零の二

 ポツリポツリと歩き、零は地下道を行く。

この道は零か舞菜以外使わない。

なにせここに住むのは零なみに嫌われる偏屈爺。

誰も会おうとはしない。

だからこそ零には心地良いのかもしれない。

「おう。レイか。」

零はすっと手を上げて挨拶をする。

「挨拶くれぇ口でしろよクソガキが。」

「会いに来るのが俺かマイナしかいねー嫌われ者が説教してんなよ。」

「テメーも同じようなもんだろ。」

これはいつも通りだ。

いつも通り嫌味を言い合う。

だが、零には心地良い。

「ああそうだ。レイ。なんかまたラジオ拾ってこいよ。今使ってる奴がポンコツでよ。最近動かねーんだ。」

「使い方がわりーんだよ。いい加減自分で探してこいよ。」

「嫌だね。テメーがいけい。」

偉そうに踏ん反り返る老人、スウはフンと鼻を鳴らす。

零は苦笑いでスウの前に置かれた未開封の弁当を持って踵を返す。

「………今度気が向いたらな。」

ヒラヒラと手をふる零に背中越しでスウも手をふる。

これがいつも通り。

これでいいのだ。

自分が生まれ持った業は忘れて、この心地良い生活を続ける。

これが零にとっての幸せなのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る