最終話 終わりの時を迎えました
そして、長い時が流れていった。各王たちにも、それぞれの時間が過ぎていったのだ。
悪魔王は番を目の前で奪われ、あんなに情熱を燃やしていたアンジェリーチェに対して何も感じなくなっていた。しかし腹に穴が空いたまま死ぬことすら許されなくなったアンジェリーチェと共にいるしかない。そうやって罪を償っていればいつかまたあの白い蝶の魂に会えると願って。
また、自身の番である不死王を裏切ってまで悪魔王と一緒になりたいと願っていたアンジェリーチェもぽっかりと空いた腹の穴を見るたびに後悔にかられていた。あんなにも優しく深く自分を愛してくれていた不死王を裏切り愛想を尽かされた結果がこれだ。彼が許してくれるまでこの腹の穴から血が吹き出ることはないだろう。
時癒王はラメルーシェが守ってくれた番の魂を再び神の元へ返し、この世に生まれてくる日を待っていた。
不死王は時折悲しそうに遠くを見つめるが、彼の気持ちがどれほど複雑かは誰にもわからない。だが、しばらくすると不死王が柔らかい感情を顕にするようになる。それはーーーー。
「あーい!きゃはっ!」
その日、小さな命が生まれた。プラチナブロンドの美しい髪と、誰もが羨むようなエメラルド色の大きな瞳をしたその小さな命はにこにこと笑っている。
「おぉ、我を見て笑ったぞ。この骸骨を見ても臆さぬとはなかなかの大物だ。ほら、我の指を握ってくれた……うーむ、これが人間たちがよく言う“孫は目に入れても痛くない”と言う可愛らしさか……」
まるで初孫を愛でるかのように不死王が呟き、その周りでは小さな妖精たちがいそいそと何かの準備に勤しんでいた。
「君はいつの間におじいちゃんになったんだい?」
「いや、妖精王よ。それくらい可愛らしいということだ。さすがにこんな骸骨が祖父ではこの子が可哀想だろう」
カラカラと笑う不死王に妖精王は「俺としては、不死王の事を“義父上”と呼んでもいいけどね」と苦笑する。
「そうですよ!」
ふわりと、プラチナブロンドの髪が揺れた。最大の大仕事を終え、疲労と安心感で気が抜けてベッドに横たわっていたその人物がむくりと起き上がり不死王に笑顔を向けたのだ。
「ラメルーシェ様、まだ動かない方がよろしいのでは」
「そうだぞ、ラメルーシェ。今はゆっくりと休まないと」
慌てふためくふたりに、ラメルーシェは「おふたりは過保護過ぎです」と笑ったのだった。
***
あの日、人間として死んだはずのラメルーシェ。だが、その命は消えることも輪廻に戻されることもなかった。
言葉もなく立ち尽くしていた妖精王は、自分の腕の中でピクリとも動かないラメルーシェを強く抱きしめ、そして冷たくなったその唇に自身のそれを優しく重ねた。
すると、ラメルーシェの胸に刻まれた妖精王の印が、淡く輝き始めたのだ。
『これは……』
妖精王がラメルーシェを愛した印。もう二度とこの魂を見失わないようと刻んだ証が輝き、その光は体から引っ張り出されたラメルーシェの魂を繋ぎ止めた。
神は驚きを隠せなかった。自分は何もしていない。後悔はしたが、もう諦めようとしていたのに。と。
今なら、誰かが外から力を加えればラメルーシェの魂を体に戻せる。そう確信した。だが、生と死の理を覆すとなればそれなりの力がいる。王だとしても命の危険だってあるだろう。
妖精王は戸惑う事なく自身の命をかけようとした。だが、それより早く動いたのが不死王だったのだ。
「不死王!なにを……?!」
「……妖精王、君は命をかけてはならない。ラメルーシェ様には、君が必要なのだよ」
こうして不死王は命を削ってしまったものの、ラメルーシェは助かったのだった。
ラメルーシェは今も不死王に深く感謝している。
「あの時、不死王様がお力を分けて下さったから私は生きているのです。命をかけて下さった不死王様はもはや私の父親も同然です。お父様と呼ばせて下さい!
それに……その子もきっと不死王様が祖父になって下されば喜びますわ」
「俺も同じ気持ちだ。生と死に携わる不死王だったからこそラメルーシェは生き返れたと思うんだ。俺だったら……下手をすれば俺は命を失いラメルーシェに悲しい思いをさせるところだった。だからこそ命をかけてくれた不死王には感謝してもしきれない。もしも君が嫌でなければ、俺たちの家族になってくれないか」
「家族に……?「あーい!」えっ」
不死王の指を握ったまま、もう片方の手を元気よくあげる小さな赤子の姿に、不死王は骨だけの体にあたたかいものが流れた気がした。
こうして、実の親と婚約者から虐げられて棄てられてしまったラメルーシェは、優しく愛してくれる夫にかわいい子供。そして見守ってくれる父親を手に入れ、幸せに暮らしました。
終わり
【完結】不気味な痣が気持ち悪いと婚約破棄されましたが、この痣は妖精王に愛された印でした。 As-me.com @As-me
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