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 最終日、鷹野駅には多くの人が集まっている。沿線住民や全国各地からやって来た鉄オタ。誰もが鷹電の最後を見守るために集まってきた。寂しいけれど、明日からもう鷹電はなくなる。これからは心の中でしか走らなくなる。


 今日は日曜日だ。信也も両親も朝早くから来ている。いつもはこんなに多くないのに、今日は多い。昔はこんなに人が多かったんだろうか?


「いよいよ今日で最後か」

「寂しいな」


 信也は駅舎を見上げた。もう明日からは鷹野駅ではなくなる。鷹野駅跡となる。明日からはモーター音や汽笛は聞こえなくなる。


「こんなに多くの人が来てたら、廃止にならなかったのに」

「そうね」


 3人はホームにやって来た。ホームでは式典が行われていて、鷹電の上層部の人々が来ている。沿線の小学校や中学校の吹奏楽部が演奏をしている。曲は『線路は続くよどこまでも』だ。だが、もう明日からはもう走らない。そう思うと、本当にこの曲でいいんだろうかと思ってしまう。この状況なら、『さようなら』の方がいいんじゃないかと思ってしまう。


「長年親しまれてきました、鷹野電鉄、今日で最後の日となりました。長年ご愛顧いただきまして、誠にありがとうございました! 明日からは鉄道がなくなりますが、心の中でいつまでも走り続けていく事でしょう!」


 ホームにも多くの鉄オタが来ている。彼らは鷹電を走る古めかしい電車が好きで、まるで一昔前にタイムスリップしたような雰囲気に慣れるのが好きなようだ。


 3人は電車に乗った。いつもは単行だが、今日は2両編成だ。車内は超満員で、すし詰め状態だ。みんな、乗り納めをしようとする乗客だろう。


「いつまでも語り継いでほしいね」

「ああ」


 と、大きな汽笛が鳴った。そして電車は、大きな吊りかけモーターの音を響かせながら、鷹野駅を出発した。窓よりの乗客は紙テープを持っていて、ホームにいる人々はその先を持っている。動いていくと、紙テープの束はすり減っていく。


「おーい!」

「さようならー」


 沿線住民は手を振っている。やがて電車はホームを離れ、雑木林の中に消えていく。乗客の持っていた紙テープの束はなくなった。電車が駅を出ると、そこにはカラフルな線となった紙テープがあった。


 3人は超満員の乗客の中、かろうじて沿線の様子を見ている。電車は雑木林の中を進む。冷房のない車内には、沿線のすがすがしい空気が入ってくる。


「もうこの景色、見れないのか」

「残念だね」


 3人は残念そうに見ている。今日、乗っている人々も、きっとそんな思いだろう。


 電車は次第に田園風景を離れ、川沿いのわずかな平坦な土地を走っている。川では魚釣りをしている人々がちらほらいる。彼らも鷹電がなくなるのが寂しいんだろうか?


「ご乗車ありがとうございます。北畑です。お忘れ物のないようにご注意ください」


 電車は今でも行き違い設備の残る北畑駅にやって来た。北畑駅はわずかな平坦地に設けられた駅で、民家はない。だが、鷹電のほぼ中間に位置し、行き違い設備があるので重要な駅だ。だが、本当に行き違いが行われるのは朝のわずかな時間だけだ。


「行き違い待ちです。しばらくお待ちください」


 珍しく、行き違いが行われるらしい。行き違いを見るのは初めてだ。一部の乗客は降りて、行き違いの様子を見ようとしている。小さな駅舎には駅員がいる。普段はいないのに。


 しばらく待っていると、電車がやって来た。その電車も2両編成で、超満員だ。電車がホームに滑り込むと、発車のアナウンスが流れる。すると、ホームに降りていた人々は車内に戻った。


 電車は再び黒原に向かって走り出した。途中には更家駅を含めいくつかの駅があるが、その中には更家駅をはじめ、昔は行き違いが行われたと思われる駅もある。全盛期は何本の電車が走っていたんだろう。


 黒原駅に近づくと、民家が多くなってきた。この辺りはそこそこ賑わっているようだ。


「次は終点、黒原です。JR線は乗り換えです。ただいまご乗車いただいております鷹野電鉄は、大正5年の開業以来、多くの人々に親しまれてきましたが、本日を持ちまして、最終運行となりました。長年のご愛顧、ありがとうございました。これからは、心の中で走り続ける事でしょう」


 乗客は真剣にそのアナウンスを聞いている。中には録音する鉄オタもいる。このアナウンスは今日しか聞けないものだ。しっかりと残しておきたいと思っているんだろう。


「まもなく終点、黒原です。JR線はお乗り換えです。ご乗車ありがとうございました」


 電車は黒原駅に着いた。乗客は一声に降りた。鉄オタの多くは電車を撮っている。この電車は鷹電の廃線と共に引退が決まっている。もう走る事はないのだ。現役時代の写真を納めておかないとと思っているんだろう。


「もうこの車両、見れなくなるんだね」

「残念だけど、時代の流れなんだね」


 3人は電車を見つめている。今日まで多くの乗客を運んできた。その中には、人生を運んだこともあるだろう。だけど、それも今日で終わりだ。明日からはバスが住民の足になる。そして、人々の人生も運ぶ事だろう。


「貴重な車両なのに」


 信也は寂しそうに見つめている。今日まで通学や塾で使ってきたのに。明日からはバスで行く事になる。今まで気にしていなかったけれど、今になって寂しいと感じる。


「鷹野駅で保存するって噂があるらしい」

「そうなんだ」


 信也は少し笑顔になった。もし、そこに保存されることになったら、そこに行ってみたいな。そして、昔を思い出しながら、鷹電の思い出に浸りたいな。

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