08話
「――という感じかな、七美が不機嫌なのは私が断ったからだよ」
お家に入る前にやっぱりなしということにして逆に連れて行った形となる、そのため、先程から話しかけても返事をしてくれないレベルになってしまっていた。
「うーん、それだったらそのまま上がればよかったのに」
「でも、陽子のお家に集まるって約束だったんだからできないよ、まあ、別行動をした私が悪いから別に七美が悪いというわけじゃないけどね」
この件は私が悪かったということで終わらせることができる、というか、そういうことで終わらせておかないとかなり恥ずかしいことになるから嫌なのだ。
あれでは構ってしてほしくてしたようにしか見えない、自分が決めたことすら五分も守れずに行動をしてしまったから隠したい。
ここで七美を悪者にしてしまうと(するつもりはないけど)ずっとそのことを言われる可能性があるから自分のためにそうするのだ。
「ははは、朝だって全く気にせずに付き合ってくれたもんね」
「当たり前だよ、ただ、最近は七美との時間を求めちゃうんだけどね……」
「いいことじゃん、それだけ気に入っているということでしょ?」
「でも、陽子や先輩との時間が減っていく、適当にしているつもりはないけどどうしても差が出ちゃって……」
全部つもりでしかないし、きっと他者から見たらまるでできていない。
つまり人によって態度を変えてしまっているということだから褒められたことではない、それとやはり何度も言うけど恥ずかしい。
「別にやることをやってからでいいよ? 一人じゃないから待っていられる、先輩と一緒にいられる時間も好きだからさ」
「陽子……」
「ま、すぐに寝ちゃうんだけどね、でも、大丈夫だよ」
彼女は先輩の頭を撫でてから「ということで今日はこれで解散にしよう、ちゃんと家まで来てくれて嬉しかったよ」と言われて出る羽目になった。
残ることはできるけど求められていないことが分かっているのにできるようなメンタルではない、だから仕方がないことだった。
「七美、いまからお家に行ってもいい?」
「……嫌よ、もう解散でいいじゃない」
「じゃあ今日はこれで。映画、一緒に観られてよかった――と言いたいところだけどやっぱり解散にはしたくないよ」
あ、まあ、この時点で分かりやすく差が出てしまっているものの、うん、こうなったら後悔をしたくないから動くのだ。
「……はぁ、あんたは面倒くさくて自分勝手ね」
「うん、そうなんだよ」
「認めればいいわけじゃないのよ、なんでも自分の理想通りになると思ったら大間違いだわ」
「それでも七美といたい」
「……さっきまであんなに弱っていたくせにこいつは……、まあ、あんたの家に行くぐらいなら帰れた方がマシね」
付いて歩いている最中「なんで付いてきているのよ」などと言われても怯まなかった、これぐらいのことは当たり前のことだからなんにもダメージを受けない。
上がってからも同じこと、ちくちく言葉で刺されても先程とは違って余裕な状態でいられた。
「つかあんたね、大晦日のときもそうだけど簡単に抱きしめさせたりするのはやめなさいよ」
「そんなことを言ったら七美は陽子に何回も抱きしめられていたよ?」
十回や二十回どころではない、大袈裟でもなんでもなく休み時間になる度に抱きしめていたから百は超えているのではないだろうか。
「あ、朝だって迷いなく受け入れたそうじゃない」
「そうだね、でも、七美だって先輩とこそこそ行動していたよね?」
「た、試していたのよ、ちゃんとできるのかどうかをね」
陽子が言い出したとかそういうことも全て嘘で試すためだけにああされていたとしたら、残念ながら不合格だろうな。
なにが正解かは七美だけが知っていて私が知ることはできない、教えてもらってもそれが本当なのかどうかは分からないから解決には繋がらない。
自分勝手だからだろうか、段々とむかついてきた。
「七美からしたら不合格ということ?」
「そ、そうよ、私とそういう関係になりたいならはっきりすることが大切なのよ」
「むかついた、やっぱり七美も悪いんだよ」
……はずなのに、なんだこれは……。
「はぁ? まさかそうくるとはね」
「当たり前だよ、試されていい気分になると思う?」
