第22話 報せ。


昨日、母さんから父方の祖父母の帰国する日が決まったとの連絡があった。


祖父母が帰国するのは、4月28日の土曜日だ。


今日が、25日の為、あと3日しかない。


その日と翌日の土日はバイトを休まないといけない。

ドタキャン状態で、週末抜けるのは気が引けるが今日中に連絡しないと。


今日はバイトは休みだけど、顔を出すことにする。


久美にも伝えてカモガワバイクの親父オヤジさんにも伝えてもらうことにする。


またもや空手の稽古は休むことになる。

たぶん、GWゴールデンウイーク中はほとんど顔を出せないかな。なんか、謹慎が解けても全然が稽古ができていない。

聡汰は頑張ってるみたいだから組手をやったら差が出そうだ。

あいつ剣道もあるしな。


現生徒会役員も俺んちの事情を知っているから、明日の定期会議の際にでも説明をするか。


議題がGW明けの中間テストと体育祭についてだったな。体育祭はともかく、中間テストについてってなんだ?


※ ※ ※


学校が終わり、久美には事情を説明し親父オヤジさんに伝えてもらうようお願いしてから、アグスタに向かった。


バイクを置き、職員用の入り口から店内に入ると、何故か怜雄がいる。


「怜雄君や、ここで何してんの?」


「バイト募集の広告を見てさ、応募したんだ!それで今日面接なんだよ!厨房希望だぜ!萌こそ何してんの?ここスタッフオンリーって書いてあったぞ。」


こいつ横文字が読めたのか?!(失礼)

怜雄はバイトの面接に来ていたらしい。

やっぱり今の人数じゃきつかったか、ここ最近イタリアン目当てのお客増えたしな。オーナーも渋々了承したんだろうな…。でも、高校生のバイトで間に合うのか?俺が言うのもなんだが実働できる時間が短いからなぁ。


「そうなんだ?実はな、俺もここでバイトしてるんだ。ちなみに厨房だ!」


「マジか、お前がバイトしてるのってここだったのか!生徒会でもなぜか、俺だけ、萌のバイト先を教えてくれなかったもんな…。」

お前に知られると、毎日のように来そうだからな。うるせぇし。

しかし、本当に知らないとは思わなかった。


生徒会役員で集まるときは、割とこの店が多いような気がするんだけどな?


あっ、集まりの時はバイトの事伏せてたからバレてなかったのか?


「俺さ、バイトで金貯めて維持費を払えるようになったら親父のバイクを譲ってもらえることになってさ。そうなれば俺にも彼女もできるだろ!?」


聞いてもいないのに志望動機を話しだしたぞ!?何がなのかがわからないが、聡汰のバイクも父親のを借りてるって言ってたけど、真弓という彼女がいるが、反論するのもめんどくさいので放っておくことにした。

基本的には良いやつなんだけどな…。


「そっか、それじゃ俺は奥に用があるから、またな。」

我ながら塩対応だと思うが、俺にも用事があるからな。


「素気ないな、ま、いっか。採用になったらよろしくな!」

そんなこんなで、怜雄と別れ事務所に顔を出す。


事務所にいたオーナーが声を掛けてくれる。


「今日はバイトは休みだろう、どうした?」


「実は… 。」

時折、言葉が詰まることもあったが、オーナーに父さんが帰ってくることを説明し、明日以降休むことを伝える。


俺の話を聞くなり、オーナーが、泣きながら俺に抱き着いてくる。


「萌、一郎君のことは残念だ。本当に無念だ!でも、彼は帰ってこれるんだ!良かったな。これで、やっと、やっとお前も解放されるな…。一郎君も喜ぶことだろうよ。」


そういえば、オーナーとマスターは父さんの同級生なんだっけ?

