33話 まさかの展開

 

「リュウユウ!? 放出してください!!!」

 

 ジョウシェンの戸惑った声。僕は頭で必死に考える。腕を出したが、どうすればいいか、頭の中で必死にあの武器を思い浮かべる。

 

 木組みで出来た鞭、仙力から生み出されるはずのそれを思い出す。その形を思い出すように、仙力で鞭の形を作ろうとした・・・・・・

 

「んーー!! やっぱ、武器出ない!!」

「こんな時に何してるんですか、もう! 前に来てます!!!」

「リュウユウは随分挑戦的なことをするよだ! ……ん?」

 

 ルオが何かの異変を感じ取ったのか不思議そうな声を出す。僕は「どうしたんだ」と声をかけようとした、その時だった。

 

 ザアアアアアアアアアッ!!!

 

 突如自分たちを襲ったのは、今日一番の突風。いや、とんでもない砂嵐だった。砂を含んだ風は、自分たちも骸骨たちを巻き込むように吹き荒れる。体は簡単に宙を舞い、竜巻のような砂嵐の渦に吹き上げられる。

 

「はああああああい!?」

「ジョウシェン!!!」

 

 一番体重の軽いジョウシェンがどんどんと上に上っていく。ルオはその手を伸ばすが、一番体躯の良いルオはうまく届かない。僕もまたジョウシェンに手を伸ばす。

 

 しかし、僕の運が悪かった。

 

 ガンッ!!!

 横腹に衝撃がぶつかる。それは、骸骨が持っていただろう棍棒らしきものが、頭に当たったようだ。あまりの痛みに僕は意識が朦朧とする。

 

「ジョウシェン、ルオ!!! まて、リュウユウお前!! 起きろ! ああああくそ! 一度撤退だ!!」

 

 遠くで、シュウエンの声が聞こえる。多分だが、この非常事態に次ぐ非常事態に、僕たちを回収しに来てくれたのだろう。しかし、僕の意識はその声とは逆に沈み、体に絡みつく何かによって、下へと引っ張られる。風で舞っているだろう色んなものにぶつかる感触だけを残し、完全に黒の世界へと堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

「……って、さ、い」

 

 あれからどれくらい経ったのだろう。誰か自分を起こす声が聞こえてくる。微かに自分の頬を叩く痛みに、少しずつだが意識が戻ってくる。

 

 まず、視界に映るのは既に朝を迎えた空。そして、小さな何かが覗き込んでいた。

 

「起きなさい! 龍仙師!」

 

 ぺちんっ

 

 また頬を叩かれた。しかし、人に叩かれた割にその衝撃は頬の一番高いところにしかない。不思議な感覚に思わず、眩しい中無理やり目を開けると、そこには驚きの光景があった。

 

「え?」

「起きたな、龍仙師」

「マサナリ皇子、本当にこのような蛮国のものに姿を見せてもよろしいのですか?」

「良かろう。背に腹は代えられないからな」

 

 マサナリ皇子と呼ばれた豪奢な扇鶴国の服を着た人と、黒尽くめで目しか見えない服を着た人が自分の顔を覗き込んでいる。しかし、それよりも大きく自分とは違うところがある。そう、二人のその姿はまるで。

 

「小人……?」

 

「なんと失敬な! 我々は精霊族であるぞ! 小人と一緒にするでない!」

「やめぬか、ユウシ。我々のことは、他国には秘密にしておるのだから」

 

 自分の掌に乗りそうなくらい、小さな姿をしており、パタパタと透き通る蝶の翅で宙に浮かんでいる。目覚めたばかりの頭が少しずつ状況を理解しようと、今までの言葉を反芻した。

 

 思えば、『マサナリ皇子・・』って言っていたよね。それに、この豪奢な服って。

 

 そこで、僕はこの人たちの正体に気づいた。

 

「え、も、もしかして、扇鶴国の皇子ですか!? うっ、いった……!!」

「まだ、動くでない。ユウシ、もう少し治癒をしてやれ」

 

 驚きのあまり声を上げて、身体を起き上がらせようとした。しかし、身体中の至る所が鈍痛で蝕まれており、起き上がることは叶わない。

 そうだ、自分の体は砂嵐の中で色んなものにぶつかって、気絶したのだった。気絶直前のことを思い出し、そもそも生きていることに感謝してしまう。

 そんな僕にマサナリ皇子は優しさだろうか、ユウシに指示をした。

 

「御意」

 

 ユウシは、僕に向かって手を向けると、何か不思議な言葉で念じ始める。その力は次第に自分の身体から自然と痛みを取り除いてくれた。

 

「す、すごい、ありがとうございます」

「精霊だからできる事だからな! 二度と小人と言うでないぞ!」

 

 感謝の意味を込めて頭を下げると、ユウシと呼ばれたその人は嬉しそうに話す。しかし、隣りにいたマサナリ皇子はじとっとした目でユウシを見た。

 

「そもそも。ユウシ、お前が撒いた種・・・・なのだからな、わかっておるな」

「ゔ、皇子、そ、それは、大変申し訳ありません」

 

 撒いた種・・・・、その言葉の意味が分からず、僕は二人を交互に見る。僕の視線に気づいたマサナリ皇子は、申し訳無さそうに口を開いた。

 

「実はな、あの砂嵐はユウシの使ったからくりの暴走で起きたのだ」

「え?」

 

 それは、本当に撒いた種・・・・が大き過ぎるのでは。僕は思わず顔を引きつらせた。



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