それでも引くに引けなくなって続けてしまっている、これも時間が経過をして思い出したときにあー! と叫びたくなるようなことになりそうだ。
「私だったらむかつくわね、あんたが相手だったら頬を引っ張っているところよ」
「なら私はこうする、それぐらいのことをしたんだから七美は大人しく受け入れないとね」
うん、顔を隠すことでなんとかしたかっただけで……。
「なにこれ、ただ私に触れたいだけじゃない」
「……こうして止めるしかなかった」
「はは、あんたってたまに子どもみたいになるわよね、反動なのかしら」
「ごめん、でも、七美に抱きついたら落ち着けたよ」
ふぅ、落ち着けたから離してゆっくりさせてもらおう――としたときにお腹が鳴って一気に意識を持っていかれた。
食べさせてなんて厚かましいお願いをするわけにはいかないから外に出て自宅を目指す、お味噌汁が飲みたくなったから自分で作って飲もうと決める。
「完成」
「それはいいけどなにやるだけやって帰ってんのよ」
「七美の分もあるから食べて」
「ま、くれるということなら貰うけどさ」
ああ、別に同じようにして出てしまえば勝手に落ち着けたかとお味噌汁を飲んだときに気づけた、こんなに簡単なことにすぐに気付けないなんてアホだ。
「好きよ、あんたの作ったご飯」
「私は七美が好き」
「ちょっと、ご飯の時間なのに余計なことを言わないでよ」
「あんなことお母さんやお父さん以外では七美にしかしない」
「聞いてないし……」
物足りなさを感じてお味噌汁をおかわりしてきた、考えて作ったのに結構量があるからその点では悪くはないことだと言える。
彼女のと違っておかずというおかずがないのにこれでも十分白米を食べられてしまうのは……どうなのかは分からないけど。
「ごちそうさま、卵焼きが特に美味しかったわ」
「ちなみに七美に合わせて甘い味にしたけど私が好きなのはお醤油味だから」
「いらない情報ね、別に邪魔をしようとも思わないわよ」
残念ながら全然足りなかったものの、いま大切なのは食べることではないので食器を洗っていく。
それからすぐに戻ってきて椅子に座ってぼうっとしていた彼女の側面から抱きついた、が、「口の横に米粒がついているわよ」と言われてすぐに離れた。
「で、なんだっけ? 私のことが好きだとかなんとか言っていたわよね?」
「うん」
「付き合いたいってこと?」
「もしそれを求めていないなら不安定になったりはしていないよ」
「ふーん」
もっと普通でもっとみんなとバランスよく一緒にいることができた、でも、それができていないということはそういうことだ。
残念でもあり嬉しくもある、少なくとも見ていることしかできなかった前よりもいいだろう。
「ま、いいんじゃない、先輩に告白をされるよりもまだ驚きも少ないわ」
「えぇ」
「文句を言わない、それに私がこういうときにこう言うタイプだって分かりきっていたことじゃない」
「あ、いまやり返したでしょ」
「さあね、受け入れたんだから満足しなさい」
え、なんかここから七美っ、と行動ができるような雰囲気ではなかった、そういうのもあって固まっていると「お菓子とかない?」などと聞かれて更にできなくなった。
え、あ、初めてのことだから分かっていなかっただけでこれが普通……? そうだよね、別に関係が変わった瞬間に動かなければならないなんてそんなことはないよね。
「ありがとう、受け入れてもらえて嬉しい」
「うん」
「でも、お菓子はないからいまから買いに行こう」
「ないならいいわ、ここでゆっくりさせてもらうから」
「じゃあゆっくりしよう」
それでもソファの方に連れて行ってくっつきやすいようにした、これは自分のためだから勘違いをしないでほしい。
「でも、私の方から甘えるのはやっぱりキャラ的に合わないからお願いね」
「分かった、七美限定で肉食系になる」
「程々にね」
頷いて手を握ると握り返してくれたからそのまま甘えていた。
ただ、最初は温かくてよかったものの、何故か途中から暑くなってきてしまったのにしっかり握り込まれていて離せなかったのが問題だった。
ちらりと見てみると「ふっ、痛くないのに離れないでしょ?」といつものように意地悪な笑みを浮かべていて汗をかいたのだった。
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