや人とは思えない者も入り混じりながら練り歩久野が見える。
魚のようなヌメヌメとした肌を持った者。
腕を四本も持った者。
耳が長く身長が子供ぐらいしかない者
さらにはサイケデリックな色合いをした人外まで普通に歩いている。多種多様な人種が行きかう光景は傍から見れば百鬼夜行のようだ。
(なんか、また増えたな)と男、日野隼人は異形が混じった人だかりを見る。隼人は起用に片手で手帳を開き、その中身に目を通す。
現在2043年。今この星には純粋な地球人以外に1999年に飛来した異星人達と共存している。
事の発端は1999年12月31日。人々は新しい年を迎えようとしていた頃だ。一部の界隈ではノストラダムス大予言がとかで別に意味で沸き立っていたが。
当然ながら世界は滅亡しなかったし、アンゴルモアの大魔王とかいうみょうちきりんな者も現れたりはしなかった。
今でこそノストラダムスの大予言には世界が滅ぶなどの記述は確認されていない事などで知られているが、当時のテレビの特番で色々脚色してしまったせいで破滅思想などが蔓延るようになりカルト教団が多く出来上がってしまった時代でもある。
だがその変わりに地球に現れたのは故郷を失った異星人を船団だった。
当然、世界中大騒ぎなった。新聞や雑誌一覧には【ノストラダムスの大予言は本当だった!】とか【異星人による地球侵略か!?】などと面白おかしく煽り立てていた。
しかし、新聞の見出しとは裏腹に、彼らは別に地球を滅ぼしに来たわけでも支配にきたわけでもなかった。彼らは宇宙の難民だった。
邪悪な存在に故郷である星を滅ぼされ、何万光年もの間、宇宙を漂流していた。
最初は一種族だけの難民船だった。しかし宇宙を何年も旅している間に同じ境遇の難民となった者たちが集まり一つの船団を作ったそれが難民船団
そして銀河を渡り彼らは、はるばるこの地球にやってきた。
安住の地を求め、そしてその星の者たちにこれから襲い来るだろう脅威を知らせるために。
彼らは当時の総理大臣を船団の宇宙船へと招いた。彼らの星々で起きたことを見させられた日本政府は大急ぎで国連へと繋ぎ彼らを紹介した。
当然だが、各国は正体不明の異星人達を警戒した。
しかし、彼らの必死な訴えと総理大臣に見せた故郷の映像のおかげで何とか信頼を得ることが出来、各国は受け入れ態勢を取ることになる。
彼らは見返りとして難民船団の技術、オーバーテクノロジーを各国に提供し、日本だけではなく諸外国もみるみるうちに発展していった。
「この街、更に窮屈になっちまったな…」
そうつぶやくと隼人は写真立てに飾られている写真を見る。
写真には白いアーマーのような物を付けた7人の男女。肩を組んで笑いあっている。
隣の他の人間たちよりも背が高く、水色の髪をした女性に肩を回され、少しバツの悪そうにしてるのが隼人だろうか。
隼人は深いため息をしてから、写真から視線を外し机の引き出しから大型のやけに近未来的な拳銃を取り出す。
それはかつての防衛軍向けに支給されていた大型拳銃だ。今では拳銃のコレクターか。元軍役ついていた人間しか持ってないレトロ品だ。
手慣れた手付きで拳銃のエネルギー残量を確認する。かつての相棒、だが、その相棒も今になっては威圧以外の意味を持たない。
今だに携行しているのは色んな人種が行きかうこの街では必需品となってしまったからだ。
隼人は銃を懐のホルスターにしまう。オフィスに鍵をかけて部屋から出ていった。
隼人は真っ直ぐビルに備え付けられたエレベーターに向かう。いつも使っている物だが乗っているといちいち揺れて酔いそうになる。
なにより一度降りてくるまで10分以上もかかるのだ。
どうにか出来ないかと、このビルのオーナーにも問い合わせて見たが、やると言ったきりずっとこのままなので諦めることにした。
そのため取材に行くときは通常の時間よりも早めにいくことにしている。
男、日野隼人はフリーのジャーナリストだ。ネタを探しては事件がある所に出向く。警察連中からはハイエナと呼ばれて、ブラックリスト入りを果たしている。
しかし今回はネタのために過去の情報を漁っていたわけではない。もう一つの仕事のため情報を集めていたのだ。
「にしてもお偉方も無理難題を言いなさる。いるかも分からねぇ連中を探してくれなんざ」
数日前に隼人の元に政府の人間を名乗る者が現れた。大柄な男でどこかの映画で見たことがある黒いスーツに黒いサングラスを付けていた。
