第14話
星崎とやりあってから二日が経過した。運命の日まで、残り八日しかない。
まさかパーティへの加入を断られるだなんて、思ってもみなかったよ。おかげで予定よりもレベルがあがっていない。まだまだシャディラスと戦うにはステータスの数値が不足している。
だけど、ヘコんでなんていられないからね。なにがなんでも生き延びてやる。
昨日、俺は再び冒険者たちに聞き込みを行い、星崎マナカについて調べた。やたらと星崎のことを嗅ぎまわるから変なヤツだと怪しまれたかもしれないが、なりふり構ってはいられない。
そして今日は、太陽が西の空に傾く時間帯になると、鎧姿になってとある石碑の周りをうろついていた。
しばらくすると、待ち人がやって来る。二人とも既に装備をつけていて、冒険者らしい格好になっていた。
他の冒険者たちも二人が現れると、そっちに目を向けている。
俺は歩みを進めて、二人のほうに近づいていった。
あっちも俺に気づいたらしい。
星崎はキョトンとしていたけど、すぐに目尻をとがらせて睨んでくる。物凄い不機嫌だ。これは完全に嫌われちゃったかも。
朝美のほうは、面倒なヤツに会ってしまったという疲れた顔をしている。
「どうして光城くんがここにいるのよ?」
星崎は腕を組むと、トゲトゲしい眼差しで射抜いてくる。
「おまえたちが、この『荒れ果てし辺境の遺跡』ってダンジョンを探索中だって、他の冒険者に話を聞いて知ったからな。待っていたんだよ」
「……あなたには、不合格を突きつけたはずだけど」
「あぁ、そうだな。でもダメだっていうのなら、何度だって実力を示すまでだ。星崎が納得するまで、俺は諦めないぜ」
こっちは命がかかっているんだ。どんなに迷惑がられたってアタックしてやる。死にゲーで同じボスに何度もやられたことで、粘り強さは鍛えられたからな。
「……こんなにしつこい男、見たことがないわね」
星崎は唇をきつく結ぶと、拗ねているような反抗的な目つきになってこっちを見あげてくる。そういう態度を取ることで、何かを必死にごまかそうとしているようだった。
もうこの前まで見せていた余裕は、完全になくなっている。
『好感度があがりました。レベルが10あがりました』
レベルアップを告げる天の声がしてくる。またしてもよくわからないところで【好感度レベルアップ】のスキルが発動したようだ。
どう見ても今の星崎は怒っているというか、明らかに俺のことをウザがっているのに。
「というか、あれだけこっぴどく断られたのに、わたしたちを待ち伏せていた光城さんの行動力に引いちゃいますけど?」
朝美は半目になると、後ろに下がって距離を取ってくる。
ごもっともだ。俺も自分みたいにしつこく付きまとってくるヤツがいたら引いている。たぶんイラついて、ブン殴っちゃうな。
あと朝美が距離を取ってきたのは、地味に傷ついたよ。
星崎は軽く鼻を鳴らすと、止めていた足を動かす。
「ちょっ、俺の話はまだ終わってないぞ?」
「あなたに構っているほどヒマではないの。わたしたちはダンジョンの探索で忙しいのよ」
星崎は背中を向けたまま口早に答えてくる。立ち止まる気配がない。本気で俺を相手にするつもりがないようだ。
でも、立ち止まらなかったけど、星崎はちょっとだけこっちに顔をむけてきて、唇をツンをさせながら小声で言ってくる。
「……ついてきたいのなら、好きにすればいいわ」
星崎の言葉の意味を、すぐには理解できずにポカンとなってしまう。
だけど疑問が氷解すると、自然と口元に笑みがひろがっていった。
「えっ! いいの! ねぇ、いいの! ねぇねぇ、本当についていってもいいの!」
「だから好きにすればいいと言ってるじゃない! 何度もつきまとわれて、試験をすることになったら面倒だもの! というか、そんなに喜ぶようなこと?」
「あぁ、喜ぶね! 俺にとっちゃ、こんなにうれしいことはないよ!」
「っ……! よ、よくわからない男ね!」
星崎は長い髪をなびかせながら、フンッとそっぽを向いてくる。
『好感度があがりました。レベルが20あがりました』
またしてもレベルアップの知らせが頭のなかで聞こえてくる。
一緒に行動できるうえに、連続でレベルもあがるなんて、思わぬ収穫だ。やっぱり星崎のそばにいることが、死の運命を変える鍵になりそうだ。
