第20話 私をみて、どうする

 海近くのバス停に着くと、星恵ちゃんはガードレールに手を掛け「わぁ~……キラキラ輝いていてキレェー……」と、はしゃいだ姿を見せる。


「本当だね。海水浴場は、このままずっと下っていけば良いんだっけ?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、行こうか」


 俺達は坂道を下って海水浴場へと向かう──目的地に着くと一旦、立ち止まった。海水浴場は家族連れやカップルと沢山の人は居たが、ギュウギュウといった感じはなく、適度に混んでいた。


「そんなに混んでなくて良かったね」と俺が話しかけると、星恵ちゃんは「そうだね。ゆっくりしていて混んできたら嫌だから、早速、着替えてくるね」


「うん」

「多分、光輝君の方が早いから海の家の前で待っていて」

「了解」


 俺が返事をすると、星恵ちゃんは小さく手を振りながら、女子更衣室の方へと歩いていく。俺は男子更衣室の方へと歩き出した。


 ──俺は白黒の派手なデザインが入ったサーフパンツに着替えると約束通り、海の家の前へと向かう。


 星恵ちゃん、どんな水着を着てくるのかな……楽しみ! と待っていると、最初に到着したのは、黒のハイネックビキニを着た高橋さんの方だった。


 さすが高橋さん……スラッと引き締まった体をしているから露出が高くても、堂々としている。


「ちょっと光輝君!」

「はい?」

「私をみて、どうする」


 いきなり話しかけられてビックリしている間に、高橋さんは後ろに居た星恵ちゃんの背中に回り、「あなたがジロジロ見るのはこっちでしょ!」と、星恵ちゃんの背中をグイっと押す。


 星恵ちゃんは、よろめきながらも踏みとどまり、上目遣いで前髪を触りながら「ど、どうかな?」と恥ずかしそうに話しかけてきた。


 その仕草だけでも十分、可愛いのに、白い素肌に白のタンキニを着た星恵ちゃんは、天使か! と思うぐらい魅力的で、鼻血が出そうなぐらい可愛い。


 高橋さんの前で言うのはちょっと恥ずかしいが「えっと……語彙力なくて、ごめんだけど、似合ってるよ」


 俺がそう言うと、星恵ちゃんは照れ臭そうに髪を撫でる。


「えへへ、ありがとう」

「はい、ご馳走様! どうする? このまま二人だけで遊んでくる?」


 高橋さんはそう言って微笑む。何だか今までと雰囲気が違う気がする。どうしたんだろ?


「うーん……」と星恵ちゃんが悩みだしたので、俺は「いいよ。泳ぐのあまり得意じゃないし、まずは高橋さんと二人で遊んでおいで」と提案した。


「分かった!」と、星恵ちゃんは返事をして、リュックを俺に渡し、麦わら帽子を被せると「じゃあ、これ。預かってて!」


「了解」

「菜緒、行こ」

「うん」


 二人は海の方へと歩いていく。俺は人のいない広い場所に移動し、カラフルなレジャーシートを広げた。


 レジャーシートにリュックを置き、座ると、楽しそうに泳ぐ二人を見つめる──和やかな時が流れ、これだけで海に来て良かったなと思う。


 ──しばらくして、二人は海から上がり、星恵ちゃんは海の家の方へ、高橋さんは真っすぐこちらへ歩いてきた。


「──星恵ちゃん、何処に行ったの?」

「飲み物を買って来てくれるって」

「あぁ」


 高橋さんは俺の横に座ると、「ふふ」と笑う。


「どうしたの?」

「可愛い麦わら帽子なのに、似合ってるじゃない」

「そりゃ、どうも」

「──ねぇ」

「なに?」

「さっきからこっちの方に顔を向けないけど、恥ずかしいとか、そんなオチ?」

「──悪い?」

「悪くはないけど……そんなんじゃ先行き、ちょっと心配だな」


 高橋さんはそう言って、ジジジジジ……とチャックを開く──。


「はい、これでどうですか?」と話しかけて来たので、高橋さんの方に視線を向けた。高橋さんは白いラッシュガードを着てくれていた。


「大丈夫」

「良かった。星恵ね……光輝君に水着姿を見せたかったんだけど、一人じゃ恥ずかしくて無理だから、私に付いてきてって誘ってきたの。可愛いでしょ!?」

「うん、可愛いね」

「でしょ!? だから……あなたの後ろで、むくれてるお嬢さんを誘ってあげてくださいな」

「え?」


 俺が後ろを振り向くと、確かにそこには、フグの様に可愛くホッペを膨らませた星恵ちゃんが立っていた。


 高橋さんは立ち上がると、星恵ちゃんに近づき、肩をポンっと優しく叩く。


 星恵ちゃんの手からスポーツドリンクをスッと受け取ると「取らないから大丈夫だって」と言って、俺達から離れる様に歩き出す。


「菜緒、どこ行くの?」

「お散歩。あとは二人でお好きにどうぞ」

「菜緒、美人なんだから、ナンパ男達に気を付けなよ」

「分かってる~」


 高橋さんはそう返事をして、背を向けたまま手を振り、行ってしまった。

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