第38話 親切な男の人
「やっぱり無理!」
僕は我慢できずにサウナから急いで出た。急いでいたのに、フラついてしまう。サウナの扉を開けると一気にマシな空気を感じて、つくづく僕はサウナ向きじゃないのだと思った。
「大丈夫?」
声を掛けられて、そちらを見ると、さっきロッカーで隣になったお兄さんだ。僕は、何となくこの人はやばい気がして、周囲を見回したけれど、友達はまだサウナだし、他のクラスメイトも見当たらない。
するとお兄さんは眉を下げて言った。
「ごめん、何か誤解させちゃったよね?最初、君が女の子に見えてびっくりしちゃって。サウナで真っ赤だから、ぬるいお湯かけた方が良くない?冷たいと返ってこもっちゃうでしょ。」
そう言って親切にも近くの洗い場でシャワーを適温にして用意してくれた。僕はちょっと熱さでぼんやりしていた事もあって、誘導されるまま椅子に腰掛けてシャワーを浴びた。
ぬるいお湯が気持ちよくて、僕は目を閉じてお兄さんにシャワーを掛けてもらった。お兄さんは立ち上がると歩き始めて、ふと振り返って言った。
「露天風呂行くんだけど、君、一緒に行かない?熱った身体には、多分外気の方が気持ち良いよ?」
僕は面倒を見てもらった事もあって、断り辛くて、思わず頷いて後からついて行った。広い露天風呂にはクラスメイトもいて、僕はちょっと安心してお兄さんの近くに入った。お兄さんは僕に特に話しかける事もなく、目を閉じてのんびり浸かっていた。
僕が最初に感じたあの違和感は、気のせいだったみたいだ。露天風呂には幾つか風呂があって、僕は次々にそれを試した。
「君って高校生?」
気づけばお兄さんが隣に来ていて、こちらを向いていた。僕はにっこり笑って言った。
「はい。高3です。今日は文化祭の打ち上げで来ていて。」
お兄さんは打ち上げでここに来るなんて洒落てるねとか当たり障りのない話をしていたけれど、何だかさっきより近くに寄って来た気がした。そして僕の股間に何か違和感を感じて湯の中を見ると、お兄さんの手が掛かっている。
「あ、あの…!」
僕が焦ってお兄さんの手を振り払うと、その手を握られて引っ張り込まれてしまった。思いの外強い力で、お兄さんは前を向きながら言った。
「俺さ、君みたいなタイプ凄い好きなんだ。どうかな?君は。ダメ?」
僕は思わず周囲を見回したけど、さっきまでいたクラスメイトは居ないし、他の人たちも全然僕たちの事に気づいては居ない様だった。もう、突き飛ばして出るしかないと、湯船から立ち上がったその時、露天風呂の入り口から声が掛かった。
「玲、ここに居たのか。もう露天風呂出るのか?」
キヨくんだった。僕はタオルを手にするとキヨくんの所へ急いだ。
「丁度出るところ。キヨくんは?」
キヨくんは僕の様子にちょっと虚をつかれた様子だったけれど、僕らの隣を丁度通り過ぎるあの男に道を譲って、言った。
「貸切ブースで休もうと思って。行こう。」
僕はコクコクと頷いたけれど、今の変な感じだった男の人が脱衣所へ行くのを見て、足を止めた。今あの人の側で着替えたくはない。僕はキヨくんの腕を掴んで言った。
「ね、ジャグジーまだ入ってないから、一緒に入ろ?」
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