【好感度レベルアップ】 現代ダンジョン風のゲーム世界にモブ転生した俺は、彼女の好感度をあげまくって死の運命を変えてみせる。

北町しずめ

第1話


 全身を駆けめぐる血流が、沸騰したように熱くなっていた。


 唇からもれる吐息は途切れ途切れで、呼吸が乱れている。


 力の限り走る足が地面を叩くたびに、身につけた軽装鎧が音を鳴らす。


 汗ばんだ右手で握りしめたロングソードがやけに重たく感じる。


 鎧を装備して剣を握りしめているなんて、こんないかにもファンタジーな格好をしている自分が信じられない。


 本当にこれは現実なのかって、この疑問を何度も繰り返し抱いていた。


『ラストダンジョンメモリーズ』


 そんなタイトルのゲームがある。


 プレイヤーからの略称は『ラスメモ』で、ジャンルはダンジョンRPGだ。


 作品の世界観は現代にダンジョンが出現した系のもので、日本を舞台にしつつファンタジー要素がてんこ盛りになっている。


 ゲーム内容は仲間になるキャラたちとパーティを組んで、ダンジョンに攻略していくというもの。


 キャラクター人気もあって、相当な売り上げだったらしく、システム面での評価も高い。


 その『ラスメモ』では、冒険者なんてものが現実の職業として成り立っている世界になっている。


 数十年前に、世界中にダンジョンと呼ばれるものが出現した。


 二メートルほどの長方形をした石碑が無数に現れて、それがダンジョンに通じる転移装置としての役目を果たしている。


 石碑に触れると、洞窟だったり、お城だったり、遺跡だったりと、多種多様な構造をしたダンジョンに肉体ごと飛ばされる。


 転移した先のダンジョンによって階層だったり、出現する魔物は異なっていて、そこには神秘と危険が混ざり合った幻想的な世界がある。


 そのダンジョンが出現した際に、レベルやステータスといった特殊能力を現世で獲得した者たちがいた。それが冒険者だ。


 冒険者はレベルをあげて、ステータスの数値を高めることで、常人を遙かに超える身体能力を発揮することができる。


 レベルやステータスといった能力を持った者なら、年齢が十六歳に達していれば、冒険者ギルドで冒険者ライセンスを取得して、活動することができる。


 そんな冒険者たちの主な仕事内容はダンジョン探索だ。


 ダンジョン内に出現する魔物を倒して、入手した魂精石こんせいせきやドロップした武器を売買することで生計を立てている。


 けど冒険者として覚醒できる人間は稀で、数十人に一人くらいしかいない。それに命の危険だってつきまとう仕事なので、引退する人たちも多い。誰でも続けられる職業じゃない。ステータス能力を持っているので冒険者と呼ばれているが、職業としての冒険者じゃいられなくなるんだ。


 そして冒険者としての力を悪用したことが発覚すれば、ライセンスを剥奪されて、ダンジョンに立ち入ることが禁じられる。そのうえで重い処罰が下される。


 そんな現代ダンジョン風な世界観のゲームで、俺は、俺は……。


 序盤のチュートリアルで死亡するモブキャラになっていた!


 朝になって目が覚めたら、光城涼介こうじょうりょうすけというキャラになっていたんだ!


 最初はわけがわからなくてパニックだったし、「こいつどこかで見たことあんな?」という疑問を持ち、よくよく思い出してみれば『ラスメモ』のモブだったよ!


 ゲーム序盤で主人公が冒険者として覚醒するチュートリアルがあるんだが、そのときに対峙していた敵の強さをプレイヤーに理解させるために、見せしめとして殺されるモブがいる。それがこの光城涼介だ! 俺はそんなモブに転生してしまった!


 ゲーム転生とか、漫画やラノベで読んだことはあるけど、マジで勘弁してほしい。数日後には死ぬとわかっているから、精神への負担が尋常じゃない。


 こういうとき、普通ならゲーム知識を活かして自分にとって有利な展開に事を運ぶんだろうが……あいにく俺は友達から勧められた『ラスメモ』を最初のあたりしかプレイしていなかった。


 だって俺、ダンジョンRPGとかそんなにやんないからね。どちらかといえば、難易度がおかしい死にゲーをとことんやりこむタイプのゲーマーだ。普通にボスを倒せて進めるゲームとかじゃ満足できないんだよ。


 なので隠されたチート級の武器をゲットしたり、とんでもなく強力な魔術を覚えたりして、死の運命を回避することはできそうになかった。




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