実は超人気ラノベ作家で普段は隠キャ高校生の俺、罰ゲでクラス全員に告白させられたけど、学校一美少女のアイドル声優が俺の小説のファンらしく付き合うことになりました。

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話 普段は陰キャ高校生


 どうして人はこうも他人を分類したがるのだろうか。

 リア充だ非リアだの、陰キャだ陽キャだの……くだらない。


 そんなことを教室の片隅で考えている、俺――夕上望都ゆうがみもとは、いわゆる陰キャ側の高校生だ。


 地元の高校にそのまま入学したはいいものの……。

 入学早々、変な奴らに目をつけられてしまったらしい。

 やれやれ……なるべく目立たずに平穏な学校生活を送りたかったんだがな。


「おい! 夕上ゆうがみィ! 今日も昼メシじゃんけんやるよなぁ?」


 俺に馴れ馴れしく話かけてくるのは、根岸慈恩ねぎしじおんといういかにも頭の悪そうな名前の男だ。

 こいつはいわゆる陽キャ側の人間で……まあなにかとちょっかいをかけてくるのだ。


「どうせ俺が負けるんだろ……」

「はぁ……? そいつは言いがかりだぜ、なあ? みんな」


「「ギャッハッハ」」


 根岸ねぎしの問いかけに、彼のグループが下品な笑いで応えた。


 昼メシじゃんけん――つまりはまあ、じゃんけんをして負けた奴が、みんなの昼メシを買いに行くという例のヤツだ。

 正直くだらないと思いながらも、俺は波風を立てないように、毎回律儀に参加していた。


「じゃーいくぜ、じゃーんけーん!」


「「ぽん!」」


 俺はグーを出す。

 だが、他の奴らは全員パーを出していた。

 いつもこうだ……。

 つまりは出来レース。


 以前俺がグー以外を出したら後で散々嫌がらせをされた。

 面倒なことは避けたいから、それ以降俺はこの茶番にしぶしぶ付き合っている。


「また夕上ゆうがみの負けだな! ほんっと弱いなお前」

「じゃーな、俺カレーパン」

「あーしフルーツサンド」

「さっさといけよ、ホラ」


 と俺はいつものように昼メシを買いに行かされる羽目になる。

 まあ、素直に従っておけば、表面上の平穏は約束されるので構わない。


 そして幸いなことに、俺は





「くそ……! 今日はいつにもまして購買が混んでいた……!」


 俺はクラスメイトたちの昼飯を抱えながら、階段を急いで駆け上がる。

 遅くなると何をされるかわかったものじゃない。


 廊下も階段も、多くの生徒でごった返していた。


 そんな中を急ぎ足で通り抜けたものだから、人とぶつかってしまう。


 ――ドン!


