第13話 清side玲への注目

俺は女装コンテストに出ると皆の前で頷いた玲を、ある意味呆然と見つめていた。文化祭前とどうしてこうも違ってしまったのかと思うほど、玲の表情は目を見張るものがあった。


それは俺が大事にしている子供の頃の玲を思わせるものだ。俺だけが知っていた玲を皆にも知られてしまったという腹立たしい感情が、ドロリと胸の奥へ滴り落ちていく。



確かに最初は困って動揺していたはずなのに、助け船を出そうか迷っている間に玲は自分で問題を解決してしまった。三浦と一緒に写真を撮っている玲を面白がって見ているクラスメイトの中には、ただそれだけでは無い眼差しで見ている者が数人居るのが感じられた。


それは昨日の玲の連絡先を強引に手に入れた蒲田の気になる眼差しに近かった。とは言え、自分がそれの最たる者である事は自覚していたけれど。



キヨくんと呼ばれて、一緒に帰って、そして今朝は一緒に登校までした。俺たちは一気に幼馴染のあの関係を取り返せたはずなのに、俺はもうそれだけじゃ満足出来ないのかもしれない。


電車の中で玲と近くに寄った時に感じた、すっかり大人びた玲は可愛いだけじゃ無い何かを俺に訴えかけてきた。昼に宣伝だからと繋いだ手は昔のようにぷくぷくでは無かったけれど、自分とは違って細くてしっとりとしていた。


今朝の満員電車で玲の後ろへくっついた時は、仄かに甘い香りがした華奢な身体は、それでも女子とは違う骨格を感じて、俺はそれにドキドキしてしまった。



小学校や、中学時代に沢山の女子から告白されたけれど、他の奴が興奮するほど良いものとは思えなかった。玲ほど可愛いと思えなかったし。そんな中、中学でも人気のあった女子のリーダー格であった小沢に呼び出されたのは、中二の終わりだっただろうか。


怠いなと思いつつ呼びつけられた空き教室へ行くと、小沢が思いもしない事を言った。



「平野ってさ、女子より男子の方が好きでしょ。私、自分がそっちだから見てて分かるんだ。それに私、彼女居るしね。まぁ男子より女子の方がこういうのは誤魔化せるけど、お互いに色々モーション掛けられて面倒じゃない?


そこで提案があるんだけど。私たちこれ以上、他の人たちに告られたり恨まれないように、付き合ってるフリしない?もう、私告られるの断るの面倒だし、彼女も可哀想だし。どう?悪い話じゃ無いと思うけど。


適当に廊下で話とかすれば、直ぐに噂なんて広まるから、定期的にそれやっとけば大丈夫だと思うんだ。もし承諾してくれるんなら、平野の好きな相手とダブルデート出来る様に工作してあげても良いけど。


あ、私の彼女に手を出す様な男は殺すから呼ばないで。」



俺は肯定も否定もしなかったけれど、その提案を呑んだ時点でそうだと言ったも同然だった。






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