「あの、マナカさま。本当にいいんですか? こんな様子のおかしい人をそばにおいても?」
朝美が控えめに進言してくる。控えめだけど、様子のおかしい人って、なかなかにパンチの利いたセリフをかましてくれた。
「突然現れるよりは、目の前にいてくれたほうが、こっちの心労だって少なくて済むわ」
星崎は肩口にかかった髪を指先で払いながら、俺をそばに置く理由を伝える。
なんだか星崎の口振りだと、俺って厄介者みたいだな。
「ただし、死にそうになってもこの前のように助けたりしないわよ。『荒れ果てし辺境の遺跡』は推奨レベルが100。光城くんにはきついんじゃないかしら?」
「問題ない。おまえたちが行くのなら、ついていくぜ」
「……根っからの命知らずのようね」
星崎は瞳に苛立ちをふくみながら見つめてきた。ダンジョンの推奨レベルを伝えれば、俺が怖じ気づくとでも思っていたんだろう。
確かに今朝までの俺だったらきつかったかもしれない。だが、星崎と同行できるのならいくらでもレベルアップが可能だから大丈夫だ。仮にレベルが低いままだったとしても、俺は星崎についていっただろう。
『好感度があがりました。レベルが10あがりました』
これで本日三度目のレベルアップ。この短時間でレベルが40もあがってしまった。今の俺のレベルは90だ。
しかし、好感度があがったはずなのに星崎はムスッとしており、俺に対して好印象を抱いているとは思えない。相変わらずトゲのある視線を向けてくる。
もしも一昨日の試験で俺が敗北していたら、星崎は偉そうな上から目線で見下してきていただろう。もしかして、普段から周りにそうやって接しているのか?
だとしたら……。
「なぁ、星崎」
「なによ? まさか今さらになって、やっぱりダンジョンにもぐるのが怖くなったとか言い出さないわよね?」
「おまえって、ボッチでしょ?」
「…………」
ピシッと空間がヒビ割れるような音がすると、星崎は完全に動きを停止した。
「い、いきなり何を言い出すんですか、光城さん! そんな、マナカさまに言ってはいけないことを!」
傍らで俺たちの会話を聞いていた朝美が、急にアタフタしはじめる。そのリアクションのおかげで、推察が確信へと変わったよ。
美人だから近寄りがたいっていうのもあるけど、こんな高慢な態度を取られたら周りに人は寄ってこないよね。
「光城くんが何を言っているのか、理解に苦しむわね。わたしほどの人間と釣り合う相手が滅多にいないことは認めるけど、友人と呼べる相手くらいいるわよ。……朝美とかね」
星崎はやれやれと首を振るうと、苦し紛れに朝美の名前を持ち出してきた。
「そ、そうですよ! マナカさまにはわたしがいるんですから! わたしだけがいればいいんですから!」
朝美はハッとすると、必死になって星崎をフォローしはじめる。けど、それってもう自分しか星崎に友達がいないって認めているのと同じだよ。
「でも朝美は星崎よりも学年が一つ下なんだろ? 学校じゃ同学年に親しい相手がいないと、過ごしにくいんじゃないか? いつも休み時間はどうやって」
「光城さんっ! ちょっと、光城さんっ! もういいじゃないですか、学校のことなんて! わたしたちはこれからダンジョンにもぐるんですよ! いい加減、学校のことなんて忘れましょうよ!」
星崎が学校でどうやって過ごしているのか追及しようとしたら、朝美が強引に話題をブッタ切ってきた。「それ以上はやめろ!」と朝美の真剣な顔に書いてある。
そして星崎はかすかに下唇を突きあげて、さっきよりも苛立った目つきでこっちを睨んでいる。
「ごめんね。触れちゃいけないことに触れちゃって」
「なんのことかしら? 光城くんが謝る理由がわからないわね。わたしは無駄に数だけ多い友人よりも、たった一人でもいいから理解ある友人がいてくれるほうがいいもの」
同情される筋合いはないと、星崎は目をそむけずに言い返してきた。
気の強い女だこと。まぁ、そういうところには好感が持てるが。
あと、本当に朝美だけしか友達がいないのね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます