琥珀色の少女

花楠彾生

プロローグ

 春が死んで、三度目の夏が来た。

「気分はどうだ?」

 シワ一つ無い白衣を纏う人間。長い髪を一つに結ぶ長身の女が言った。

「普通」

「そうか」

 真っ白な四畳半ほどの部屋。何も無いその空間に声は溶けていく。

 女はその長いポニーテールと白衣の裾をはためかし身を翻した。足早に出ていく彼女は憂いていた。

 研究室に戻った女は、カレンダーを指でなぞりながら言った。

「後一ヶ月でこの夢も終わってしまう」

 研究室内に居た三人の研究者は、口々にこう言った。

「あれは夢では無い」

 女は溜息をつくも、呆れたように、

「そうかも、ね。またしっかりしたモノを作れば良いわ」

「そうさ。我々は世界一の研究者だからね」

 部屋の温度が上がった気がした。


 夕刻。女は研究所の敷地内である小さな池へ足を向けた。ここは研究の失敗作を投げる場所。薬品では無い研究物だ。この池には底が無い。彼女はここを、『古墳』と呼んでいた。

 女は一枚の写真を取り出した。被写体は満面の笑みで写る美しい少女。

 女はそれを握り潰すと、古墳へ投げ入れた。写真は小さな弧を描いて池の中心へ落下する。そして、何かに引っ張られる様に深い池の奥へ沈んで行った。

 写真に写っていた純真無垢な笑みを浮かべる少女は、失敗作と見なされた。

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