その内、ボールペンのような物でもかざしてきそうな雰囲気はあったが、そんなこともなく、
男はとある依頼を隼人に持ち掛けてきた。
それは難民旅団が伝えたとある伝説の戦士達を探してこいという。名を「鋼鉄戦鬼」。この太陽系より何万光年も離れた宙域に存在している戦士達の総称らしい。
しかし鋼鉄戦鬼という名前は、当時の地球人が異星人の言葉を翻訳出来なかったので勝手に名づけられた名称だそうだ。
なんでも凄まじい防御力を誇る鎧を装着して、超能力を操る戦士達なのだそうだ。そして外敵を打ち倒す姿は鋼鉄の鬼の如しということで鋼鉄戦鬼というコードネームがついたらしい。
今では精度の高い言語変換機があるおかげで普通に会話も出来る。
しかし当時の変換機はそこまで性能がよくなかったそうで、対話するのにも何十時間もかかったとか。
当時の対話の相手は小柄で耳長の異星人。ドゥル族の長が務めていたようだ。
彼らは鋼鉄戦鬼の事を【ヴァルバム】と呼んだ。
これを現在の地球の言語に変換するとこういった意味になる。
「戦いの精霊か…」
そうつぶやくといつの間にかエレベーターが来ていた。
隼人はそれに乗り込むと新宿の街へと向かう溜めに気を引き締めた。
しかし…不幸な事は唐突に起きることだ。日野隼人はしっかりと気を付けていた。
宇宙人の移民による人口増加は文明を発展させはしたが、それによる犯罪係数も年々増加している。
そのことは隼人はもちろん知っていたし、現地に住んでいる隼人はそのことを知りつくていた…はずだった。
隼人はまるで鬼ような形相で商店街を走っていた。
目の前には緑色のタコ頭の異星人が長財布を片手に走っている。
「くぉらぁ!! 俺の財布返せ! このタコ野郎!!」
異星人に怒声を浴びせながら走る隼人。どうやら、この異星人に隼人のサイフが擦られてしまったみたいだ。
思いのほか足の速い異星人。そして鬼の形相をでそれを追いかける隼人という構図が出来上がっていた。
しかし、体力面では異星人の方に軍配が上がり、次第に隼人の体力が尽き始めてしまい、差が広がり始めてしまう。
それでも隼人が諦めない理由は、その財布の中には今月分の生活費。全額入っているからだ。
「へへ、所詮は地球人! 我の体力には到底及ばないな!」
「ふ、ふざけんな! そこにはなぁ! 俺の生命線がぁ…」
「悪く思うな。地球人よ! この金は我が命を繋ぐ! そのためなら些細な事も許さ「許されないわよ!」ぶべぇら!」
タコ頭の異星人は、自身の頭に深々と突き刺さった飛び蹴りによって吹っ飛ばされる。
更に地面に落ちたところで腹部を何者かに踏みつけられる。
必死にもがいて、踏みつけている張本人の姿を何とか見る。そこには鋭い三白眼をした赤髪の少女が立っていた。
そしてその手には先ほどまで持っていた隼人の財布が収まっている。
「あ、我の財布!」
「あんたのじゃないでしょ!」
「ピギャッ!」
突然、彼女の足蹴していた足が小さな光を放つと辺りにほんのりとタコのいい匂いが漂い、心ばしかタコ頭異星人の体も赤みがかっているように感じる。
どうやら彼女の足から微量の電撃が放たれたようで、それがタコ頭異星人を軽く焼いたのだ。
周囲にどことなく美味しそうな匂いが漂う。
「あの子は一体何なんだ?」
隼人は突然現れ、異星人を相手取る少女に視線を送る。視線に気づいた少女はこちらに手を振って笑顔を返す。
隼人も慌てて、笑顔を返した。それを確認した彼女はすぐに足元のタコ型異星人に視線を戻す。
「あんたクトゥ星人でしょ? 大人しくしないなら、今度はもっときつーいのお見舞いしてあげましょうか?」
そういって彼女は自分の手を光らせバチバチとスパークさせてみせる。
その光景に恐れおののいたタコ頭こと、クトゥ星人は涙目になりながら大人しくしているしかなかった。
すると肩で息継ぎをしてながら隼人が追い付いてきた。
「や、やっと…追いついたぁ…このタコ…?」
隼人は今、目の前で起こっていることに困惑した。
先ほどまで追いかけていたタコ頭の異星人、クトゥ星人が赤毛の少女に踏みつけられてほんのり焦げて取り押さえらている。
「これは…一体?」
「ああ、あなた? この財布の持ち主? はい」
「おお、ありがとう」
そういうと少女は手に持っていた財布を隼人に投げ渡す。
彼はパシッと掴むと、すぐさま中を開く。
