第3話 昇級
第3話 昇級 Part1
彼女は、危険なモンスターを退治することを生業とする家系に生まれた。
幼い頃から嫌というほど聞かされてきたあのカードも例外ではない。
"皆を悪から守る立派な家系"
周囲は果地家に尊敬の眼差しを送っていた。
しかし、風潤は果地家の在り方に疑問を抱いていた。
親戚や家族は皆、危険な存在から人々を守ることよりも、他人からの評判や自分自身を守ることを重視していたのだ。
顔を合わせれば、誰が優秀かで始まり、日が暮れても結論は出ない。
そのような人間に嫌気がさし、彼女は数年前に家を飛び出した。
元々、才能に乏しいと言われていた彼女を追ってくる者はいなかったのは都合がよかった。
人やモンスターの平和を目指し、五仕旗に関わる点は彼女の実家と大差ないのかもしれない。
しかし、
特に
いつの日か、彼らのように…。
だが、いざとなるとどうしても自信がない。
憧れた人々のようにやっていける自信がなかった。
悩みに悩んだ末、事務やその他の仕事を引き受ける
消極的な理由で希望した部。
始める前は、僅かばかり後悔もあった。
派手な仕事はないものの、人の役に立っている気がした。
"果地"の名を聞いて、何か言ってくるものがいるかも(良いことも悪いことも)と懸念していたが、表情ひとつ変えない様子を見るに、誰も果地家を知らない様子だった。
先祖がかつて、あのモンスターを倒した時はどうだったか知らないが、時の流れというものは名声などあっという間に消し去ってしまうものらしい。
家の人間が今も、"自分達が優秀な人間として世間に英雄扱いされている"と勘違いしていると思うといい気味だった。
自身をおだてて取り巻く、ごく一部の都合の良い人間しか、彼らは見えていないのだ。
ある朝、自宅でテレビを見ようと電源をつけた。
何やら騒がしい事件が起きていることはすぐに分かった。
表示されている文字を見て目を疑った。
「(あいつが…)」
幼い頃から親の仇のように言い聞かされてきたモンスター。
実家の地下深くで大人しく眠っていたはずのそいつは、知らぬ間に世に放たれていた。
果地家はその事実をしばらく伏せていたようだ。
奴の存在は世間に知られていないが、その存在を知らない者がいないわけではない。
黙っていても、いつかは果地家が注目される。
危険なモンスターをみすみす世に放ったとなれば、面目も何もない。
しかし、いよいよどうにもならないと判断すると、
そのモンスターは、街を攻撃したのは自分だと主張した。
数週間前に"何者かによる攻撃"としてニュースになっていた。
恐らくその時には、奴は果地家から脱出していたのだろう。
本人曰く、"復活したばかりで力が弱まっているだけで、元の力を取り戻せばこんなものでは済まない"ということだ。
そして
それから数日後。
仕事は例の件の影響で忙しかった。
家でテレビを見る。
その日はどのチャンネルも同じ内容について放送していた。
隣接する
「えっ!? 類清!?」
信じられなかったが、他人のそら似と結論づけるにはあまりにも乱暴だった。
子どもの頃はよく一緒にいたが、ある時を境に会う回数が減って以降、彼との関わりは街でたまたま会って挨拶する程度。
しかし、大人になった彼の顔ははっきりと覚えていた。
風潤は
彼の連絡先は知らなかったが、彼の友人の連絡先は知っていたので、考えるよりも先に連絡する。
流導類清は、
部が異なるとはいえ、彼が自分と同じ職業に就いていることは知らなかった。
「でも、何で類清が…」
自分で疑問に思っておきながら、その答えは分かっているような気がした。
端的に表すなら、正義感。
彼は昔からこのような事態から目を逸らすことができない性格だった。
今も変わっていないならば、きっと…。
私はどうだろうか。
家族や親戚を良く思っていないとはいえ、逃げていたのは事実。
家から出ることで、"何があっても復活させてはならない"と言われ続けてきたあのモンスターからも逃げていた。
それに、果地の名が世に知れ渡ったら、自分はどうなるのだろうか。
遠い昔に縁を切ったと言っても信じる者はいないだろう。
冷静に考えると、その時行ったところで、入場できるかどうかは分からなかったが、彼女は
半ば強引に休みを取り、後で怒られるのではないかと懸念した。
しかし、"入場を希望する人間を止めることは禁止。指定した日時に集まった者は無条件に入場させる"というのがそのモンスターが提示した条件だったため、敵ではあるが、その条件の世話になることにした。
類清をサポートし、奴を倒すことに貢献できれば文句も言われないだろう。
風潤は戸締りをして、家を飛び出した。
歩いているうちに、段々と冷静になってくる。
「(願掛けくらい、してもいいよね…)」
**********
<社>
この社に足を踏み入れるのは初めてだった。
昔、果地家の人間はよくここを訪れていたそうだが、いつしかそのような風習もなくなってしまったそうだ。
ここには勝負事の神がいる。
それをふと思い出した。
「無事にあのモンスターを倒せますように…」
「久しぶりだな。ここに人が訪れるのは」
突然のことで風潤は驚く。
目の前にはどこから現れたのか、男がいた。
不思議と人間らしい感じがしない。
「え…」
「驚かせてすまない。
何やら困っている様子だったのでな。
私はこの社の守り神。
相談事があるなら話してみるといい」
「守り神?
それじゃあ、あなたがこの社にいるっていう、神様?」
「いかにも」
風潤は事件の経緯を話す。
「(奴が復活したというのか!?
それに彼女は彼の血を引く者…)」
守り神は覚悟を決める。
「果地風潤と言ったな。
私と五仕旗で勝負だ」
「え…」
「どうした?
私に勝てぬようなら、どの道、そのモンスターに勝つことなどできないだろう。
それどころか、他の者の足手纏いになりかねない」
「(足手纏い…)」
風潤には、その言葉が響いた。
「どうした?
勝負しないのなら、ここから立ち去ってくれ。
私も暇ではないのでな」
「勝負します!」
風潤は守り神と距離をとると、向かい合った。
「
システムが起動する。
「やる気になったようだな。
それなら私も、本気で相手をする!
五仕旗…」
「
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