唇
いつになっても二人で眠ることは緊張する。
きっとわたしは何度、何夜繰り返しても慣れることはないのだろう。どうにも眠ることができなくて、隣でいびきをかいている小さく整った鼻をつまんでみる。那央は気付かない。寝ているとわかっているのに、もう寝た?と小さくつぶやく。いびきが返事の代わりだった。諦めて大人しく寝ようとわたしは那央の腕に体を沿わせて目を閉じた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。わたしはいつのまにか寝ていて、それでも絡みつく那央の足と腕に起こされた。那央がわたしを抱きしめている。それもものすごく力強く。何度も何度も抱きしめ直すその度に痛みを感じるほどに。那央はいま、どんな顔をしているのだろう。気になるのに、見ることはできない。それは、どうしてもできなかった。腕の中にいたし、なにより今那央が誰のことを考えているのか自信がなかった。那央はこの日3回強く抱きしめてきた。わたしはずっと隣で寝たふりをしていた。那央はわたしのことを好きではない。それはわかっているのに、いつだって期待をしてしまう。寝ぼけて骨が軋むほど強く抱きしめる理由をいいように考えてしまう。
だからわたしもこっそりキスをした。3回。
那央の唇は乾燥していた。
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