第34話
星崎と二人で、死にゲーを協力プレイする。
ある程度フィールドをうろつくと、スタート地点の近くにある洞窟にもぐることにした。そしたらファンタジーのお約束であるゴブリンとの戦闘になったが、死にゲーだけあってゴブリンでも強い。一発でかなりのライフを削られてしまう。
あまりゲームをやったことがない星崎は苦戦していたが、すぐに盾を使った防御と、ローリングでの回避を覚えてゴブリンを撃破していた。
「筋がいいな。日頃からゲームをやらないとは思えないほどだ」
「わたしも掛け値なしに、マナカさまはセンスがいいと思います」
「そうやって褒めても、何も出はしないわよ」
俺と朝美が賞賛しても、星崎は笑うこともせずにクールに受け流してくる。
『好感度があがりました。レベルが10あがりました』
だけど俺には【好感度レベルアップ】があるからね。星崎が喜んでいるのがバレバレだったよ。
それから二人で洞窟のなかを進んでいくが、途中で何個も回復薬を使用したので、そろそろ回復リソースが乏しくなってくる。
「もう引き返したほうがいいのかしら?」
「そう思いますよ。わたしたちがダンジョンにもぐっているときと同じで、無理は禁物です。慎重であることに越したことはありません」
普段ゲームをやらないのに、回復リソースのことも頭に入っているのは冒険者をやっているからだろう。こういう場面では、引き返すのが賢明な判断だ。星崎の直感は正しい。
だけどディスプレイを見つめる星崎の目には、まだ先に進みたいという気持ちがあった。
「俺は進むべきだと思うぞ。そっちのほうが、楽しいからな」
『荒れ果てし辺境の遺跡』で隠し通路を発見したときと同じだ。自分の気持ちに正直でありたい。
俺の意見を聞くと、星崎は肩をピクリとさせる。傍らにいたアサミンは「またコイツは余計なことを」というジト目を向けてきた。
「そんな、だめよ。回復リソースが乏しいまま先に進んでしまったら、パーティが全滅するかもしれないわ。パーティの命運を預かっているリーダーとして、ここは正しい判断を下さないと」
星崎はそう自分に言い聞かせて、コントローラーを握り直す。
……おまえ、リーダーだったんか。
いや、べつにいいけどね。特にどっちがリーダーとか決めてないけど、星崎が自分をリーダーだと思っているのなら、リーダーってことにしておくよ。
たぶん学校でボッチなのは、そういうとこだぞ。
「星崎、自分に素直になれよ。この瞬間の冒険は、この瞬間だけしかできない。だったら、楽しいと思うほうを選べよ」
「だ、だけど……」
「それにリスクのない冒険なんて、つまらないだろ?」
唇の端を持ちあげて笑いかけると、星崎は呆気に取られていた。
そして身を引き締めるように真剣な表情になって聞いてくる。
「いいのね? わたしは先に進んでも? 後悔することになるかもしれないわよ?」
「あぁ、行け。行っちまえよ。自分の心が思うままにな」
星崎はうっすらとだが、唇に弧を描くと、ディスプレイを見つめ直して自分のキャラを前に進めていく。覚悟を決めたみたいだな。
だったら俺も付き合うぜ。
『好感度があがりました。レベルが10あがりました』
ついでに好感度があがってレベルアップ。これで236レベルだ。
回復リソースが乏しいまま洞窟の奥に進んでいった俺たちは……。
まぁわかっていたことだが、その後すぐに回復薬が切れてしまい、複数のモンスターに囲まれてタコ殴りにされ、あっという間にゲームオーバーになった。
なかなかに悲惨な最期を遂げちゃったね。
星崎は感情が抜け落ちたような顔になって、ディスプレイを見ていたよ。その横でアサミンが深ぁ~いため息をついていた。
「これは死にゲーなんだから、死ぬのなんて当たり前だ。常に死と隣り合わせだからこそ、他のゲームじゃ味わえないドキドキ感を体験できるんだよ」
「急に熱弁を振るい出してどうしたのよ? 気でも触れたの?」
死にゲーの素晴らしさを伝えたかったのに、星崎を引かせちゃった。「おまえは何を言っているんだ?」という目で見られたよ。
「引き返さずに突き進んだせいで死んでしまったけど、でも楽しかったろ? まだ踏み入ったことのない場所を探索するのは?」
そう問いかけると、星崎はやわらかに微笑する。
「えぇ、そうね。死んでしまうことにはなったけど、やっぱり冒険はガンガンいくべきだわ」
引き返さなかったのは、判断ミスだったかもしれない。だけど後悔はない。星崎はそう思っている。
「この二人にパーティの舵取りを任せていたら、すぐに全滅しちゃいますね」
俺たちのゲームプレイを見ていた朝美は、頭痛でもするように目頭をつまみながら感想を述べてきた。実際の冒険だったら、さっきのは完全にアウトだったね。
というわけで、俺と星崎は洞窟の入り口のところからリスタートする。
「ちょっと、これは一体どういうことよ?」
ゲームオーバーから復活すると、星崎はディスプレイを見て疑問を訴えかけてきた。
「あれだけ稼いだ経験値が、ぜんぶなくなってるじゃない。これだとレベルアップできないわよ」
あぁ、そういうことか。システムの説明とかされていなかったから、驚いちゃうよな。
「別に不思議がることなんてないぞ。だってこのゲームは、死んだら経験値がぜんぶなくなるからな」
「なんですって?」
星崎はちょっと怖いくらいシリアスな顔になって聞き返してくる。
ふふっ、そういう反応になっちゃうよね。
「死んでなくした経験値を取り戻すには、さっき死んだところまで戻らなくちゃいけないんだよ。もちろん途中で死んじゃったら、さっき稼いだ経験値は完全に失われるけどね」
「なによ、そのプレイヤーに親切じゃないシステムは? というか、どうしてあなたはそんなにニコニコしているの?」
「これも死にゲーの楽しみだからな。なくした経験値を取りにいかなくっちゃって焦るんだけど、途中で死んだらまた稼いだ経験値がなくなっちゃう。そのハラハラ感がたまらないんだよ」
「イカレてるわね、この男」
「わたしもそう思います」
星崎とアサミンが、俺への共通認識を持ったようだ。
えぇ~、ひどぉい。二人も死にゲーをやっていれば、きっとこの気持ちが理解できるようになるってば。
星崎は失った経験値を取り戻すために、再び洞窟を進んでいった。さっきの死亡地点まで戻ろうとする。
ところが一度目よりもキャラの操作が雑になっていたこともあって、死亡地点にたどり着く前にモンスターにやられてしまい、ゲームオーバーになった。残念、これで稼いだ経験値が完全に失われちゃったね。
なぜか初見のときのほうが、二度目よりも上手く進めるというのも、死にゲーあるあるだよ。
せっかく稼いだ経験がなくなってしまうと、星崎はぷるぷると震えていた。
「星崎。おまえはいま、理不尽さに怒りを感じているだろう。その怒りも、死にゲーじゃないと味わえない楽しみだぜ」
「ぜんぜん楽しくないわよ。単純に苛立ちとストレスが溜まるだけだわ」
えぇ~、そう?
星崎は人でも殺しそうな目つきになってディスプレイを睨んでいた。これは相当、頭に来ちゃってますね。
まだまだ死にゲーのおもしろさを理解してもらうには、時間がかかるみたいだ。
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