第14話 2/10 友達の大切さ


2023年2月10日 金曜日 第2週目

 朝の会5分前。

 平野さん以外の全員が学校に来ていたけど、俺たちの空気は今までにないくらいに暗かった。

 平野さんが不合格だったことはみんなも聞いたらしい。

 いつもなら明るく話題を振る島田さんも今日ばかりは静かになっていた。

 そして、俺たちは明るい会話をすることなく、朝の会のためにそれぞれの席へと戻った。













放課後

 平野さんは今日も来ることはなかった。

 俺たちはそれぞれにやることがあると言って、全員別々に変えることにした。

 まあ、俺の場合は本当なら一緒に帰ってもよかったのだけど、今の雰囲気的にきっと気まずくなるだけだろう。

 俺は、月曜日までの課題を誰もいない教室で1人やり始めた。











 時刻は午後5時になろうとしていた。

 6時間目の授業が終わってからだいたい2時間が過ぎている。

 生徒の最終下校時刻の案内が流れた。

 俺は、やっていた課題をバッグに詰めると鍵を職員室に返した。

 下駄箱で自分の靴をとって校門へと向かうと、そこには知った顔の人物がいた。


「やっときたね」

「奥川さん……」


 奥川さんは真剣な表情で校門の横にもたれかかって立っていた。


「ちょっと、これから時間ある?」


 俺は、こくりと頷いて2人で歩き始めた。










 場所は先週にデートの練習として平野さんと来たカフェだった。

 俺は奥川さんに案内されるまま奥の席に座った。

 そして、俺はどうしたらいいか分からずに奥川さんの出方を伺った。


「何にする?」


 奥川さんのおすすめのカフェということもあって手つきが慣れていた。

 対して、俺はここに来るのは2度目だったので、奥川さんと2人でいるということを考えないとしても少し緊張感があった。


「オレンジジュースで」


 俺は、少し小さめの声で委縮しているのがまるわかりで答えた。


「おっけい。私はコーヒーにしようかな」


 そういうと、奥川さんは店員さんを呼んで2人分の注文を伝えた。



 カフェにつくと、すぐに話が始まるかと思えばそういうことはなかった。

 自分から誘ったにも関わらず、全く話しかけてこようとしない。

 何が目的で俺を呼んだのだろうか。

 俺は不思議そうに奥川さんを見つめた。

 対して、奥川さんはすごく落ち着いている雰囲気だった。


「ねえ、なんで呼んだと思う?」


 やっと、話を始めたかと思えば質問をしてきた。

 正直、こっちが聞きたいくらいだ。

 ただでさえ、みんなの気持ちが暗いこのタイミングに2人で何の話をするつもりだったのだろうか。


「分からない……」


 奥川さんの目はまるで怒っているかのようにも見えた。

 少なくても不機嫌なことは確かだった。

 でも、こんな態度を取られる心当たりはない。


「何で俺を呼んだの?」


 俺はこのままではこの沈黙が終わりそうにないと思って自分から恐る恐る聞いた。

 そして、奥川さんははぁと小さなため息をついて正面を向いて話を始めた。


「ねえ、桜ちゃんのことは聞いたよね」

「うん……」


 俺はこくりと小さく頷いた。

 すると、奥川さんはばっとその場で立ってこっちを向いた。





「なんで優気までめそめそしてるの!こんな時こそ優気がしっかりしないと‼」





 この場の雰囲気がガラッと変わった。




「それは……」


 奥川さんの言う通りだと思った。


「桜ちゃんのお母さんから聞いたんだけど、桜ちゃん、今1人で自分の部屋に籠っているらしいよ!」

「そうなんだ……」

「それに、病気の件だって……」

「病気……?」


 病気の件ってたまに学校を休む先天性の病気ことなのか。


「いや、それは何でもない!とにかく、優気はこのままでいいと思っているの?」

「それは、違う……」


 俺は、このままではダメだけど何も行動を起こせていない自分に後ろめたさがあって奥川さんの目から逃げるように返事をした。

 でも、奥川さん逃がしたままにするような人じゃなかった。


「こっちを見て!」


 俺は、ビシッとした声に一瞬びくっとしながらも奥川さんの目を見た。

 すると、奥川さんは今までにない真剣な表情で顔も何だか少し熱くなっていた。



「優気は桜ちゃんのことが心配なんでしょ!」


「うん」


「桜ちゃんのことが大事なんでしょ!」


「うん」


「桜ちゃんのことが好きなんでしょ!」


「うん」


「桜ちゃんのことが大好きなんでしょ‼」


「うん」



 俺は、奥川さんに言われたことに対して自分の心の中から声を出して必死に返事をした。

 そして、奥川さんは軽く息を吸って俺の目をもう一度しっかりと見た。




「なら、やらないといけないことがあるでしょ‼」




 沈黙が訪れる。


 このカフェ全体が別世界のようだ。

 でも、この空間はいつまでも続かない。

 この沈黙は俺が破らないといけない。



 ガラッ。



 俺が思いっきり椅子を引いた。

 そして、財布から千円札を2枚抜いてテーブルの上に勢いよく置いた。


「ありがとう。俺、行かなきゃいけないところがあるから!」


 俺はそう言うと、横に置いた荷物をがばっと体いっぱいに抱えて急いでカフェを後にした。












がんばれ。

桜ちゃんを助けてあげられるのは優気だけだから……










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