「あ、ごめん……!」


 軽く当たっただけだが、相手は女生徒だ。

 俺は申し訳なさから、自然と謝罪の言葉を発していた。

 そして俺が何事もなく通り過ぎようとすると……。


「あの、落ちましたよ……? これ」


 その女生徒は、俺に一つの菓子パンを差し出した。

 どうやらぶつかった表紙に、レジ袋からこぼれ落ちてしまったらしい。

 くそ、購買のおばさんめ。ぎちぎちに詰め過ぎだ。


「あ、ありがとう……」


 パンを受け取るときに、女生徒と目が合ってしまう。

 そこで、相手が美咲歌音みさきかのんだと気づいた。


 美咲歌音みさきかのん――うちの学校一の美少女で、アイドルで声優として活動をしている有名人だ。

 同じクラスメイトでありながら、俺とはまったく正反対の位置にいる女。


 さすがは芸能人、こうしてまじまじと目が合うと、思わず見惚れてしまう。

 普段はただのクラスメイトで、意識することなんかはなかったが……。


 天然で青みがかった髪と瞳、そして異常なまでに磨き上げられた肌の質感。

 体型も顔も、他の有象無象のクラスメイトとはまったくの別物。

 同じ教室で息を吸うのも申し訳なくなるくらいの、天上の存在だ。


「「あ……」」


 そんな彼女と、パンを持った手と手がぶつかってしまう。

 俺としたことが、変な緊張をしてしまった。


「ご、ごめん……」

「いえ……あの、夕上ゆうがみくん……でしたよね?」

「え、ああ……そうだけど……なに?」


 これは驚いた。

 あの美咲歌音みさきかのんが、俺なんかの名前を認識していたなんて。

 トップアイドル声優からすれば、クラスの陰キャ男子なぞゴキブリ程度にしか思われていないものかと思っていたが……。

 どうやら彼女は中身までもが天使らしい。


 ――キーンコーンカーンコーン。


 そのとき、俺の死を告げる合図が鳴った。

 終わった……。

 俺はミッションクリアならず。

 クラスのDQNたちに時間内に餌を与えることができなかった。


 って俺、何秒彼女に見とれていたんだ……?


「ご、ごめん美咲みさきさん。もう行かなきゃ……!」


 せめて走っていって、急いでいるフリだけでもしよう。

 購買が混んでいなければ、こんなことにはならなかったというのに……。


 そういえば、さっき美咲みさきは俺に何を言おうとしていたのだろう――?





「遅かったじゃねえか夕上ゆうがみィ! なにしてたんだよォ! チャイムなっちまったじゃねえか!」


 根岸ねぎしが俺の肩に腕を回して、絡んでくる。

 クソ……面倒なことになった……。

 そんなに文句があるなら自分たちで買いにいけという話だ。

 まあ、俺はことを荒げるつもりはない。

 大人しく陽キャどものお遊戯に付き合ってやるとするか。


 ――放課後になって、俺は根岸ねぎしたちのグループに取り囲まれた。


「これは罰ゲームだな……! はい夕上ゆうがみ、罰ゲーム……けってぇーいっ!」


 根岸ねぎしが大仰な口調でそう告げる。

 彼のとりまきたちが、一斉にはやし立てた。


「「罰ゲーム! 罰ゲーム!」」


 はぁ……。

 一体なにをさせられるのやら……。

 まあいずれにせよ、俺はさっさと終わらせて家に帰るだけだ。


「じゃあ夕上ゆうがみ、クラス全員に告白な」


「…………は?」


 俺は根岸ねぎしの言葉に、思わず声を失った。

 今……なんて言った、コイツ?

 どうやったらそんな頭の悪い罰ゲーム、思いつく……!?

 直後、その回答がグループのギャルからもたらされる。


「あーそういえば、根岸ねぎし昨日、美咲みさきさんに告って玉砕してたもんねー」


 水津美凛みなつみりん――根岸ねぎしグループのカースト上位女子だ。

 今も他人の机に脚を組んで座って、ストローでスムージーを飲んでいる。

 赤っぽい茶髪をポニーテールに束ね、スカートを極限まで短くしている。

 まあ美咲みさきほどではないにしろ、見た目は抜群だ。


「……っるせえよ!」


 根岸ねぎしが照れ隠しにシャドーボクシングを始める。

 はぁ……なるほど、そういうことか。

 根岸ねぎし美咲みさきにフラれた腹いせに、俺に恥をかかせたいというわけだ。

 まあ、俺としてはそれで解放されるなら別にいいって感じだ。

 そもそも他人にどう思われようがどうでもいいしな……。


「おい夕上ゆうがみ! 明日からクラス全員に告れよな……!」


 根岸ねぎしが俺の背中を、ドンと叩く。

 はぁ……面倒なことになった、本当に。


「う……わかったよ……」


 だが俺たちはまだ知らない。

 この告白罰ゲームを断らないヤツがいることを……!


 いや普通、クラスの喋ったこともない陰キャから告られたら、断るだろ?

 そう、このときまでは俺も、根岸ねぎしも、水津美みなつみたちとりまきも、みんながそう思っていた。


 だが、俺の告白は……たった一度だけ成功することになるのだ――。



 その相手とは美咲歌音みさきかのん――学校一、いや……いまや日本一といっても過言ではない、誰もがうらやむ美少女アイドルだ。

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