第2話
混乱しつつも自分の身に起きた状況を整理すると、これかなりやばいな、うん。という結論に達した。達してしまった。
なんでよりにもよって、『ラスメモ』の知識が乏しい俺が転生されてんだよ。どうせなら『ラスメモ』の知識が豊富な俺の友達のほうを転生させろよ。アイツならゲーム知識を存分に活かして、簡単に死の運命だって乗り越えるはずだから。
……冗談じゃない。こんなわけのわからないことで、殺されてたまるか。絶対に生き延びてやる。
身に降りかかったトンデモな事態に憤りつつも、このままだと数日後には死んでしまう。そんなのは、到底受け入れられない。
というわけで、俺は乏しいゲーム知識を使って、レベルあげをすることにした。チート級の武器がどこにあるのかわからない以上、正攻法で強くなっていくしかない。
初心者の冒険者が足を運んでいる、レベルの低い魔物が出現するダンジョンにもぐっていった。ここならば、今の光城涼介でも一人で魔物を倒せるはず。ちょうど今の俺に見合ったダンジョンだ。
ところが、だ。
出現する魔物をどれだけ倒しても、ぜんぜんレベルがあがらなかった。汗まみれになって、魔物を斬って、斬って、斬りまくったけど、レベルアップのお知らせがこない。
もしかして、相手する魔物が弱すぎたか?
そう考えて、今の俺と同格くらいの魔物が出現する別のダンジョンにもぐってみた。そこで丸一日を費やして、ようやくレベルを1だけあげることができたんだ。
レベルアップしたときは頭のなかで、『レベルが1あがりました』という天の声というやつが聞こえてきた。これも冒険者としての能力の一つらしい。
ちなみにレベルアップしても、消費したぶんのHPやMPは全回復しない。消費したぶんは、そのままみたいだ。
……おかしい。一日かけて、レベルが1だけしかあがらないなんて……。ゲームではもっと早くレベルがあがっていたぞ。
このペースでは、とてもじゃないが運命の日までに間に合わない。
そういえば友達が言っていたな。『ラスメモ』はキャラごとにレベルアップに必要な経験値が違うって。そこもふくめてキャラ性能なんだって。
もしかして、光城涼介って冒険者としてはかなり落ちこぼれなんじゃ……。
まぁ、優秀なキャラなら、もっと他の冒険者たちから注目されているよな。仮に冒険者ランクなんてものが『ラスメモ』にあったなら、まちがいなく光城涼介はE級冒険者の烙印を押されている。
というわけで、まともにレベリングをやっていても間に合わないとわかったので、別の手段を講じることにした。
それは、ゲーム内の主人公くんを頼ることだ。
序盤で現れた強敵に光城涼介は殺されて、その場に偶然いあわせてしまった一般人の主人公くんもついでに殺されそうになってしまう。そこで主人公くんは冒険者としての覚醒を果たし、同時にスキルも覚醒させて、ピカピカに光る七色の剣を使って、敵を一度は退けるんだ。
そこから主人公くんの物語がはじまるんだけど……。
悪いが、シナリオを前倒しさせてもらおう。
本来のシナリオよりも早く、俺のほうから主人公くんに接触する。多少は手荒い真似になってしまうかもしれないが、どうにかして主人公くんには予定日よりも早く冒険者として覚醒してもらう。それで、あのピカピカ光る剣を出せるようにするんだ。
スキルに覚醒した主人公くんに、運命の日に現れる敵を退けさせよう。
そう思い立ち、俺は『ラスメモ』をプレイしていたときの記憶をたどって、主人公くんが暮らしている住居まで足を運んだ。
ところが、どれだけ家のそばで待ち構えていても、主人公くんが現れる気配は一向になかった。どういうことだと頭をかしげて、近所で暮らす人たちに聞き込みをしてみると、「そんな人は知りませんけど?」と言われてしまった。
まさか、そんなはずが……。
不審者だと思われるかもしれないが、なりふり構ってはいられない。意を決すると、俺は主人公くんの家を直接訪ねて、主人公くんの所在を聞いてみた。
すると家のなかから出てきた女の人に「そんな名前の人はうちにはいませんよ?」と不機嫌そうに目を細められて、言われた。
それではっきりと確信した。この世界には、主人公くんの存在そのものがないんだってことを。
主人公くんが不在なら、早めに覚醒させて、死の運命を回避する手伝いをしてもらえない。俺の考えた作戦は、失敗に終わってしまった。
どうする? もういっそのこと、この都市から出ていって、しばらく遠くに逃げておくか?
……いや、数日後にはダンジョンの魔物が地上にあふれ出して、そのときにあの敵も地上にやって来る。ゲームの言動から察するに、アイツは明らかに光城涼介のことを狙っていた。
どこに逃げたって、追ってくる可能性がある。
やっぱりこっちが敵を迎え撃つくらい強くならなきゃ、生き延びることはできない。
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