18話 自分の武器とは
「それは、私達が勝手に決めて良いものなのですか?」
ジョウシェンは、真っ先に新人全員が気になっていただろうことを質問する。
正直、前振り無しで、今後使う武器を決めるなんて、だれも想像していなかっただろう。
それに、だ。剣や斧を先輩達は使っていたが、この世には武器は沢山ある。
その中今からすぐに決めろというのは、なかなかに決断するにも難しいことだと思う。例えば、いくつか例がある中から適正とかを先輩たちが見て、自分の武器を選ぶならまだわかる。
けど、今のような何もわからない状態で、自分の武器を選んでしまって良いのかとも思うのだ。
「お前たち自身が使うのだから、当たり前だろう。といって、剣を選んでも普通の剣技は使えないのはわかっているだろう」
「では、少し時間を頂くことは? 自分に適正のある武器について調査したいです」
「駄目だ、今日から創り始めないと、訓練に間に合わなくなる。今直感で決めてくれ」
「それは、なんて無茶な……」
淡々とジョウシェンの提案を切り捨てていくイ先生を、ルオは面白そうに見た後、口を開いた。
「ならば、私はやはり剣がよい。青銅の武器といえば剣だからな」
「剣技は通用せぬが剣がいいか。そこの銀髪と同じか」
イ先生はグユウを顎で指す。指されたグユウは「剣は安心するからね」と困ったように笑った。
「剣の形は?」
「お任せで、青銅の剣らしくあれば」
「わかった」
ルオはそのままイ先生に青銅の剣を託し、「楽しみにしてます」とにっこりと笑った。
ジョウシェンと僕は、その様子を見て、慌てて頭から武器をひねり出す。
自分に向いてそうな武器とはなんだ。
じっくり考えれば考えるほど、頭がぼおっとし、思考が回らなくなる。
この部屋は長居するには熱すぎた。絶え間なく額やら何やらから、汗がだらだらと流れる。決まらずに、ここにうんうん唸って長時間いるのは、安易に死ににいくもの同意義だろう。
しかも、周りを見渡せばグユウとハオジュン、イ先生、そして、ルオは涼しい顔をしている。それとは対象にジョウシェンと僕は酷い汗を流していた。この人数がいる中、二人しかこの苦しさを感じてない可能性がある。
一度思考を中断し、ちらりと前へと目を向けた。眼の前にある鍛冶場、目の前には大きな溶鉱炉から轟轟と熱気が溢れている。
木の剣を見つめて、早く早く選ばなきゃと頭を回転させていると、ふと急に一つの武器が浮かんだ。
本当に急であり、正直何故それが浮かんだかはわからない。ただ、なぜか「それがいい」とこの剣に言われている気がしたのだ。
「イ先生……決まりました」
「なんだ?」
「鞭って、作れたりしますか……?」
「「「鞭!?」」」
そう話したときの、イ先生以外の周りの驚愕した顔は僕は一生忘れないだろう。
そして、
「作れるよ」
「「「作れるの!?」」」
何も問題ないという雰囲気で淡々と返すイ先生に、また更に周囲が驚愕した。
結果、僕の武器は鞭になった。鞭なんてほとんど見たことないが、なぜそうなったかはわからない。そして、一番時間がかかったジョウシェンは、「大きめの鉄扇」をお願いしていた。
鞭、なんで、僕、鞭にしたんだろ?
