第6話 ベルヴルムの王宮にて
ベルヴルムの王宮はほんの少し薄暗い。
仕えている人のような者達の表情は、あまりよく見えない。
けれども、私とすれ違った者は皆振り返った。
誰かが問う。
「ベルヴルム様、その方は…」
「ほっとけ」
案内されて辿り着いたのは寝屋だった。
「ここで暮らせばいい」
と言われたが、私は死んだはずだ。
暮らすという言葉があまりにもミスマッチで、うーんと考え込む。
確かに、死んだ割には意識があるし、動き回れる身体がある以上、どこかに身を寄せなければならないだろう。
そんなことを考えていると
「気に入らないか?」
「いえ、私などには勿体ないほど素敵です」
実際、充てがわれたこの部屋に使われている家具の、独特な意匠や模様はもの珍しく心惹かれた。
「お世話になっても宜しいでしょうか?」
私に行く当てなどない。
「だからそう言っている」
もじ、と指を遊ばせる。
「酒は飲めるか?」
「嗜む程度に」
「ホットワインを用意させよう。よく眠れる」
絨毯の上を歩くと、まるで雲のようにふかふかだ。
天蓋付きのベッドに腰を下ろす。
沢山のクッションと布が敷かれていた。
やがて、ホットワインが運ばれた。
「ベルヴルムはお酒、飲めるんですね」
「人になってから飲めるようになった。言っただろう、悪いことばかりじゃあない」
くす、と微笑むと、骨っぽい手が髪を撫でた。
「先ほど、私髪の毛を引っ張られたのですわ。本当に痛くって」
「……ここに来た理由を聞いても?」
私は王太子とモーネについて話し、ここに来るに至った経緯を話した。
ベルヴルムの黒い瞳が揺れる。
全てを話し終えると
「ここで待っていろ」
と言って出て行ってしまった。
彼が飲みかけたワイングラスを見る。
それだけでなぜかドキドキした。
あの意志の強い瞳は彼が竜だったということを思い出させる。
袖のない服は筋肉質な腕を隠さない。
心臓が煩くて、布が沢山使われたベッドに突っ伏した。
しばらくすると、ノックが聞こえた。
「入るぞ」
どうぞ、というと衣擦れの音を連れて彼が近寄ってくる。
「この世界の一日は現世の一年だ。お前がこの世界に来てから10時間くらいか?あちらの世界はどうなったと思う?」
「え、まさか…」
「そう、覗いてきてやった。王太子と蝶の子が間も無く産まれるぞ」
私は信じられなくて口に手を当てる。
「一体何が産まれるんだろうな」
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