第13話 逆側

「浴槽?」

ロードの部屋の隣。セリの部屋とは反対側は風呂場になっていた。


セリの居た運命神の教会には、2箇所あった。個人用で小さい物と、団体用というべき広い風呂。それと同じ広さはある筈だが、皆んなで入ったのでゴチャっとした記憶が強い。


「大きい〜」

「僕の趣味」


キースの屋敷を案内するという、ちょっと変な事をしていた。実際、キースも使ったことのない屋敷なので、当然風呂は見たことがないのだが。


「風呂はまあ、あっちで入ろうかな?」


一緒に居た短い間でも知っている、キースはすごく長風呂だ。世話役がいた方が、のんびりできるらしい。ここに本を持ち込んだらフヤケてしまいそうなくらい湯気が凄いらしい。


「そっかー」


セリは火の魔石より大きく火力の強い、炎の魔石をロードに見せてもらった。

「一緒に入るぞ」

「わーい広い風呂だあー」


高い声で言った、カナン付きだった。2人っきりで入らせる訳ないだろう。そこを無視して、セリに風呂上がりの特別を約束する。


「作ったミルクアイスを食べよう」

「もう、食べれるの?」


楽しみに、セリの目が輝いた。年相応の笑顔だ。シュルトから受け取った薬湯を持ち込んで、風呂の準備にかかった。


一方、キッチンにて…

「いつまで居られるノ?」

「このまま逃げようかな?」


シュルトが聞いた予定に、キースの返事は冗談じゃなく本気だ。普段から疑問系で話す癖があっても、全力で貴族の顔をしていない時は分かりやすい。

(分かりやすく、してくれているのかもしれないケド。)


なかなか大変だったのだろう。お疲れな様子も見てとれた。


「行きたい店があるんだけどね?バレて話しかけられるのも鬱陶しいし。」


キースの身分的に、御忍びであっても気楽に王都を歩くというの大変だ。鑑定魔法を使えるのも珍しいが、回復魔法。1人で転移魔法を使える程の魔法センスは、狙われている。


権力も守りもあるが、貴族からの接近は面倒そのものだ。


「あーあ。甘い物でも食べに行きたいなあー?」


キースは量もなかなか、食べる。庶民のものも好きだが、職人の作る芸術品は心の栄養だと、よく買いに行かせる事が多い。


「直接行く方が、美味しい気がするんだよ?」


そう思うが鬱陶しいモノは避けたい。お近づきになりたい貴族に見つからない方法はないものか。シュルトが出したマフィンのお代わりを食べながら、真剣に思案するのだった。


上の階では、風呂の準備ができていた。セリは湯着、そしてタオル1枚の2人。カナンは邪魔者扱いされるが、御目付役は引かない。

「さぶっ!」


冷気が来ても、2人っきりは阻止する!


「オマエはキースの護衛だろ?」

「正確には、セリちゃんの護衛ですぅ」


キースの護衛という役が付いたものの、本筋は変わらない。魔法担当のキース・腕力担当のカナンで、ロードを止めるのが本来の役目だ。


(仲良いなぁ)と思って2人を見るセリの準備は、バッチリ整っていた。

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