狙撃手の名は狼
きょんきょん
プロローグ
中東の小国を砂塵と血煙が覆い隠していた。逃げ惑う
全ては救えない。救えるのは
引金をいくら引けども悪は無尽蔵に湧き出てくる。一向に減る
戦闘のプロである傭兵相手に、ろくな訓練も受けていない子供が出来ることといえば唯一つ――〝
せめて、来世は平和な世界に生まれますように――。
首から下げていた
✽✽✽
数日前まで『非戦闘地区』に指定されていた市街地では、今も激しい銃撃戦が繰り広げられている。
煉瓦造りの民家が建ち並ぶ街路には、殺気立った武装勢力が多国籍軍をこれ以上先進めさせないようにとバリケードを建て、武器を手に徹底抗戦の構えを取っていた。
自爆さえ
見せしめのために回収されないままの遺体は道端で腐臭を放ち、腹を空かせた野犬共の良い
任務に当たる前に聞いていた時刻から一週間が過ぎた頃――双眼鏡を覗くと一〇〇〇ヤード(九一四・四メートル)先の
車内にはAK47《カラシニコフ》を携えた護衛の男たちが乗車し、後部座席には今回の
長距離狙撃には目標との距離、重力による弾道の下降、気温、気圧、湿度、風向きと風速などの外部要因を考慮して弾道を解析する必要があり、常に変動する不確定要素を考慮して複雑な弾道軌道を
此度の愚劣極まる作戦をたてた指導者の眉間に、狙撃眼鏡の
対象距離が三〇〇メートル以上離れると、僅かな微風や体のブレに弾道が大きく影響を受けてしまう。息を吐ききって、愛用のレミントンM700の
対象が乗る車両がアジトの前で完全に停車しエンジンを切った瞬間、引金を引きしぼった。
リアガラスに灰色の脳漿を叩きつけて絶命した幹部の姿に、車内で慌てふためく護衛も残さず抹殺した。
『ターゲットの死亡を確認――』
目的さえ達成すれば、あとは正規部隊に任せて休む間もなく次の戦場へと向かう。
この世界から争いが無くなる日まで、傭兵を辞めるつもりなど微塵もなかった。
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