第13話 “王”たる者たち

「不思議に思った事はないか?」


 ふと、視線を動かしてから不死王が口を開いた。


「なにがだい?」


 瞳に光を取り戻し、少しだけ心の落ち着いた妖精王は親友の言葉に首を傾げる。


「君の花嫁殿の事だ。

 彼女の魂はとても美しく清らかでいつも輝いている。それは力のあるものから見れば明らかだ。妖精王の魂の番であることも我々“王”と名のつくものならすぐにわかるくらいだ。


 そんな魂の持ち主が、転生の度に不幸に命を落とすこと事態が異常なんだ」


 不死王とはその名の通り“死を司る”者である。魂の在り方については妖精王よりもずっと詳しかった。


 転生とは魂の救済。美しい魂が理不尽な死を迎えた場合、次の転生では幸福が上乗せされる事になっている。例え神の定めた輪廻転生先がランダムだとしてもだ。


「それなのに、君の花嫁殿は転生する度に人間に命を散らされている。それも残酷な方法で、だ。それに今回も……我にはまるで花嫁殿が人間を憎むように仕向けられている気がしてなら無いのだよ。


 力の強い誰かが介入しているとしか思えない所業だ」


「ラメルーシェが人間を憎むように……?なぜそんな……」


「ひとつ聞きたい、妖精王よ。

 花嫁殿の存在を我以外の誰かで……今のラメルーシェ殿に生まれ変わる前からその存在を知っている者はいるか?」


「ーーーーいるよ。地獄の管理者、“悪魔王”だ」













 この世界には輪廻転生の神がおり、その下には4人の“王”がいる。




 自然を統べる“妖精王”


 生き物の死を司る“不死王”


 魂を選別する管理者“悪魔王”


 地上に癒しを刻む“時癒王”



 それぞれの王にはそれぞれの役割がある。各王が自分の気持ちのままに自由に動くことが世界を回していると考えられている。


 妖精王は森を育み、そこに生まれる妖精たちを育てる。妖精たちが育つことにより森がまた豊かになる。だがその感情により自然が反応するため時折災害が起こるが……それもまた神が地上の生き物に与えた試練でもある。突然に起こる自然災害の前ではみな平等に命を奪われるのだ。


 不死王はその名の通り死を操る。かなりの気分屋でもあるが、生物が死後にその体が腐り土に返るのは不死王がその生物の死を認めているからである。どんな生き物も死んだ後に自然に返りひとつとなる。魂が抜けた後の生き物だった物はすべからく平等だ。だが、不死王がその“死”を止めた場合は死ぬ事は許されない。永遠の苦しみが待っている。それは不死王が輪廻に返る価値の無いと判断された場合のみに許された特権だ。滅多に無い事とはいえ不死王が飽きるまでオモチャにされて後に待つのは無だろう。


 悪魔王は体から抜け出た魂を選別する。生き物の魂はその体から離れた後、劣悪な魂と清らかな魂に分けられるのだ。劣悪な魂は地獄に落としその罪を償うまで拷問され、許された後に輪廻へと返されるのだが、どれほどの期間の苦しみで許されるかは悪魔王の気分次第だ。悪魔王も不死王に負けないくらいの気分屋なのである。


 時癒王は災害などにより傷付いた地上を癒す存在だ。人間に荒らされた土地も対象だが、災害により人間が減り自然が増える。そこに実りがあればまた人間を含む生物が増える。こうして妖精王が災害にて減らした人間から選別された清らかな魂を転生へと導いて増やすのだった。いくら元が清らかな魂であってもその生まれや育ちで人間はいくらでも劣悪になる。だからこそ少しでも良い魂をと、選別が行われているのかもしれない。まるで女神のように感じられる時癒王だが、その実りの中に毒草が混じるかはこれもまたその気分次第なのだ。もちろんその毒草が生き物の進化にも関わる可能性があるのだが、それに人類が気付くかどうかは誰にもわからない。


 どのみち、どれだけ良い環境をと願っても結局は神の采配に左右されるが王たちが唯一覆せない神の決定に結果を委ねるしかなかった。


 こうやって世界は回っている。魂を集めて輪廻転生させる神は皆に平等であるが、また神も気まぐれなのだろう。時には気に入った魂のささやかな願いを叶える事もあったのだ……それがラメルーシェの魂。だが、神が願いを叶えた魂だからこそ、毎回不幸に命を落とすのは不自然だった。







「それについては、妾も詳しく聞きたいわ!」


 カツン。と、足音が響く。


 紅く燃えるような髪は地につくまで長く、それを蛇のようにくねくねと揺らしながら血のような赤い瞳をしたひとりの美女がそこにいた。シンプルなマーメイドドレスも真っ赤ではあるが、彼女はその感情により髪や瞳、それにドレスの色も変化するという特徴があった。赤は怒りの色。冷静さは欠片も感じられない色だ。


「“時癒王”。なぜここに?」


 名を呼ばれた美女はキッと目をつり上げ、紅く塗られた唇が裂ける勢いで叫んだのだった。


「“悪魔王”を探しているのよ!あいつ……妾の番の魂を盗んだのよ!」と。





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