第2話 叶わない
千珠琉が願い事を
二人がまだ小学2年生だったある日、千珠琉と昴は子猫を拾った。体が黒く胸元と脚の先だけが白い、いわゆる靴下猫だった。
「すー君!飼って良いって!」
猫を抱えた千珠琉が昴に駆け寄る。
「やったな!」
——ペチッ
二人は小さなハイタッチをした。
——ミャァッ
片手を離してしまったので、千珠琉の手から子猫が床に飛び降りた。
「あ!にげちゃダメ〜!」
すぐに千珠琉が逃してしまった子猫を昴が優しくつかまえて千珠琉に差し出した。
「チズ〜そんなんで大丈夫?ちゃんとお世話するなら飼って良いって言われたでしょ?」
昴に自分が母から言われたことを言い当てられて、千珠琉は昴が母に掛け合ってくれたことを察した。
「うん、大丈夫!わたしがんばる…わぁっだめっ!」
千珠琉は小さくガッツポーズをしようとして、また子猫に逃げられそうになったのをなんとか堪えた。
「すー君、ありがとう。」
満面の笑みで昴にお礼を言った。昴もつられて笑顔になった。
二人で子猫に“ルル”という名前をつけた。
千珠琉と昴は名前の最後の「る」がお揃いだと思っていたので二人の「る」を猫にあげた。
一週間後、ルルが拾われる前から命に関わる病気にかかっていたことが発覚した。
それから千珠琉は小学生ながらできる限りの世話をしたのはもちろん、毎日神社に通い、夜には窓から星にも願っていた。昴も毎日一緒に神社に行った。
千珠琉は毎日「ルルが元気になりますように」と神様にお星様に声に出して願っていたし、昴や親にも「ルルは元気になるよね?」と聞いていた。
しかし、それから二週間後にルルは死んでしまった。
大泣きして塞ぎ込んだ千珠琉が徐々に元気になるまでのひと月程、昴が毎日励ました。
そして二人が中学2年の夏休み、昴の父・
その前の年の暮れには余命半年と宣告されていて、家族ぐるみの長く親しい付き合いということもあり少し後には千珠琉の家にもそれが知らされた。
それから千珠琉は毎週末お見舞いに行き、恒を元気付けようと声をかけた。そして、毎朝昴と一緒に神社で願い、毎夜星に祈った。
しかし願いも虚しく、恒もいなくなってしまった。
千珠琉にも昴の方が辛いのはわかっていたが、二人目の父のような存在だった恒が亡くなったという出来事は中学生の千珠琉には受け止めきれず、毎日昴に会うたびに泣いてしまった。
「なんで私の願い事って叶わないのかな…」
泣き腫らした千珠琉がぽつりと言った。
それからしばらく後、昴は千珠琉に言った。
「願い事って口に出したら叶わないらしい。この前テレビで言ってた。」
二つの出来事が千珠琉にとっての—もちろん昴にも—トラウマになってしまい、千珠琉は昴の言葉を信じて二度と願い事は口にしないと決めた。その後たまたま見た雑誌の開運特集にも同じことが書いてあったのも千珠琉の信じる気持ちを強くした。
そして今も強く信じているため、千珠琉と昴は初詣などに行ってもお互いの願い事を聞かないのが決まりごとになっている。
昴の父の死が二人を少しだけ大人にし、“すー君”が“昴”になった。
そして昴には千珠琉に言えない後悔が残った。
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