二人ともバイク仲間でもあった父さんのことを心配していたのかもしれない…。


「ありがとうございます。オーナー。」

そんなオーナーに俺は、素直にお礼する。


「いや、一郎君のことだけじゃない。どれだけ、お前のことも心配したか…。まぁ、俺だけじゃないが。見てて危なっかしいところが多かったからな。バイトを始めた頃なんかいろんな意味で不安を感じたもんさ。

あの頃はまだ、萌が、一郎君と辰美さんの息子だとは知らなかったしな。」


よくそんな訳の分からない高校生を雇おうと思ったなこの人も…。

しかし、そんなにに心配をかけていたとは気が付かなかったな。申し訳なくなる。


「なんか、申し訳ないっす。ご心配をおかけしました。」

言って俺は頭を下げた。


「なんで萌が頭を下げる?顔を上げろ。心配はな、こっちが勝手にしたことなんだ。雇ったときに不安を感じたことは確かだが、それ以上に面白い奴だと思ったんだよ。暗そうに見せているくせにヤケにハキハキしゃべるし、挨拶、返事もしっかりしてたしな。体を鍛えていたのもすぐにわかったぞ。筋肉は嘘を吐かないからな!」


面接のとき、そんなに観察されているとは思わなんだ。いい評価なのに釈然としないのは何故だろう?


「それから、休みの方は心配するな!俺の嫁さんもヘルプに呼ぶから。お前のことを心配していたのはあいつも同じだからな。それから、正樹にも頑張ってもらうさ。」

と言ってにやりと笑うオーナー。先輩ご迷惑かけます。


「それと義仁が、今、面接している高校生も厨房希望だから何とかなるだろう?洗い場やってもらえればかなり助かるし。」


あっ、そうだった。

「オーナー、あいつも生徒会役員です。俺の同級生なんです。ちなみに良い奴ではありますがお調子者で、…少しめんどくさいです。」

一応、怜雄の特徴を説明しておく。

「ほお、正樹に似ているな…。面白い!鍛え甲斐があるな!ガハハハッ」

泣いたり、笑ったり忙しいヒトだな。普段は静かなのにな。

この人にもずいぶん心配かけてたんだと思うと、また少し反省してしまうのであった。


※  ※  ※


怜雄と面接をしていたマスターに会うことはできなかったが、まだ行くところがあるためアグスタを出る。

そこそこ長い面接になっているが、大丈夫だろうか?


バイクで向かった先は空手道場…、ではなく師範たちが住んでいる母屋の方だ。

俺の師匠である師範と師範代に父さんのことを報告に来た。


父さんが亡くなったことがわかり、現地で荼毘に付した事を伝え、間もなく帰ってくるとの報せを受けていることを伝える。既に何人もの人に説明しているせいかもしれないが思ったよりも冷静に説明することができた。


その為、また少しの間、稽古に参加できないことを詫びた。


師範と師範代は、父の古い友人であった。師範はこらえていたが、師範代は俺の話を聞き泣いていた。


師範は俺が落ち着いて説明している様を褒めてくれた。


「萌がどう感じるかはわからないが、ワシは魂というものの存在を信じている。

故に、たとえ体が消滅したとしても彼の魂は不滅だと思っている。彼は、間違いなく還ってくる家族のもとに。そして、心配性な彼のことだ、萌の枕元に立って説教でもするんじゃないか?俺のことよりも自分の幸せを考えろ!とな。近いうちに仏壇も用意するのだろ?せめて旧友に手を合わせたいから辰美さんにも伝えておいてくれ。」

俺は静かに頷き師範に礼をした。


「押忍、師匠がそう言ってくれて父さんも喜んでいると思います。それに実は、少しに前に父さんが夢の中に現れて、色々と説教されましたよ。今はそのお陰で、家族の絆ってやつも壊さないで済みました。結構ギリギリだったかもしれませんが…。

師範、師範代。ぜひ父さんに会いに来てください。待っていると思います。」


「萌も一気に成長したな。数か月前とは大違いだとおもったら、そういうことか。

彼も萌や家族の姿に責任を感じていたのかもしれないな。でも、ワシは変われたのはお前自身の力だと思っているよ。見た目だけでなく心寧が大きく変わったな。大したものだよ。」


「押忍!ありがとうございます!!これからもよろしくお願いします。」


「おう、またしっかり絞ってやるよ!楽しみにしてろ!」


さっきまで泣いていた師範代が俺に発破をかけてくる。

「さっきまで泣いてた人に言われてもなぁ…。」


「萌…。覚悟しとけよ。」


ニヤリ笑う師範代、揶揄うんじゃなかったか…。

「…押忍。」

「取り合えず、この後まだよるところががあるんで帰ります。失礼しました。」


挨拶を終えた俺は、母屋を出た。


この後行くところ。

それは、モカのところであった。




























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※ このお話はフィクションです。実在のお店、メーカー、バイク・車も登場しますが一切、実在の物とは一切関係ございません。ご了承ください。


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