21話 修行というもの

 

 

 

 あの絶望を覚えた日から、一週間経った。

 今、僕を含む新人たちは、全員で座禅を組み、自分の中にある仙力を感じ取ろうとしていた。

 と言っても、一週間もあれば既に差が出るもの。ルオは感覚がいいのだろうか、すぐに自分の中の仙力を感じて、今は循環させることで体に仙力を慣らしているところだ。

 

 逆にジョウシェンは考えすぎてしまうのか、上手く仙力を扱えておらず、何度かジンイーと手を繋ぎ、仙力を上手に感じ取る練習をしている。

 

 そして、僕はやっと昨日仙力を一人で感じ取る事が出来て、今日は一日中ぐるぐると循環していた。

 

 また、修行する中で仙力に対して、一つ面白い事に気づく。

 

(うーん、やっぱ、昨日ほど仙力が掴めないなあ)

 

 仙力の感じ取れやすさは、周囲の環境もあるのではと思ったのだ。

 

 今までの修行や、今日の修行は、グユウ先導の元様々な場所を少しずつ変えて座禅を組んでいる。

 

 ルオは初日から何度か訪れているの天守閣で仙力を感じ取り、僕は昨日四阿での座禅で感じ取る事が出来た。

 

 もしかしたら、それが関係あるのでは。

 

 自分の気付きに思わずハッと気を取られ、その勢いで面を上げて目を見開く。すると、回っていた仙力が途端に乱れた。

 

「わあっ、ぁっ!」

 

 ぐっと、鳩尾あたりで詰まり暴れる仙力に、僕の身体は思わず崩れ落ちる。

 

「リュウユウ! しっかり呼吸を整えて。吸って、吐いて」

 

 グユウの強い指示が飛ぶ。言われた通り、引き付けそうな肺を無理やり動かして、呼吸を整えていく。それに伴い、乱れた仙力が少しずつ自分の体の中に溶け込み消えていく。

 

「珍しいね、リュウユウが気を取り乱すなんて」

 

「すみません、少しばかり考え事をしてしまったせいです。ちょっと、思いつきに気を取られました」

 

「この前のことがあったから、慎重だったから意外だね」

 

 

 あははは、と乾いた笑いを返しつつ、乱れた体勢を座禅の形へと戻す。この前の仙力が乱れた時の辛さで、少しばかり慎重になってしまっている自分がいるのは確かだ。

 

 因みにルオは、感じ取りやすい分、既に五回ほど暴走してグユウの水泡にお世話になっている。ジョウシェンもまた、2回ほど暴走してしまっていた。そう考えると、自分はかなり慎重派ではあるのだろう。

 

「それにしても、思いつき……気づいたことがあるんだろ? どんなことだい?」

 

「あ! 実は、この仙力って、場所によって感じ取りやすさが変わるんです。だから、僕の場合昨日の四阿での修行のが感じやすかったなと思いまして……」

 

 少しばかりしどろもどろな僕の回答だが、その一つ一つをグユウは、確りと聞いてくれる。そして、要領の得ない僕の言葉を聞いたグユウは、優しい微笑みのまま口を開いた。

 

「いいところに気付いたね」

「え、ではやはり……」

「でも、今はどの環境でも安定して感じ取れるというのが重要だから、その気付きは今後役に立つから。さあ、修行を再開しよう」

「は、はい」

 

 どうやら、この仮説は間違った気付きではないらしいが、グユウに促されるように、僕はまた修行に戻る。確かに、環境に左右されるのは良くない。今はどの環境でも安定して循環出来るようになるのが、一番大事なのだろう。

 そして、またぐるぐると仙力を巡らせ始める。

 

 そうこうしているうちに、修行を始めてから、一ヶ月経った。

 

 

「うーーーん、たしかにこの紋様は少し間違えてる感はあるな。この字が画数多い気がする……」

 

 

 久しぶりに会ったシュウエンは、僕の手にある刺青を見ながら、眉をぐっと寄せて、困ったように顔を顰めた。

 

「シュウエン、どうにかなりませんか」

「どうにかするにも、刺青を解除するには呪術師でも解除に精通する人が必要だけど、俺は専門じゃないからなあ」

 

 グユウの問い掛けに、言いづらそうに返事をするシュウエン。グユウ曰く、シュウエンが龍仙師で一番呪術に詳しい人らしい。なので、もしかしたらと望みをかけていたのだ。

 

「あー、俺が燈花とうかに行く前なら、あっちでも調べてきたのになあ」

 

 少しばかり頭が痛そうに抱えているシュウエン。実はこんなにも彼に見せるのに時間がかかったのは、急に西にある蹄鉄連合国の燈花国とうかこくへ行っていたからだ。蹄鉄連合国は大きい国の集まりで、その中でも一番遠い最西端にある国が燈花国であると、リュウユウは寺子屋で学んだ。

 そこに行ってきたのもあり、そこそこ問題が山積みらしく、滞在期間も長引いてしまったと聞いている。

 

「なんなら、呪術なら『永遠の都』とか寄ればある程度の情報は入れられたかもしれないな……」

「シュウエンわかったかー!? わかんないかー!!」

「ハオジュン、お前もわかんないだろ?」

「まー……俺! そういうちまちましたの、苦手なんだよな!」

 

 急にやってきたハオジュンに、呆れたように返事をするシュウエン。勿論、ハオジュンにも刺青はしっかりと見せてはいるが、「さっぱりわからん」と言い切られてしまった。同じく、ジンイーも「専門外」だったし、他の班の龍仙師や総統にも聞いたが、難しいらしい。

 

 ちなみに、勿論だが、問い合わせしている錦衣衛からはなんの返事もない状況だ。

 

 この状況は日に日に僕には焦りを生み出し、強くしていく。そして、なによりも。

 

 

「まだ、かかりそうなのか」

「刺青師の誤りとして、修正すべきことですよ。責任感がないのですかね、錦衣衛の人たちは」

 

「ごめんね、二人はもう二段階めも終わってるのに」

 

 ルオとジョウシェンは既に仙力の放出を取得しており、僕だけ放出が出来ていない状況だ。既に仙力の放出の修行で使う的や重りなどを持ち上げる二人の横で、いつまで経っても座禅で循環させることだけしかしてないのだ。

 

(迷惑をかけてしまってる)

 

 そう考える度に自分は、一生ここ止まりなのだろうかと悲しくなってきてしまう。

 

 まさか、この刺青のせいで、こんなことにもなるなんて思わなかった。

 僕は夜遅くまで座禅をした後、さっさと着替えて自分の部屋に向かう。

 

 唯一安らげる場所の布団。そこに向かう足取りは、まるで重い枷を着けられた囚人のようだった。

 

 

 

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