当たるも当たらぬも

そうざ

When it Hits and When it Doesn't

 駅前広場のまん真ん中、傍らを歩いていた友人Hが突然、奇声を上げながらその場を飛び退いた。行き交う人々が、こちらに訝し気な視線を向けている。         

「何かが落ちて来たような気がしたんだっ……」

 その眼は血走り、恐怖の色を湛えていた。近頃、彼はこんな醜態を繰り返している。

 きっかけは、街頭の辻占いだった。或る晩、二人して冷やかし半分に占って貰ったところ、Hは頭にご用心と言われ、俺は商売繁盛と言われた。

「不公平だっ、お前だけ良い事を言われやがって」

 くだを巻きながらも、彼は全く信じていなかった――筈なのだが、それからほんの数日後、たまさか建築現場の脇道を歩いていたHの目の前に建材が落下したのだ。

 たちまち彼の言動に変化が生じた。

「ベランダから植木鉢が落ちて来たり、旅客機が墜落して来るかも知れないだろう?」

 彼は頑丈なヘルメットを装着しなければ全く外に出られなくなった。更に、脳神経外科等の病院巡りを始めた。頭の内側からも病気わざわいが降り掛かるかも知れないと考えたからだった。医者は皆、異常なしとの診断を下したが、彼の不安は一向に消えず、寧ろ疑心暗鬼が酷くなる一方だった。

「なあ、占いなんか何の科学的根拠も……」

「お前は良いよ。商売繁盛って言われたんだからなっ」

 喫茶店に入ると、Hは入念に天井を確認した後、ようやくヘルメットを脱いだ。頭は汗だくである。

 乱れた髪を入念に整えるHを横目に、俺はヘルメットの内側に少なからずへばり付いたを確認し、鞄から自社のパンフレットを取り出した。

「商売繁盛か……占いも馬鹿に出来ないな」

 俺は、かつらメーカーの営業職である。

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