クレジットカード、紙幣に小銭、各種ポイントカードまで全てが元の状態のまま入っている事に安堵した隼人は少女の方を見る。
赤毛の少女はそこらにいるギャルと別に変らない見た目をしている。
整った顔立ちと引き締まった身体に赤と金のノースリーブトップスに金の腕輪、右手には黒の腕袋、左手には茶色の指ぬきグローブ。短パンにハイニーソ。
さらには首から下げているのは鹿の頭を模した首飾りといったいわば攻めた服装をしている。
そしてよく見ると彼女の目の部分に黄色いクリスタル状の物が埋め込まれているようにも思われる。
一瞬、ギャルがよくする飾りのような物だと思ったが、雷が発せられた時バチッと小さなスパークが散ったのを隼人は見逃さなかった。
「お前、異星人か?」
「…ワタシ・チキュウジン・ダヨ!!」
「密入国してきた外国人かよ…お前の目についてるクリスタルが光ったのが見えたんだよ」
「え…あちゃ~やっちゃったぁ!」
「まったく地球に来たばっかり何だろうが、あんまり派手にやらないほうがいいぜ? この区域のガードは特に厳しいからな。まぁとにかく、財布取り返してくれてありがとうな」
隼人は「さてっ」といい、大人していたクトゥ星人を担ぎ上げる。
クトゥ星人は小さく「ぴぃっ」と泣いたが先ほどの電撃で体が痺れてしまい身動きが取れず、なすがままにされるしかなかった。
すると先ほどの少女が立ちふさがる。目を吊り上げて怒っているようだ。
「なんだよ。どうかしたか?」
「その人、どうするの?」
「ああ?」
どうやら少女は隼人がクトゥ星人に危害を加えるのでないかと心配しているようだった。
隼人はクトゥ星人の頭をはたきながら意地悪そうな笑みを浮かべてみせる。
「こいつか? こいつはな…」
「クッ!」
少女は構えを取って、腕からバチバチと電気をはじさせて見せた。
「病院だよ」
「へ?」
隼人の言葉に彼女は間抜けな声をだし、腕に纏っていた電気が霧散する。
「ここいらでこんな美味そうな似合い漂わせてたら、野良犬が出てきて食われちまうからな。それにまだ一人じゃ動けそうになさそうだしな」
「だ、旦那ぁ~!!」
「ああ、そう…」
「そういうことで、んじゃぁな」
「うん、じゃあね」
隼人が少女に踵返して病院に向かおうとしたその時だった。突然巨大な地震が起こる。
揺れは激しく超高層ビルから次々と窓ガラスの破片が落ちてくる。
「なろぅ!」
隼人はとっさに抱えていたクトゥ星人を建物の中に投げ込み逃がす。
降りしきるガラスの雨に、もはや逃げ場がなく串刺しになる運命から逃れられるすべがなくなった隼人は目を瞑り、覚悟を決める。
…しかし、いくら待っても予想してきた痛みはこず、目を開く。
そこには隼人に振ってくるはずだったガラスの破片が金色のバリアのような物に止められているではないか。
このバリアの発生源を見つけるため辺りを見回すとそれは、先ほどの少女。彼女は右手を天にかざし、その手からこのバリアが形成されている
「大丈夫!?」
「あ、ああ…」
「そう! それなら早く安全なところに行って!」
「分かった」と言い隼人はクトゥ星人を投げ込んだ建物の中に入っていく。それを確認した少女はバリアの出力をあげるとガラスの破片が溶け出し、小さいな塊になる。
少女がバリアを薙ぐように消すと塊になったガラスが今度こそ雨のように落ちた。
その一部始終をみていた隼人は額から冷や汗を流す。内心「何者なんだ」という問いかけの前に体が動き彼女の元に駆け寄っていた。
「おい、嬢ちゃん! 大丈夫か!?」
「大丈夫! それよりも、この地震の震源ってどっちかな?」
「え? う~んどっちだろうなぁ…地震速報もまだ来てねぇしっておい! どこ行くんだよ!」
「自分で震源を探すのよ。もしかしたら、あいつかもしれないし…それより、さっきのタコさんちゃんと病院に連れてってね!」
一方的にそれだけ言うと、少女は走り去っていってしまう。取り残された隼人はガラスが降り注いだ場所に立ち尽くすしかなかった。
◇ ◇ ◇
紅の少女、アルテミスは尋常じゃないスピードで街の中をすり抜ける。さっきの地震は間違いなく先日、月で倒した異形の怪獣と同じ邪悪な気配を感じていた。
彼女が地球を訪れたのはつい昨日、
宇宙船を認識遮断して地下に隠し一日中のこの都市を見て回っていた。
