第18話 悪魔祓いなる。黒幕は?

「アリスは、目を瞑っていろよ……ここからはグロテスクになるぞ?」


 ミゲールの宣言通り。ここからは、一方的な虐殺劇が始まった。


 防御? 結界魔法? ミゲールは、ただの拳で無効化できるのは、アリスとの初対面で実践済だ。


 防御不可の拳。 容赦なく悪魔の肉体に打ち込まれていく。


 だが、悪魔が有するのは無尽蔵の魔力と生命力。


 このままでは終わらず、反撃に動く。だが、ミゲールに触れた瞬間に悪魔の巨体が浮き上がり、地面に叩きつけられた。


 触即投。


 倒れた悪魔の腕にミゲールは自ら体を絡ませる。


 触即極。


 悪魔の攻撃は、膨大な魔力。 そして武器の投擲。


 ならば、その腕の構造は人間と等しい。むしろ、繊細な投擲のコントロールが必要な分、人間よりも神経は複雑。


 腕は8本するとは言え―――― 関節技は効果が高い。


 戦う事を専門とする屈強な男でも腕を折られれば、戦闘不能となる。


 腕が折られて戦い続けれる者は虚構の存在だと思った方が良い。


 だが、それでも悪魔の闘志は止まらなかった。


「メェェェェェ……」と今まで通り、咆哮を放って威圧を行おうとしているように見えた。 しかし、悪魔は流暢な言葉で――――


「いや、我が激高は貴様を許さぬ。ここで死ね」と断じた。


「はぁ?」とこれまで止まることのない猛攻を繰り出していたミゲールも、思わず手を止める。それから――――


「格下と思い込んでいた人間に、ボロ雑巾直前まで追い詰められて、慌てて交流を始めたかい? でも、その翻訳は間違えてるぜ……お前が許される言葉は


『ごめんなさい。僕ちん、地上が怖くなったので地獄に帰ります。ママ~』


だぜ?」


 ミゲールの挑発が悪魔に通じたのかはわからない。 しかし、悪魔は膨大な魔力を腕に集中し始める。


 悪魔が登場して、初めて攻撃に魔法を使用しようとしているのだ。


 折れた腕を含めて8本がミゲールに対して、攻撃魔法を――――


「だから、追い詰められてから、慌てて攻撃魔法を放とうとしてるんじゃねぇぞ。もう手遅れって言葉を教え込んでくれぜ!」


・・・


・・・・・・ 


・・・・・・・・・・


「やれやれ、とんだ強敵だったぜ……おっと、もう目を開けてもいいぜ、アリス」


 本当に目を閉じていたアリスは目を開いた。


 そこには悪魔の姿は消え去っていた。ただし、耳に残った激しい戦闘音は、それが夢ではなかったと現している。


 それはそれとして――――


「ミゲール先生、どうして裸なんです?」


「衣服が私の全力に耐えきれなかったんだよ。一応、戦闘を想定して作った服なんだがな……来週は、新衣装の素材集めに付き合えよ」 


「手作りだったのですね、あの服」


「おいおい、あれは魔力耐久が強くて、逆に魔法を使う時に浸透率が高い矛盾した服だぜ? 市販しても購入する奴がいない金額になっちまうぞ」


「それじゃ、私にも1着作ってくださ……いえ、デザインは専門の者を雇わせてください」


「まて、私のファションセンスがダサいみたいに言うんじゃない!」


 そんなやり取りを交わしながら、2人は地下から出口を目指す。


「なんだったのでしょ、あの悪魔は? 本当に……本物の悪魔だったのですか?」


「さてね」とミゲールは首を振った。


「私もあの部類の魔物とは数えきれないほどに戦ってきた。あれが本物の悪魔なのか、人を幻惑させる知恵を持つ魔物なのか……私だって、まだわかってないのさ」


 階段が見えて来た。 おそらく出口。 


 2人は自然と足が速くなった。


 蓋は鉄板……いや、なぞの金属。 何百年も人が出入りしていないのにも関わらず、腐敗は見当たらない。


