第18話「マキナ」
警察からの事情聴取と先生からの長話が終わったあと、俺たちは喫茶店『ヴェルダンディ』へと移動する。
昼時の喫茶店だから店内には沢山人がいるんじゃないかと心配していたが……実際は全くそんなことなく。
店内には客のきの字もなかった。
「ま、私達にとっては空いている方が話しやすくていいんですけど」
「オーナーの身としては、客がいないと困るんだがね……」
女莉の軽口に、新海極魔暴龍さんはため息をつく。
そういえばこの店、この前来たときも店内には全然人がいなかったよなあ。
飯も美味しくて値段も安いのに、どうしてこんなにすっからかんなのだろうか?
俺はチラリと新海さんの顔を見る。
「………………」
やっぱりこの人の顔が怖いからなのかなあ……。
「喫茶店なのにただ説明するだけなのもなんだ。飲み物でも頼むかい?」
「あ、じゃあ私はココアお願いしまーす」
「俺はコーヒーを」
「了解。少し待ってくれ」
言って、新海さんは奥に行ってしまう。
その間に俺たちは、軽い世間話でもして時間を潰した。
どうして新海さんと俺が面識があるのか、とか、なんでこんな無名店を知ったのか、とか。
しかしあんな非日常を体験したあとに日常的な雑談は無理があるのか、話題は自然と異能力についてに傾いていく。
まさか新海さんも異能力者だったなんてという話題のあと、不意に女莉がこう尋ねる。
「そういえば先輩、あの暴走した異能力者の能力を止めましたよね? どうやって止めたんです? そういう異能ですか?」
「ああ。そういえばまだ説明してなかったっけ。俺の異能は
俺は続ける。
接触した物のステータスとかデータが見えるようになること。念じればそれらを自由に書き換えることができること。
「俺があのときやったのはその応用で、異能力の情報を消すように念じたんだ」
「それってあの人、二度と異能力を使えなくなったってことですか?」
「多分そうだな。まあ勝手に発動しちゃうような異能力だったぽいし、問題はないだろう」
そこまで告げ終えたとき、
「その能力の話、本当でござるか?」
「え?」
急に近くから声が聞こえてくる。
誰だと思って顔を向けるが、しかし――。
「誰もいない?」
声の聞こえた方向を見ても誰もいない。
……幻聴だろうか? それにしてはかなり鮮明だったような。
「どこを見てるでござる。ここでござるよ、ここ」
いや、やっぱり聞こえる。これは幻聴じゃない。
だけど、姿はどこだ?
周りを見ても、人の姿はどこにも……。
「……いや、まさか、な」
確かにそこには
だが、怠惰そうに寝転がる黒猫の姿はあった。
「びっくりするかもしれないですけど、この黒猫が異能力者のマキナさんです」
「そうでござるぞ。よきにはからえ」
「……マジか」
火事の時点でかなりの非日常を体験した気でいたけど、この黒猫もかなりやばい
まさか俺が生きている間に喋る黒猫に会えるなんて……人生なにが起こるか分からないなあ。
「あ、えと、俺は隠橋空真って言います」
「拙者はマキナだ。よろしく頼むぞ」
「よろしくお願い致します」
「うむ」
そうして、俺たちは熱い握手を交わす。
その際、マキナさんの肉球が俺の手に当たった。
……ぷにゅっとした、良い感触だった。
「お、もうマキナと仲良くやってみたいだな」
しばらくして、新海さんがコーヒーとココアを持ってやってくる。
「ゴクマ、拙者の名を呼び捨てにするなと言っておるだろう。本来拙者はお前達に崇められるべき存在であるぞ?」
「悪い悪い。今度高いキャットフード買ってやるから許してくれよ」
「ふん。キングサイズで頼むぞ」
「はいはい」
新海さんが頷くと、マキナさんは満足気に頭をかく。
その後ぴょんっと跳ねて新海さんの頭の上に移動した。
……かわいい。
と和んだのも束の間、
「それじゃあそろそろ話そうか。私達異能力者について」
真面目に告げられたその言葉に、俺は気を引き締める。
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