「じゃあ、武器作るからお前らはさっさと帰れ」
すでにくらくらとしている僕とジョウシェンは、イ先生になんとか挨拶する。そして、ふらふらの身体のままこの地下室から退場した。
宴会場に戻り、まず最初にしたのは水を飲むことだった。ジョウシェンと殆ど競い合うように水を飲んだ僕たちは、相当酷い姿だったと思う。
口から流し込んだ冷たい水が、喉を通っていく感覚がこんなにも心地よいなんてと、ぐてんとぶっ倒れそうになる身体を踏ん張る。
「お疲れ様、今日はあとは昼食と座学だけだから、ゆっくりするといいよ」
グユウによる優しい言葉に、思わずその他四人が目を光らせる。
昼食。その単語で、身体が欲するものが一致したのだろう。
そして、少しして宴会場に届けられた昼食は大量の揚げ鶏と、卵とトマトと青梗菜の炒めもの、茹でもやしのごま油和え。
そして、大量の五穀米。
「ジンイー連れてきたぞー」
「シュウエンさん!」
宴会にシュウエンも来て、その右手にはムスッとした顔のジンイーの首根っこが掴まれている。
「練習中だった!」
「うっさい! 駄々捏ねんな、前から言ってるだろ! 当分新人と会食だって!」
余程練習中を邪魔されたことに腹を立ててるジンイーは、シュウエンに抗議をするが、慣れているシュウエンはそれを一蹴する。
しかし、ジンイーは昼食を見ると、バッと目を輝かせた。
「揚げ鶏があるなら、先に言え!」
「知るかよ」
急にバッとこちらにルンルンで来るジンイーと、呆れたようにシュウエンはやっとのこと席につく。
「シュウエン、ありがとうございます」
「いいってことよ、グユウ隊長」
グユウはシュウエンにお礼を言うと、こちらに向き直った。
「それじゃあ、皆、いただきます」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
待ちに待った昼食の時間が始まった。
揚げ鶏には甘酢ネギだれが存分に掛かっており、それにお好みで花山椒を振りかける。もも肉だったり、胸肉だったり、手羽だったり、手羽元だったり、肉の感触が違うので次々と食べられる。
また、苫東の炒め物やもやしも、口の中をさっぱりとしてくれるので、お腹にどんどんと入っていく。
僕、ルオ、ハオジュン、ジンイーは、無言で搔き込み続け、どんどんと米櫃から米をよそう。
グユウとジョウシェンもそこそこ食べてはいるが、現実的な量を食べている。その横で、以外にもシュウエンは少し食べただけでお腹いっぱいになったのか、もうすでに食後の茶を楽しんでいた。
「シュウエン、お腹いっぱいですか?」
そんなシュウエンにグユウは優しく声を掛ける。
「まあ……胃もたれしそうで」
「ああ、後でさっぱりしたもの持ってきますね」
「ありがとう、やっぱ揚げもんは歳になるとキツイなあ」
隊長と部下とは思えぬやり取りに、僕はじっと二人のやり取りを見る。シュウエンはいつも通りだが、グユウはやはり僕たちと接する時と何かが違う気がするのだ。
(といって、なにが違うかはわからないけど)
暫くして、殆どの料理が底をつき、皆ゆったりとお茶を楽しんでいると、ジンイーが「あっ」と声に出して、僕たちを見た。
「新人、武器は決めたのか?」
「はい、決めました。私は鉄扇を選びました」
ジンイーの問いかけに逸早く答えたのは、ジョウシェンだった。
「私は青銅剣を」
次にルオが答え、それを聞いたジンイーは少しばかり悲しそうに口を歪め、「大鎚ではないのか」とぽつりと返しつつ、僕の方を見た。
「僕は、鞭です……」
「鞭……? 鞭だと?」
妙な空気が漂う。その中で一番最初に空気を壊したのは、あの人だった。
「最高じゃん! 小リュウ!! 拷問官になれるぞ!」
そう、シュウエンだ。
シュウエンはケラケラと笑いながら、机をバンバン叩く。酸欠になって倒れないかと心配なくらい笑う。
「だ、だって、なんか、浮かんだんですもん!」
「じゃあ、そりゃ、剣の思し召しかな! やっば、むり、笑う! 今までに無かったやつだ!」
言い返したつもりが、余計に笑われてしまう結果になり、ジンイーはその隣で信じられないものを見るように僕を見続けている。
暫くして、大きな銅鑼が鳴った。楽しい昼食会が終わりを告げ、グユウとハオジュンによって、次は座学の場所へと移動した。
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