どうやらこの星では定期的に怪獣が投下されてこんな巨大なプレートで都市を囲まなければならなくなってしまっているそうだ。
その上だからか人々のストレスレベルも高く犯罪率もかなり高いみたいだ。隼人の件も含めればもうすでに三件も犯罪現場に出くわしている。
殺人に麻薬の売買、それからスリ…どちらもアルテミスの活躍により解決してしまった。
もちろん先ほど隼人に注意されたやり方で、だ。
しかし、鋼鉄戦鬼として育てられた彼女にとって悪事を見逃すことは自身の信念に反する行動でもあった。
それに母星のことわざでも「降りかかる火の粉は払え。降りかからない火の粉でも全力で払え」と言われていた。
だが、彼女がこの星に来たのは犯罪者を取り締まるためではない。今、感じているこの邪悪な気配を放つ存在を打ち倒すため。
そのためにこの星、地球から何万光年も離れた忘れられし宇宙にある惑星ボルトから遥々やってきたのだ。かつて父親であるゼウスが守った星だから。
アルテミスは突然、急カーブしてビルの路地裏に入りこむと短パンのポケットから丸い物体を取り出し耳に押しあてる。
「エリィ? 聞こえる?」
『アルテミス』
丸い球体、通信ポットから透き通った声をした女性の声が聞こえる。エリィと呼ばれた女性は淡々と話し出す。
『先程の地震、ヒューマイノイドタイプの異星人が降り立った結果起きた模様です』
「やっぱり、そうだったのね。エリィ、ゲート開けて。船に戻るわ」
『それでは?』
「ええ、鋼鉄戦鬼アルテミス。出撃よ!」
『了解しました』という声と共に宇宙船へと繋がるワームホールが開くとアルテミスは駆け足気味にその穴に飛び込んでいった。
視界が一度ブラックアウトして、一気に開ける。そこには地球ではまず見れないであろう機械の部品で作られた広い部屋。
その部屋に真ん中には宇宙用のボディスーツを着た赤髪ロングヘアーの女性。耳には尖がった形の通信機が付けられている。
彼女がエリィ、アルテミスと同じ惑星ソーマからやってきた。
アルテミスの世話係だ。
エリィはアルテミスを視認すると笑みを浮かべて深々とお辞儀をする。
「おかえりなさい。アルテミス」
「ただいま! エリィ! すぐにバイオアーマーの準備して!」
「了解しました。準備する間にスーツを着て、髪の色を戻していてください」
「分かったわ」
虚空に指を鳴らすと半透明のディスプレイが表示される。
そこに書かれている絵と文字ともとれる者に触れると一瞬で神の色が赤毛から美しい銀色へと変化する。これが彼女の本来の髪の色だ。
ディスプレイを回転させると今度は体を表しているかのような画面に切り替わる。
アルテミスは一番下の赤いボタンを触ると今まで着ていた服がドロリと溶け、体中に広がり、色も赤から紺色へと変化する。
みるみるうちに広がり、ボディスーツへと変化した。
全身紺色のボディスーツには所々黄色いラインが入っているおり、全てが彼女の心臓に集結しているように見られる。
「準備できたわ!」
「こちらも大丈夫です」
「ありがとう! 所で敵は?」
「モニターに写します」
エリィがそういうと指を打ち鳴らす。すると彼女たちの目の前にモニターが現れ、そこには真っ黒な巨人が町を破壊している姿が映し出された。
真っ赤な瞳と胸と肩についているクリスタルから赤いビームを放ち、街や人を焼き払っていく。
「素体のままですね」
「融合体じゃないなら、さっさと倒すわよ!」
「了解。アルテミス、ポットへ」
エリィに促されるまま、アルテミスは部屋の奥へと進み、備え付けられているポットに入る。
すると部屋のどこからか、エリィの声が聞こえてくる。
『これより、バイオアーマー装着へと移行します。その後は宇宙船より射出。船外に出たら
「分かったわ」
『それではシークエンス開始コードをお願い致します』
「ええ…Αστραπή! Χτυπήστε!《稲妻よ!鳴り轟け!》」
コードを叫ぶとアルテミスの腕と胸が光を始め、ボディスーツの上から金色に輝くクリスタルが出現する。
これこそアルテミスの母星、惑星ソーマに伝わるボルトクリスタル。
ボルトコアと呼ばれる惑星ソーマの命の源ととも言える巨大なクリスタルに認められし勇者の証だ。
『シークエンスフェーズ1 開始 生体金属開放』
エリィのとともに、アルテミスの足元からドロドロに溶けた金属状の物体が溢れ出し、彼女の体に這い上がってくる。
しかし、アルテミスは動じない!