 ミゲールは、その剛腕を持って、蓋を取り外すと光が差す。


 暗闇に目がなれた2人には異常に眩しく感じられた。


「やれやれ、やっぱり……ここと繋がっていたか」


 ミゲールは背後を振り向く。そこは廃墟になった神殿だった。


「いるだろ? モズリー……出て来いよ」


「はいはい、待ってましたよ」と返事と共にモズリーが現れた。


「どうして、モズリー先生がここに? まさか、先生が黒幕!?」


「違いますよアリス。前もって、ここに来るようにミゲールに言われていたのです」


「あれ? そうだったけ? 私もてっきり、お前が黒幕だとばかり……」


「あなたが言うと、本当のことにされてしまいそうなので黙ってください」


 モズリーは、その勢いのまま


「なんで裸なのですか? 服を――――仕方がないのでこれを羽織ってください」 


 そう言われ、手渡された毛布を服のように身に纏ったミゲール。彼女は、


「はいはい、それで私が気にしていたものはあったかい?」


「……あなたの言う通り、ここに」とモズリーは朽ち果てた神殿の一部、柱を指した。


「気にしていたものって何ですか、先生?」


「あぁ、私が馬車でここを通った時に、僅かな魔力の流れを……巧妙に隠蔽されていた魔力を感じたのさ」


「それじゃ先生は、最初から私の屋敷と神殿が繋がっていたと?」


「いやいや、貴族の屋敷になる地下通路なんて、出口は神殿って相場は決まっているんだぜ」

 

「そういうものなのですか?」


「そういうものなんだぜ」とミゲールは笑う。


「2人とも、これを見なくてもいいのですか?」とモズリーが呆れたように言った。


「あぁ、すぐに行く……やっぱり、ここに魔法陣が刻まれていやがったか」


 柱は小さな魔法陣。 確かに魔力の流れは隠蔽されているが、一度認識してしまえば、その効果が分かってしまう。


「これを刻んだ奴は、召喚術の素人じゃねぇな。おそらくは……祓魔師ふまつしだ」


「祓魔師!? 要するにエクソシストですか!」


「あぁ、アリス。お前の家、相当怨まれてるな」


「……」とミゲールの言葉にアリスは無言となる。


 祓魔師。悪魔は祓うことを生業としてる職業。 


 それが、悪魔を操り、個人の――――それも公爵の立場にある人間を呪おうとしていたのだ。 それが表沙汰になれば、どれほどのスキャンダルになるのか?


 幼いアリスにもわかる道理であった。


 「……」と誰も沈黙する間、それを破ったのはモズリーだった。


「教会側に所属する者が公爵家に呪いを――――それも悪魔の召喚までやりますかね?」


「わからねよ。教会の総意とは限らねぇぞ。はぐれ祓魔師だっているだろ?」


「金次第では公爵家に危害を加えようとする者……危険ですね」


「あぁ危険だ。だから、こいつの排除がお前に任せたぜ」


「はい! 待ってください、ミゲール。それは宮廷魔法使いである貴方がやるべきでは?」

  

「いや、私は忙しい身だ。これだけのヒントで祓魔師を、犯人を見つけるには時間が必要だろ?」


 それには、モズリーも「ぬぐぐ……」と納得するしかなかった。


 魔法陣が作られた時期、屋敷の地下の状態、それらを分析。


 マクレイガー領地に入った力のある祓魔師の中から、条件に当てはまる者を抽出せねばならない。


「わかりました」とモズリーはニッコリと……しかし、含みを持たせて、笑顔を見せた。


「でも、あなたの権力が必要になってきます。その時は、嫌と言うほどの仕事を押し付けるので覚悟しておいてくださいね」


「……おぉ、怖い」と、流石のミゲールも天を仰いだ。 

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