第9話 変わりゆく日常と心境と・・・
あの猛烈に濃い一日から2週間ほど経ったある月曜日の昼、俺達はいつも通り学食にきていた。
俺は相変わらず自分で作った弁当を持ってきていた。
「相変わらず美味そうな弁当だよな。最近は彩りが増えてきたような気がするんだけどなんか心境の変化でもあったのか?
あの岳との一件の後、明らかに変わったしな。」
「まあ、ここ数日色々あってな。楓と母さんがイメチェンでもしてみたらと煩くてさ。昨日のバイト前に楓に美容院に連行されてこうなりました。」
「色々あってのところが気になるけど。って?お前、母・妹と話ができうようになったのか?……今はまだ聞かない方がいいか?
つうか、俺はお前にいくつ突っ込めば良いのかわからないよ、髪型ともそうだけど、今のは弁当の話な。」
「あぁ、弁当の話か?これはバイト先のオーナーから料理を教わった結果だな。
最近は、盛り付けも教わっていてな。喫茶店辞めておいしいコーヒーが飲めるイタリアンレストランにしたいって、オーナーとマスターが話していてさ。
それと、母さんと楓、2人と話せるようになったのは、ほんとに最近なんだ。」
「なるほどねぇ。良いこともあったわけだ。」
「すまん、仁のことが信用できないわけじゃないんだけどな。まあ、そのうちちゃんと教えるよ。今はまだちょっとな・・・。少しオカルトっぽい話になりそうだし、悪いな。」
俺は苦笑いを浮かべながら、父さんが夢に出てきたあの明け方のこと思い出していた。
あれから、楓と母さんとは何度か会って話をしている。
母の実家ではなく自宅でだ。
バイト帰りだったとき、母さんが家で夕飯を作って待っていて驚かされたことがあった。
それから食事も一緒にとっていくのだけど、その度に何度も謝られた。
話をしていて、泣かれてしまうこともあった。
今まで、言葉とは裏腹に本当に心配してくれたようだ。
ただ、俺の父さんへのこだわりが怖かったと言っていた。
普通の親子関係がよくわからなくなっている俺には、なんだか違和感みたいなものを感じているが、やっぱりまだお互いに消極的になってしまう部分があり、まだまだ遠慮なくは話せないよな。でも会話はできるのだから以前より大分マシだと思っている。
逆に楓は、俺に対して感情を爆発させているみたいだ。
バイトが休みの日に祖父母のところに行くと積極的に声を掛けてくるようになった。
今年、高校受験だから勉強を教えてほしいと言ってきたが、妹の方が優秀であるため俺が教えられることはないと伝えてもなかなか納得してくれなかった。
ばあちゃんからも聞いていたが、小さいころから俺に甘えたかったけれど、色々と必死になっていた俺を見て気持ちを抑え込んで我慢していたようだ。
最近は、それすらも自業自得だと思い込んでいたと。
そんなふうに思わせていたのかと少し罪悪感も覚えた。
今はともかく父さんが行方不明なった頃の妹は俺よりも幼かった、お互い思いや考えのすれ違いが重なっていたのかもな、それなら仕方なかったのかもな。
そのぐらいには考えられる。
少しは気持ちの余裕ができたのだと思う。
たったの2週間で大した心境の変化である。
などと回想に耽っていたが、
仁のひどい言葉で意識が引き戻される。
「そっか。なんというか、先週見たときは、ボサボサでワカメみたいだった髪も、今朝には短髪の
いや、お前の顔をはっきり見たすら初めてかもしれない。
割ときれいな顔してんのな、襟足もなくなってるし、あれって昭和ヤンキーのイメージそのものだったもんな。」
え?そうだったの。
さすがにそれは言いすぎじゃない?
髪伸ばしてただけでさ。泣きたくなってきた。
「髪はだな、楓が自分と母さんの通ってる美容院に行こうって言いだしてな。
たまたま予約ができたからって、支払いも母さんが出すからって、話が進んでさ。そんで楓が美容師に、爽やか系のお兄ちゃんにして下さいって頼んだんだよ、こっちは初めての美容院なのに恐ろしく恥ずかしかったぞ。
バイト行ったらオーナーが、衛生的になってくれてうれしいって喜んでたよ。
道場では知らない人が来たって笑われるし。解せん。」
「マジか。爽やか系って・・・。その一言でここまで変わる人っているんだな。
あとその眼鏡、伊達か?」
「いや、度入りだよ。俺、免許証も眼鏡使用になってるから。」
「え?今までコンタクトだったの?
なんでわざわざ眼鏡にしたんだ?普通逆だろ?空手の時とか邪魔じゃないの?」
「いや、これで良いんだよ。目つきがどうこうと言われるのも飽きたしな。前髪で表情をわかりにくくして、眼鏡だと悪戯で割られたり、隠されたりしたこともあったから。
都度買って貰うのも、眼科やショップには祖父母と通っていたしな。申し訳なくて。コンタクトにしてたんだよ。
それから、空手の時は基本裸眼だから問題ない。」
「ま、似合ってからいいけどさ。メガネ男子ってやつか?雰囲気も良くなったよ。久美なんかも驚いてたもんな。ん?お、お前まさか・・・久美のことを??」
「いや、ないない。仁の好きな女子を、しかも幼馴染で兄妹みたいな子をを恋人にしようなんて考えられんよ。
そんなラブコメの悪役じゃあるまいし。
俺のこと心配してるなら、久美に早く告ってしまえ、横入りするやつがいるかもしれんぞ。あいつも可愛い部類に入るだろうし。
中学の時とかも普通にモテてたみたいだぞ。」
お互い好きあってんのに何故に告白イベントにならんの?サッサと付き合えばこっちも気楽なのに。
真弓たちを見習ってくれよ。
あれ?あいつらっていつから交際してんだっけ?
