水の中にいないキンギョ
流星未来
第1話
今日も僕は学校へ行く途中に外壁に蔦が巻き付いたボロアパートを見上げる
二階の錆びた柵の間から赤いキンギョソウが顔を出している。
“水の中にいないキンギョ”その言葉に惹かれてお母さんにねだってみたけれど
場所をとるし世話ができると思えないからと買ってはもらえなかった。
だから僕は今日も少し早く家を出て学校へ行く途中に眺めている
日差しでキラキラと輝く僕だけのキンギョ。
雨が降ってカエルが鳴く頃、僕のキンギョはただの草に戻った
次に会えるのは来年の春。
僕があまりにキンギョの話をするからと
お母さんが金魚の提灯を買って僕の部屋に釣るしてくれた。
家族で行った夏祭りでは金魚すくいを眺めた。
でも僕は掬わない、僕の好きなのは水の中にいないキンギョ。
ある日僕の部屋の窓に金魚の透明ステッカーが貼られていた。
部屋の中を隅から隅まで引っ掻き回すと僕の身の回りのものは全て
ギョロギョロとした目玉の怖い金魚柄になっていた。
荒れた部屋の中で泣きわめく僕を家族は困惑してなだめていた。
僕が好きなものはボロアパートの二階に咲いている赤いキンギョソウ。
ある日、本屋に行った僕は花ことばの本を見かけて手を伸ばす
キンギョソウの花ことばは、おしゃべり、でしゃばり、おせっかい。
今は僕の窓辺にも咲いている水の中にいないキンギョ。
水の中にいないキンギョ 流星未来 @ryusei_mirai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます