祭りの後始末
第22話 キヨくんとの距離感
「なぁ、何で委員長は橘の事、玲って呼ぶんだ?」
文化祭の後片付けをしながら、箕輪君が僕に尋ねてきた。僕は教室を道具を持って出て行くキヨくんを見送りながら答えた。
「え?…委員長、僕のことそんな風に呼んでた?」
僕は何だか気不味い思いで、箕輪君から目を逸らした。隣で作業していたクラスメイトも会話に加わった。
「あ、それ俺も思った。何かさ、委員長って橘の事贔屓してるっていうかさ。ただのクラスメイトじゃない感じ?」
僕はこのまましらばっくれるのも誤魔化しきれない気がして答えた。
「…僕と委員長って中学一緒だから。その流れで?」
すると二人は、そうなんだと納得してくれた様子だった。なぜ僕がその時、僕と委員長が幼馴染だと言えなかったのかは自分でも分からなかった。そう言うには、僕たちは長い間距離が空き過ぎたんだ。
この非日常のお祭り騒ぎで気分が高揚しただけで、日常が戻って仕舞えば、僕たちは「橘」と「委員長」に戻る。僕はちゃんとその事を分かっていたし、期待するのは怖かった。
とは言え昨日も、今朝も僕たちは一緒に帰ったし、登校してきた。なぜかキヨくんは当然のように僕の側を離れないし、まぁ方向が一緒だから自然な事なんだと思うんだけど…。
でも昨日の別れ際にまた明日と型通りの挨拶して家に入った僕が、何だか胸が疼くようなウキウキした気持ちを感じながら、それでも多くを期待しないように自分を戒めていたんだ。
その晩10時ごろにキヨくんからのスマホのメッセージが届いて、僕は文字通りベッドから飛び起きた。
『明日朝8:30に家の前行く』
それだけのメッセージだったけど、僕は何となく口元がにやけてしまった自分が怖かった。どれだけ幼馴染愛に飢えてるんだろう、僕は。僕がスタンプを送ると、新しい着信が届いた。
『文化祭お疲れ!橘と撮った写真、俺の彼女だって友達に見せたらめちゃくちゃ羨ましがられたんだけど笑。また近いうちにデートしようぜ♡』
それは文化祭に来てくれて、僕に乱暴に振舞った船木くんを諌めてくれた鎌田君からだった。あれから蒲田君は時々メッセージをくれるようになった。おはようだけとか、飼っている猫の写真とか。
僕は友達とそんなに頻繁にメッセージのやり取りをした事がなかったので、流石に陽キャは違うなとある意味感心していた。僕は当たり障りのないスタンプを送ると、ベッドに横になった。
ふと、胸がチクチクする感じがして、Tシャツを捲ってみると胸の脇の近くに瘡蓋が出来ていた。真田君に胸を掴まれた時に傷ついた場所だ。直ぐには治らないなとTシャツを引き下げると、もし僕に胸筋があったら怪我などしなくて済んだのかもしれないと思った。
僕も少しは運動して、生っちょろいこの身体を何とかしたほうが良いかもしれないと、ぼんやりと天井を見つめながら考えてていた。
でも文化祭で疲れていたのか、アラームを掛けるのを忘れてそのまま眠ってしまった。翌朝、キヨくんが迎えに来る10分前に飛び起きた僕は、母さんに呆れられながら、やっぱりバタバタと玄関を飛び出る羽目になった。
「玲はのんびり屋なのは変わらないな。少し早目に待ち合わせして良かったよ。」
そう呆れたように言うキヨくんに、そんなのキヨくんと待ち合わせしてる最近だけだとは、なぜか言えなかった。
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