こころと魂が還る場所
第8話 父から託されたものと始まりの朝
現在、朝五時過ぎ。
父さんからの一方的な伝言みたいな夢から自然と目覚め、涙を流していたが、ひどくすっきりている。
こんなに気持ちよく目覚めたことは、父が行方不明になってから初めてだったと思う。
不思議と頭も冴えており、夢に見たこともはっきりと覚えている。
恐らく父は帰ってくる。
どういう形になるかはわからないがきっと帰ってくる。
夢のことを反芻しているうちに、不思議と確信へと変わっていく不思議な気持ちであった。
このことを誰かに伝えたいが、きっとまた、変な目で見られるに決まっているという猜疑心が働き、どうしようかと悩んでいると。
客間のドアが開いた。
「あんたも起きてたのね。」
「母さん・・・・。」
「さっき、あの人が夢に出てきたわ。それでね、怒っていたの。大切な息子を傷つけるなって、近くにいるんだから守ってやってくれって、俺が、傍にいてやれなくてゴメンとも言っていたわ。お母さんのことを愛してるとも言っていたわね。それでね、もうすぐ帰ってくるって。お父さん。」
母さんは、ボロボロ涙をこぼしていたが、何とか笑顔を見せようとしてくれた。
それは昔のようにやさしい慈しむような笑顔だ。久しぶり見れた気がする。
俺が何も答えられずにいると。
「ごめんなさい、ハジメは悪くないのにお母さんが離れていった。あなたのまっすぐな目が怖くて、向き合うことができなかった。
あなたを傷つけた。
謝って許されるわけがないのはわかっているけど本当にごめんなさい。情けない母親でゴメンね。弱いお母さんでゴメンね・・・。」
母は、俺を抱きしめながら、謝り続けている。
どうしたらいいか悩んでいると、今度は楓が部屋に入ってきた。
「お父さんが夢に出てきた。近くで守ってやれなくてごめんって謝られた。それから美人になったって驚いてた。兄さんとお母さんを大切にしなさいって、楓のことも愛してるって。もうすぐ帰るから待っていてほしいって。夢だけど、夢じゃない感じだったよ。わけわかんないよね?」
楓も泣きながら俺に抱き着いてきた。
「お兄ちゃん、ゴメンね。ずっと一人にして。
どうしていいかわからなかったの。
また、仲良しに戻りたくて、ずっとおばあちゃんにも相談してたんだけどね。お兄ちゃんの大好きな筑前煮を作る練習もしてたんだよ。でも、お父さんにお兄ちゃんがどれだけ傷ついていたか教えられて、私、自分の事ばかり気にしてて最低だよね。
お父さんにも嫌われちゃうよね?
こんなんじゃ、久美ちゃんにとられちゃっても仕方ないね。
ごめんなさい・・・。」
朝からプチパニックである・・・・。
「父さん、二人のとこにも行ったんだね。父さんはもうすぐ帰ってくるよ。なんかわかるんだ。それから俺には母さんを赦してやれってさ。そんで家族を守れって。ほんとに参るよな。なんだよ、もっと早く帰って来いよ。もっと早く言葉をかけてくれよ!」
「ハジメ・・・。」「お兄ちゃん。」
「俺はもう泣き疲れたよ・・・。
これからはもっと前向きに生きて行きたい。父さんの分も人助けできるように、また消防官を目指すよ。だめなら自衛隊かな?
母さんとのことは、正直いうと複雑だよ?赦すとかそういうのもよくわからないし。楓は、お前も学校では大変だったしな。仕方ないと思うよ。時折家で俺に話しかけようとしてるのは知っていたから。料理のこともばあちゃんから聞いていたよ。頑張ってるって。」
俺は決意も含めて、2人に伝えた。
「ただ、父さんに頼まれたように守っていけるように努力はする。家族に戻れるように努力はしていこうと思う。」
「そっか、家族に戻れるようにか・・・、お母さんはきっと家族ですらなくなっていたのね。自業自得とはいえ、悲しいわね。私も萌と向き合う努力しなきゃね。さあ、気合いれなおすわよ!」
「私も久美ちゃんに嫉妬してないで頑張ろう・・・。まずは可愛くならなきゃ。」
二人もそれぞれ目標?を語っている。
楓の声が小さくて、よく聞こえないが・・・?