体に纏わりつく重いドロドロが全身を覆うまで身動き一つしない。
『フェーズ1 終了 フェーズ2に移行、生体金属を定着させます』
今度はポット全体に電撃が走り、生体金属が刺激され個体がしていく。体中に走る金色のラインに沿ってアーマーが形成されていく。
形成され終わるとアルテミスのボルトクリスタルが輝き、さらなる刺激を受けた生体金属が変色を始める。
銀色に輝く胸全体を覆う胸当てと腕宛。足の装甲と、胸部分から伸びるラインは太ももに絡みついている。
それ以外は紅蓮に染まる。体の所々にはボディスーツが見えているが生体金属が溶け込んでいるので硬度は変わらない。
これこそが伝説に名高いヴァルバムの生体鎧。そしてそれを身に纏う彼女こそが宇宙の守護者、鋼鉄戦鬼アルテミス‼
『最終フェーズに移ります。アルテミス、用意は大丈夫ですか?』
「ええ大丈夫よ!」
『了解しました。レールガン起動』
エリィの声と共にポットがアルテミスを乗せたまま上昇を始める。行先はもちろんレールガンの発射口。打ち出す弾丸はアルテミス。
『戦艦オデッセイ浮上します』
渋谷の街が見える丘の上から真っ白な雫のような形をした船が出現すると雫型の上部が弾け飛び、弾け飛んだ破片がレールガンの砲台へと形成される。
その光景をクトゥ星人に肩を貸していた隼人は目撃していた。
「何だ…ありゃ…」
全長300mにして砲台は190mはいっているだろう。地球で建造すれば国家予算など軽く飛ぶ程の超大型戦艦だ。
そんな物が突然、丘の上から何も破壊することなく出現したのだ。逃げ惑う人々の足を止めてしまうのも致し方ないことだった。
その一方、戦艦オデッセイではすべてのフェイズを終えるために最終段階へと入っていた。
『射出角度調整』
「了解、射出角度調整。目標ダークロイド」
アルテミスの指示に従い、Ⅾパットを使い、レールガンの砲台をダークロイドへと向ける。エリィはパットの画面を操作し発射体制に入る。
座席と操作盤が出現しエリィが座ると操作盤から粒子が溢れ丸い拳銃のような形成される。
その銃口をしっかり握るとアルテミスに連絡する。
「全てのフェイズが終了しました。スリーカウントで発射致します」
『分かったわ。行くわよ!』
「レールガン発射まで、3、2,1…発射!」
エリィが引き金を引くと、レールガンの砲台にエネルギーが充填される。ポットからその光景が見えたアルテミスには金色の光る世界が見えていた。
しかし、次の瞬間、激しい衝撃とともにビル街端々が視界に広がる。レールガンから撃ちだされたアルテミスはビルを抜けて敵の姿が眼前広がる。
「行くわよ!」
そう叫ぶと拳を打ち付ける。
すべてのボルトクリスタルが光り輝き、ヴァルバムの鎧にエネルギーを与えていく。
エネルギーが溜まったヴァルバムの鎧からアルテミスの体に流れる巨人の遺伝子を刺激する酵素が分泌され、彼女の体は急激に巨大化していく。
そして、レールガンの速度を身に纏ったまま、敵の目の前で巨大化した彼女から強烈な飛び膝蹴りが叩き込まれる。
敵、黒い巨人は突然の不意打ちに無様に吹っ飛ぶ。
アルテミスは巨人を吹っ飛ばした反動を利用して、クルクル回転しながら華麗に着地した。
彼女はゆっくりと立ち上がり、転がっている黒い巨人を見据え挑発するかのように手招きをすると不敵な笑みを浮かべて拳を握り構える。
こうしてアルテミスの最初の戦いの幕が広がったのであった。
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