「なら、いいんだけどよ。
最近そんなことがあったような気がしたからよ。油断できんよ、まったく。
俺だって告りたいとは思ってるよ。
でもまだ自信がないというか、勝算がないというか。」
「勝算がないわけないだろ!?お互い分かってやってないよな?」
「何がだ?とりあえず俺の話はいいから、そのカツ一つくれ!俺のから揚げやるから。」
「いいぞ、唐揚げもうまそうだし。
ちなみにカツレツな。とんかつとは違うから、そのまま食え。」
ソースも何もつけてないのか?みたいな顔しているな?そのまま食っていいのだよ。
「ありがと。う、ウマっ。ナニコレ。冷食じゃないよな?」
「当たり前だ。薄切りにした鶏むね肉に味付けして、衣に粉チーズとパセリを混ぜてあるんだよ。それを揚げ焼きにしてさ、意外とさっぱりしててうまいだろ。しっかり塩ふってあるから弁当のおかずにしても問題ないし。夕飯に作ったついでに昼の分も用意しといたんだよ。」
得意満面の笑みを浮かべる。
「マジか?手が込んでんだな。
しかし、なんだな。たかだか数日で人?性格?が変わったよな。ほんとに。というかこっちが素なのか? あ、厚焼き玉子もくれ。」
「玉子か一切れなら。その漬物は俺にくれ。
そんなに変わったか?
俺に聞かれても、よくわからんけどな。
久美には、髪型と眼鏡以外は特にツッコまれなかったな。
あいつの家にいるときは大体こんなもんだったということだろ。
あのバイクショップは実家みたいに落ち着くんだよ。
親父さん達にも良くしてもらってるしな。むかし、父さんとも通ったからな。」
「あぁそうかい。久美の家に入り浸ってんのかよ・・・。思い出まであってうらやましいな。」
「拗ねんなよ。仁も来ればいいじゃんか。
お前にバイクメンテ教えてやるよ。
なんなら久美に教えてもらえばいい。」
「気楽にいってくれるよ。でも、お邪魔してみるかな、そろそろ俺もハジメとばかり遊んでたんじゃ勘違いされちまうしな。」
ん?なにを勘違いされるって?
「さて、そろそろ戻るか。」「だな」
さて、午後の授業が始まる。
※
放課後、今日はバイトがはいっている。
遅れるわけにはいかないので、早々に礒部家に向かいバイクを回収したいので、怜雄のいるC組へ向かう。
仁は、久美と帰るらしい。昼のことがあって少し積極的になったなら嬉しいが。
俺が向かうと、
「おいっす、用がないなら、帰ろうぜ。」
二人に声を掛けると、
「「(。´・ω・)ん?、・・・だれ?」」
「俺だけど」
怜雄が確認してくる。
「んおっお前、ハジメか?」
「そうだと、言っている。」
それから、聡汰がとんでもないことを言い出した。
「おまえ、噂になってたぞ。隣のクラスに爽やかメガネ男子が転校してきたって。間違いなくお前の事だろ。」
「完全なブラフじゃん。勘弁してくれ。」
「怜雄、帰るぞ。なんか周りの目がうるさいし・・・。」
「お、お前が俺のことを名前呼びだと・・・。」
「聡汰も帰れるか?」
「・・・・・。お前、本当にハジメか?」
「さすがに失礼が過ぎるぞ!貴様ら。名前呼びが嫌なら元に戻そうか?」
「名前呼びのがいいに決まってんだろ!今までよそよそしくしやがって。」
聡汰が言うと、
「俺もモエ呼びして気を引いてたところあったからな、名前呼びはうれしいぜ。」
怜雄も言ってくる。
「悪い、お前らにも気を遣わせたんだな。俺は根っこは
ま、ヨロシク頼むわ。」
「そのヤンキーっぽい感じ、ハジメだわ。」
「落ち着くわ、どこへでも着いていくぜ。ヤンキー副会長!」
「うるせー!誰がヤンキーだ?!帰るぞ。バイトに遅れちまう。」
「「おうよっ」」
勘弁してくれよ。
このあと、聡汰は、道場へ行くらしい。
実は、聡汰と俺は同じ空手道場に通っている。
聡汰は真面目な性格のため、基本の反復練習を嫌がらずやるタイプなのでかなり強い。
本人は、空手だけでなく剣道もやっておきたいらしい、うちの道場では、武器術も教えるから意味ある?と思っていたが、
彼は警察官を目指しており、将来は白バイ乗りになることを目標にしているのだ。
剣道をやっていると警察官の試験に少しだけ有利になるとのことで趣味と実益がwin-winな状態なのだろう。
結構な武道馬鹿だし。
そんなこんなで師範の知り合いで剣友会主催の剣道教室を開いている、先生を近いうちに紹介して貰える予定だと喜んでいた。
でも、それなら高校の剣道部に入ればいいのにと思っていたら、健吾先輩が所属しているため怖くて入れないとのことだった。
真弓のことになると本当に怖いからな。あの先輩。
聡汰・・・。がんばれ!
心の中で応援しておこう。
※ このお話はフィクションです。消防関連の事故を題材に取り上げておりますが日本からの災害派遣に於いて消防官(消防士)の死亡例はありません。実在のお店、メーカー、バイク・車も登場しますが一切、実在の物とは一切関係ございません。ご了承ください。
※ 物語が気に入ってくれましたら星やハート評価よろしくお願いします。
書く時の励みにもなります。 ^^) _旦~~
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