「さて、俺はそろそろ学校に行く準備をするよ。弁当も作らなきゃいけないし。」
「ハジメ、今日はお母さんに作らせてもらえないかしら?お願いだから。」
「うーん。母さんの料理って何年も食ってないけど大丈夫なの?
それに、昨夜の残り物とばあちゃんの漬物と卵焼きだから、一人でできるよ。母さんは知らないと思うけど俺もバイトでキッチンに立ってるんだよ。」
「そう、残念ね。今度作らせてね。お母さんの料理もおばあちゃん譲りだから美味しいわよ?ま、お父さんの方が料理は上手だったけどね。あの人は消防署でも作っていたから。」
「・・・あと、あなたのアルバイト先のことは知っているわよ?以前にこっそり楓といったことがあるんだから。」
消防官は勤務時は自炊している。出前を取る時間がもったいないし、出場がいつかかるかわからないからだ。今は地域によって違いがあるようだが、父さんの料理は美味しかった記憶がある。丼ものが多かったな。なんだか楽しかったころの記憶が解凍されたように少しづつ出てきた。
「そうだったんだ。気が付かなかった、今度来たときは、オーナーか、マスターに声を掛けてくれるかな?美味しいの作るから。」
「お兄ちゃんの作った料理、すごくおいしかったよ。また行くね?」
話を終え、客間から3人が出てくると、祖父母が驚いていた。
ばあちゃんは俺に向かって、良かったねえと言って涙ぐんでいた。なんで??
祖父から、客間の声が聞こえていたことを教えられ、家族が少しづつでも元に戻るならこんなにうれしいことはないと話してくれた。
朝ご飯を食べ、弁当を用意して、母の実家を出る。出る際、今日からは元の自宅に帰ることを伝える。祖父母と母妹は非常に残念がっていたが、これは自分で決めたことだからと断りをいれる。少し申し訳ない気分になったが、祖父母が笑いながらお前の好きにしなさいと送り出してくれた。
さて、学校に向かういつもの日常が始まると思いきや、自宅ガレージにバイクがないことに驚き、バイクを磯辺の家に置いたままであったことを思い出しさらに焦る。このままだと遅刻になると悩んでいると、菅谷が珍しくバイクで俺の家に来た。
「ハジメ、お前のメットだけ預かっておいた。早く後ろに乗れ、遅刻するよ。」
菅谷はそう言いながら、自分のリュックを腹側に回した。
「悪いな、ジン。ありがとう、怜雄の家まで頼む!」
「お、名前呼びに変わったな、なんかあったか?」
「おう!父さんが帰ってくる!だから強くならなきゃならんのよ。」
「は?見つかったのか?」
「いや、わからないが、昨夜夢に出てきた。でも、夢とは思えない感じだったんだよ。どんな形でも帰ってきてくれれば俺はうれしいよ。」
「そっか・・・。良かったな。」
そういいながら、ジンは俺の準備ができたのを確認してクラッチを握り直しギアをローに入れアクセルをひねった。
慣れないリアシートと突然の発進に少しビビりながらSRの多気筒エンジンの振動を心地よく感じながら学校へ向かうのであった。
※ このお話はフィクションです。消防関連の事故を題材に取り上げておりますが日本からの災害派遣に於いて消防官(消防士)の死亡例はありません。実在のお店、メーカー、バイク・車も登場しますが一切、実在の物とは一切関係ございません。ご了承ください。
※ 物語が気に入ってくれましたら星やハート評価よろしくお願いします。
書く時の励みにもなります。 ^^) _旦~~
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