第15話 どうやら、私の家にボスがいるみたいです
ぜぇ……ぜぇ……と珍しく息が途切れ途切れになっているミゲール。
「流石ですね、先生。まさか、
「さ、さすが300体を越えた所で数えるのを止めたが、何体倒せた」
「約3500体でしたね」
「多すぎだろ。流石の私も10メートル以上の動く鎧が出現してきたのは無理かと思ったぜ」
「同時に5体を相手にするのは大変そうでした」
「……そう思うなら手伝えよ。師匠の後ろに隠れやがって」
「え? でも、何が起きるかわからないから、魔法は使うなって……」
「言ってねぇよ。聖の紋章は秘密にしておけって言ったんだ」
「あれ? そうでしたか?」と舌を出して誤魔化そうとするアリスだった。
「しかし……この場所は、どうしてここまで呪われた場所みたいになったのでしょう?」
「なぜって、そりゃ……今まで説明してきただろ? お前のご先祖さまが地下で秘密裏に軍勢を使って企んでいた過去。 貴族特有の怨み妬みが魔力に変換されて、ここに集まってきた。それをお前が言うところの初代さまが聖の紋章で制御していた」
「それはわかるのですが……3500体も魔物が出現しますか? 巨人みたいな個体も複数体出てくるほど……ですか? それって、呪われた迷宮とかのレベルなのでは?」
「うるせぇ! どんなに御託を言ったって事実、そうなってるから仕方ねぇだろ!」
「先生、それ宮廷魔法使いとして、魔法を研究している者の言葉とは思えないのですが……」
「脳にエネルギーが回らねぇくらいの運動したんだ。暫く頭を使わせるな! 糖分をくれ、糖分を!」
「軍勢との戦争レベルの戦いを運動で済ませるなんて、相変わらず規模がズレてますね。はい、飴です。飲み物にも砂糖入れます?」
「おう、頼むぜ」と飴と水筒を受け取ったミゲール。
飴を口に含んだ瞬間、ガリガリとかみ砕く。 その直後、大量の砂糖を入れたお茶が入った水筒を口に付けると、一気に飲み干した。
「おし! 少し回復!」
気づけば、彼女の体から滝のように流れていた汗は止まり、戦いで負っていたはずの流血は自然と止血されていた。
「糖分で全回復するなんて、すごい便利な体ですね」
「伊達や酔狂で『世界最強の魔法使い』を名乗らせて貰ってるわけじゃねぇからな!」
それから、ミゲールは深呼吸をする。 しかし、それは人間が行う深呼吸とは別物だった。
乱れた呼吸を整えるよう、大量な新鮮な空気を取り込む。
重度の疲労で鈍った脳の処理速度が回復を感じたた彼女は、
白い息を吐いた。 なぜ、息が白いのか?
確かに地下は肌寒い。しかし、冬の温度ではない。
単純に、彼女の体内に宿った熱を排出した水蒸気であった。
「よし、完全回復だぜ」
「ミゲール先生……本当に人間なんですか?」
そんなやり取りを行いながら――――
「う~ん」とミゲールは考え始めた。
「どうしたんですか、先生?」
「知力が回復した今、1つだけ疑問が浮かんだ」
「なんです? その疑問って?」
「死後の身でありながら、聖属性の魔法を身に付けて守護神とまでなったお前のご先祖さま……本当に、この程度の悪鬼羅刹を浄化しきれなかったのか?」
「え?」
「確かに軍勢とも言える悪霊集団には、さすがの私も疲労の色を隠せないが……」
「今は、隠すところか完全回復してるように見えますが?」
「……話を遮るな。照れちまうだろ? ともかく、何百年も聖属性をばら撒いていたら、ここまで劣悪な環境にはならないだろ?」
「それは確かに、そうですね」とアリスも頷いた。
そもそも、
それを殴り合いで退治してきたミゲールが異常なだけだ。
「聖属性なら簡単そうですね。浄化するだけなら……」
「そうだ。現に私っていう豪傑が1日で蹂躙したレベルだぞ?」
「それって、つまりどういうことでしょうか?」
「つまり――――厄介な
「主……まるでダンジョンですね。私の家、物騒すぎじゃありませんか?」
「貴族様の地下室なんて、そんなもんだ。今度、没貴族の屋敷が解体されるの見学にいこうぜ!」
「そんな、新しい料理屋さんに行こうみたいな誘い方しないでください。でも……」
アリスは不安そうに言う。
「聖属性魔法を持つ初代さまが何百年も浄化できない相手。どんな主なのでしょうか」
「そいつは考える必要なさそうだぜ? これだけ住み家を荒らされたわけだ……どうやら、怒り心頭って感じだぜ」
そう言うとミゲールは地面を指した。
「なんの事でしょうか?」とアリスには意味がわからなかったが、暫くすると――――
「地面が揺れてます。これって!」
「あぁ主さまの登場だ。 果して、どんな怪物がお前の家を牛耳ってるのだろうな」
「嫌な言い方を――――」
しないでください」と最後までアリスは口にできなかった。
地面が揺れが激しくなり、立っていれなくなったからだ。
「どうやら……敵はダンジョン最深部で、敵を構えて待つタイプの主じゃないみたいだな。意識低いじゃねぇの?」
そのミゲールの挑発を受けて出現を急いだわけじゃないだろうが……
ソイツは出現した。
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